25. 純血と迫害の国
アクセスありがとうございます。
ギルドは、討伐した魔物などを解体して素材にする解体屋と提携している。
冒険者の解体技術にも限界があり、手に負えない大型の魔物を長年の経験と最先端の技術、最高の設備で品質を落とさず魔物を解体してくれるのだ。
その分、料金はかかるが、素材の売却金額で十分に賄える。希少な素材ほど高く売れるため、料金がかかっても解体依頼をする冒険者は多い。
リックたちはギルドに戻った後、その解体屋に〝冥峰竜〟の解体を依頼した。
超貴重な竜ということもあってか、ギルド職員含め、冒険者たちが騒然としていた。リックたちは疲れていたため、気に留めることなく適当に切り上げて解散した。
解体にはかなりの時間がかかった。翌々日、リックとカンナの二人は、解体した竜の素材と受け取りに解体所へと足を運んでいた。
買取手続きのため、リックたちは待合室で待機している。
「……。冥峰竜を討伐したことも現実離れしていたが」
「まさか素材の買取価格も現実離れしてたなんてね」
待合室にギルド職員が来るまでの間、知り合いの解体職人から渡された、今回の素材と価格が記された紙に目を通していた。
「まあ、山分けにしても豪邸が立つくらいにはなるな。カンナは今後のことを悩まずに済むくらい安泰だし、俺の冒険者活動も楽になる。これなら防具の修理も支払える」
今後の心配がなくなるだけで心に余裕ができる。それだけもリックは十分に満足だった。これで冒険者を引退しても心配ないな、と考えているくらいに。
「リック。お願いがあるんだけど、さ」
「ん? なんだ?」
「冥峰竜の素材と買取金額、全部とは言わないから私に預けてほしいの!」
カンナはまっすぐな目でそう言って頭を深々と下げた。
「お、おい。いったいどうしたんだよ」
「この素材でリックの新しい防具を作りたいの! 素材も資金も十分にある。これなら魔核石を圧縮加工できる機械も買える! そうたら、もっと良い装備を作ってあげられる」
「ちょっと待て。魔核石ってそんな加工ができるのか?」
「できるよ。私んちは今まで機材がなかったから削る加工しかできなかった。本当なら岩竜の魔核石も圧縮加工ができたら、ってずっと思ってた」
「……、」
「ダメ、かな?」
「わかった。カンナにすべて預ける」
リックは迷うことなくカンナに託すことを決めた。装備も破損しているリックにとって嬉しい申し出ということもあり、また冥峰竜の素材を使った装備に興味が湧いた。
「え? いいの?」
「いつも世話になってる職人からの申し出だからな。むしろ俺がお礼をい――」
リックが言い切る前に、カンナは勢いよく手を握られる。
「ありがとう! 絶対良い防具を作るから! 今後の生涯、買い替える必要のない一品にして見せるから! もちろん、武器だって良いの作るから!」
「あ、ああ、よ、ろしく頼む」
すごく嬉しそうな笑みを浮かべながらぶんぶんと手を上下に振るカンナ。今まで以上に積極的な彼女の姿に圧倒されるリックは反応が遅れた。
「それじゃ、素材は半分くらい残して、あとはリックの装備に割り当てちゃおうか」
「カンナがそれでいいなら。任せるよ」
「なら、このくらいの金額を私たちの懐に入れちゃおう。素材があるから費用そんなかかんないし、装備に使う術式も一から作る必要もないし、これくらいかな?」
カンナは一瞬で計算した金額を紙に書いていく。
「余ってからでいいだろ」
「えっ、でもまた当面の間、冒険に出られなくなるよ?」
「そのくらい平気だ。多分」
「多分って……」
が当面の計画を立てていると、待合室のドアが開いた。ギルド職員が来たのかな、と二人が視線を送ると、そこにいたのはギルド職員ではなく、小太りの男だった。
「あの、誰ですか? 部屋を間違えたのでしょうか?」
リックがそう訊ねると、
「いえ、ここで合ってますよ。リックさん」
小太りの男はそう言って礼儀正しくお辞儀をする。その挨拶の仕方にリックは見覚えがあった。貴族の挨拶だ。そして、男の胸に最近みたことのある紋章があった。
「申し遅れました。わたくし、王都にて商売をしています。サブルトラック商会のオッサム・サブルトラックとお申します。以後お見知りおきを」
嫌なことは続くものだ。できれば杞憂で終わってほしかった。本当にサブルトラック商会が接触してきた。まさか商会のトップがここに来るとはリックは思わなかった。
それと護衛の冒険者二人。おそらく王都から遥々やってきたのだろう。
「リック・ガルートンです。よろしくお願いします」
「カンナ・ウォールマンです」
リックたちも挨拶を返した。
「これはこれはご丁寧に。さて、早速ですが、本題に入らせてもらいます。今回ここに来たのはほかでもない。あの竜の素材をわたくしに売っていただけませんか?」
「……、あの、なんで竜のことを?」
カンナがそう問いかけると、
「なにを言いますか。今配信で冥峰竜を討伐した映像が流れているじゃないですか」
オッサムはそう答えた。
「えっ!? えっ……ああ。そういえば、山脈警備隊の人がそんなことを言ってたような」
「疲れてて適当にOK出した気がするな」
昨日のことを思い出し、リックとカンナは遠くを見つめた。
「それで、買取価格なのですが。なにぶん希少な素材ですので頑張らせていただきました」
そんなリックたちを無視して、買取価格とその売却手続きの紙を提示してきた。
リックたちは前に出された紙を手に取って買取価格を確認する。売却した場合、ザルツブルグで売るより三倍の金額と破格の値段だった。
誰が見ても卒倒してもおかしくはない金額だ。だが、そんな金額を見てもリックとカンナは顔色を変えず、ただ金額の数字を眺めている。
「いかかですか?」
「その前に確認したいことがある」
「えっ? ああ、なんでしょう」
「ここにいるということは、ギルド職員には話を通しているんですよね?」
「はい。もちろん」
「では、本来なら俺たちが取引するこの場で、ギルド職員とは話をつけているということなんですよね?」
「はい。そうなりますね」
「なら、なぜギルド職員がいないんでしょうか? 本来なら外部の商会が冒険者と直接取引する場合、ギルド職員の立ち合いの中、とり行われるものです。なぜいないのですか?」
冒険者が外部の商人と商談する場合、あらゆるトラブルを避けるため、ギルド職員が立会人として加わる。詐欺や買い叩き、こちら側が一方的に不利益になる契約など、そういったものから冒険者を守るために必ず仲介する壁を設置する。
外部の商人は、ギルドに申請してからではないと、冒険者とは交渉もできないようになっている。それは冒険者も同じ。もし守らなかったら助けてもらえない。
ギルドにとって冒険者は都市運営には必要不可欠な人材だ。だからこそ冒険者には全面的に協力できる体制が整っている。これほど頼れるサポートはほかのギルドでは受けれないだろう。なのに、そんな頼れる仲介役がこの場にいないのは明らかに不自然だ。
「仲介人がいない以上、俺たちはこれ以上の取引には応じれない」
「そういうと思いまして。申請書もちゃんと――」
「偽造だな。ザルツブルグのハンコは少し特殊でな。形を変えれる細工が施されている。それは去年の物だ。それと、ハンコで押された紋章はほのかに光っている」
「手厳しいですねぇ」
指摘されてもオッサムは動揺を一切見せず、無害そうな笑みを崩さなかった。
「そこをなんとか。同族同士、仲良くいきましょう。リックさん。カンナさんも、あの防具の製作者ですよね? 技術を売ってくださるならさらに倍の金額をお支払いしましょう」
オッサムはさらに値段を釣り上げた。しかし、リックとカンナの二人は顔色を変えず、首を縦に振ることはない。それに、リックは今の言葉を聞いて取引をしたくなくなった。
同族同士。この言葉を意味するのは、やはり彼がミガル王国の住民というべきか。
リックは溜息まじりに口を開く。
「言っとくが、見た目はこんなんだが、俺は人間とドワーフのクォーターだ」
「ちなみに私も。リックの場合、エルフの血も入ってるよ」
リックに合わせてカンナも申告する。これはザルツブルグ恒例の確認作業だ。反応次第でオッサムと護衛の冒険者二名への対応が決まってくる。
「そうですか」
オッサムは淡白な反応を示し、テーブルを指で数回ほど叩いたのち、
「それじゃ、さっさとこの紙にサインしろ」
柔和な笑みを浮かべながらそう言って、言葉を続ける。
「まったく、紛らわしい。混血とわかっていたらこんな交渉もしなくて済んだ。汚らわしい種族との商談もそうだが、それと交わろうと考えた人間の子など論外だ」
「あからさまだな。もうちょっと隠す気概を見せると思ったが」
「ふん。どうとでも言え。どうせお前らにはサインする以外の道はない。ほれ、どうした? 混血の身分では手に入らない金額だ。素材と技術を渡すだけで手に入るんだぞ?」
オッサムは強気な姿勢を崩すことなく、サインを促すようにペンを強く置いた。
ザルツブルグがミガル王国に属しているのにもかかわらず、ミガル王国の命にも従わない理由が、オッサムのような異種族を嫌っていることが上げられるだろう。
なぜならミガル王国は、〝純血と迫害の国〟として世界中で有名なのだ。
数百年前、七代目国王エイムズ・ミガルの政策によって人間以外の種族を迫害するようになった。元々、多民族国家であったのにも関わらず、それは強行された。
人間以外の他種族は人権剝奪がされ、多くの資産を持っていた者はすべて奪われて国外追放、なにもないものは奴隷へと落とされた。中には材料として狩りの対象にもなった。
ミガル王国が、なぜそんな政策行ったか、その背景には元から差別思想が強かった、が根底にあるとされ、それが七代目国王エイムズ・ミガルによって成し遂げられた。
その政策に対してまっこうから立ち向かったのが、ザルツブルグを創った者たちである。ブルース地方の豊富な資源を駆使して、実績を作り、売買、他国との交流、ミガル王国の優秀な人材の引き抜き、買収などをして、今のような体制を作り上げた。
それもえげつないほど短期間でそれが実行されたという。
ザルツブルグが戦力過多となっている現在、主導権を握られたミガル王国は多民族国家を謳うようになったが、一度根づいたものは簡単には消えないらしい。
それが、今リックたちの目の前にいる商人が良い例だ。
「早くしてください。もう素材の搬出を始まっているんですから」
オッサムは面倒くさそうにそう言った。
「けっこう強引なんですね。それが商人のやりかたですか?」
「おおかた、大きな金額を提示すれば簡単に買い取れると高を括ってたんだろうな」
リックとカンナは冷静に言いながら、後ろで剣に手をかける冒険者たちを警戒する。
「いつまでその調子が続きますかな? 身の安全のためにサインしたほうが賢明かと。あなたたちの後ろにいるのはB級冒険者ですよ?」
オッサムの言葉に反応するように、リックたちの後ろにいる冒険者二名が笑う。
それでもリックとカンナの二人は落ち着いている。B級冒険者、おそらく王都基準での実力を持ち合わせているらしいのだが、残念なことにザルツブルグの平均は高く、王都基準ではC級いくかいかないかくらいの強さでしかない。
「カンナ。後ろのやつやれそうか?」
「大丈夫だと思う。いつでもやれるよ」
F級の階級だが、C級以上の実力を持つカンナはそう言ってのける。
「んじゃ、俺たちの答えだが」
「出なおしてきやがれ――」
リックとカンナの二人が同時に立ち上がろうとした瞬間だ。
突然、ぬるっ、と背筋が凍りつくような殺気にも似た圧迫感が二人を襲い、それと同時にその気配が二人の肩を掴んで椅子に座らせた。
「ここで暴れちゃダメでしょ? お二人さん?」
気配が優し気な口調でそう言うと、後ろにいたはずの冒険者二名はすでに気絶させられており、力なく床に転倒したところだった。
刹那の出来事。音もなく、誰にも気づかれないうちにすべてと終わらせていた。
読んでくださりありがとうございます。




