23. 冥峰竜
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岩竜とは、鎧を彷彿とさせる分厚く、堅い外殻を持つ飛竜だ。
生態はほとんど解明されていない。飛竜であるのにもかかわらず、飛ぶことは少なく、洞窟の深部や岩場で確認される。そして、重厚感のある姿にしては動きが早い。
その竜から採れる素材は、ほぼ鉱物と変わらず、あらゆる形の武具に変化する。骨も内臓も余すことなく素材として高値で売られるのだ。
そんな竜だが、岩竜はまだ若い個体だ。さらに年を重ねた個体は呼び名が変わる。
見分ける方法は外殻の色。若い個体は明るい灰色をしているが、年数を重ねた竜の外殻は徐々に色が暗くなり、濃くなっていく。そして鋼のような色になる。
そこまでいくと特殊個体に分類され、さらに一回り、二回り大きく成長し、生態や形態が変化する。〝色づき岩竜〟と呼ばれるものがそれに該当する。
リックたちの前に現れた竜はその〝色づき岩竜〟と呼ばれる存在だった。
「グオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――ッッ!」
鋼色の外殻に、仄暗い空のような深く渋い青色を帯びた岩竜。竜専用の鎧を装備しているかのような重厚な外殻。体中に血管のように走る光の線。その竜は〝冥峰竜〟と呼ばれる百年の間に見れるかわからない伝説の竜が現れた。
「マ、ジか……こんなところでお目にかかれるとは」
リックは目を見開くほどに驚いている。前に戦った岩竜より格上の竜。だからこそ、これから起こす自分の行動が決まった。
「――〈アウェイクン〉ッ! 〈プロテクター〉ッ!」
リックは意識を覚醒させる魔法と、防護壁を纏わせる魔法を全員に行使する。
「全員! 死にたくなければ今すぐここから離脱しろ!」
意識を取り戻していく冒険者。緊急事態だというのに呑気に竜を眺める様子に、イラっとしたリックは足元にいる冒険者の尻を強く蹴った。
「さっさと逃げるんだよ!」
ようやく状況を把握した冒険者は悲鳴を上げて外に向けて走り出した。
だが、竜は全員の逃走を待ってくれない。
冥峰竜の堅く閉ざされた口がゆっくりと開き、青色を帯びた火が漏れる。
「――ッ! ブレスがくる! 全力で回避しろ!」
全員を守るには距離があった。リックは大盾を構え、
「――〈フルヘイト〉ッ!」
意識をこちらだけに集中させるさせるためにスキルを行使する。
だが、スキルの手応えがなかった。
「〈フルヘイト〉が通用しないっ!」
どんだけ強いんだ、とリックは奥歯を噛みしめる。
そして、冥峰竜が熱戦を放った。ブレスとは比べ物にならない圧縮された熱だ。それは射線はリックから大きく逸れ、身動きが取れないでいる冒険者に向かっていった。
「危ない!」
直撃する寸前、カンナが冒険者を突き飛ばした。だが、そのせいで彼女は射線上に立ってしまい、熱線が直撃してしまった。かなり強力にかけたはずの〈プロテクター〉は圧縮された熱に耐えられず、一瞬にして破られて彼女の体に直撃した。
「カンナッ!」
リックはもっとも起こってほしくなかった事態に尋常ではない悪寒が走る。瞬時にスモークグレネードをあるだけ使用して目晦ましをして、カンナの安否を確認する。
「カンナッ、大丈夫か!?」
「な、んとか……生きてる程度には……」
虫の息だが、カンナは生きていた。熱線に被弾する直前、彼女は咄嗟に身をよじって回避を試みたところはリックでも確認できたが、完全な回避とはいかず、右半身に熱線を受けて酷い大火傷を負った。それでも九死に一生を得たのは確かだ。
「肝が冷えたぞ――〈ヒーリングウォーター〉」
水と治癒魔法との複合魔法。おもに火傷に使用される治癒魔法だ。リックは今回、氷にならないぎりぎりまで水温を下げ、冷水として使用している。
「わ、たしのことはいいけら、リックは逃げて……」
「なにを言ってるんだっ! 俺もナットたちも泣くぞ!」
「へへっ……、一度言ってみたかったんだぁ」
カンナの弱々しい声。彼女のわりと本気で言ったかもしれない言葉にリックは気が気ではない。今も気を抜いたら尽きてしまうかもしれない命に、冗談として笑えなかった。
「軽口が叩ける程度には平気なようだな。――チェック」
ある程度、冷やしたところでリックは〈ヒーリングウォーター〉を使用しながら、魔導具の、高位の治癒術式が練り込まれた結晶を使用して、一気にカンナの火傷を完治させた。
「ありがとう。リックのおかげでなんとか生き延びたよ」
「安心するのはまだ早い」
「リック! なにかくる!」
カンナの叫びにリックは冥峰竜に視線を向けると、煙の中から青白い光を確認する。
熱線が来ると理解したリックは大盾を構え、守るスキル〈ガード〉を使用すると同時に、カンナに〈ウォーターウォール〉という水の壁を生成する魔法を行使した。
直後、青白い熱線がリックの大盾に直撃した。
飛び散る火花。圧縮された熱が大盾に沿って花のように広がる。リックは地面に足が埋もれながらも、押し切られそうなほどの熱線を耐え切った。
周囲の岩が赤熱する中、変形することのなかった大盾からリックは顔を覗かせる。
「やるしかないか。冒険者は全員逃げたことだし、思う存分に暴れられる。カンナはそこで待っててくれ。いちよう、〈プロテクター〉は張っておくが、気をつけてくれ」
「うん」
リックは武装パックから魔導軽機関銃〈ヴォルグ04〉を装備し、走り出す。真正面からではなく、回り込むようにして魔導軽機関銃を発射速度一五〇〇発の設定で撃った。
魔法障壁を応用して生成される魔力弾。かなりの威力を誇る銃だが、冥峰竜の前では火花が散るだけで外殻に傷一つつく気配がなかった。
「なら、散弾モードならどうだ?」
魔導軽機関銃を散弾モードに切り替え、冥峰竜の懐に滑り込んで散弾を乱射する。だが、竜の中では比較的やわらかいはずの腹回りも効果はなく、火花が散るのみだった。
「なら、榴弾モードならどうだ?」
竜の踏みつけ攻撃を回避して距離を取ったリックは榴弾モードに切り替えて発射する。
発射された爆裂魔法付与が施された魔力弾が、竜の頭部に直撃すると同時に爆発した。
すると、竜は声を上げ、よろめいた。リックは瞬時に榴弾モードの魔力弾を連射し、頭部、両翼、腹部を的確に当てた。
「効いた、というより、衝撃のほうか。外殻に傷はなし――なら」
攻撃が効かない相手を冷静に分析をしながら、リックは装備を片手戦斧に変更する。
全速力で肉薄し、外殻の間を狙って斬り込んだ。
魔導具の片手戦斧の出力を全開にして、勢いをつけた大振りの一撃。深々と入った片手斧。固まりかけた粘土のような肉質を斬り進み、完全に振り切った。
飛び散る赤黒い鮮血。竜の咆哮が響き渡り、洞窟が振動している中、リックは冷静に冥峰竜の全体と見ながら、竜の知識から体の構造を照らし合わせ、把握する。
「普通に隙間の肉ならいけるのか」
攻撃手段を見つけたリックは、外殻の隙間を性格に狙って片手戦斧で斬りつけた。
冥峰竜につけ入るスキを与えず、竜が動いて外殻の隙間が大きく開いた部位を狙い、リックは攻撃していく。
瞬間、動きが変わったのを察知したリックは竜の懐に飛び込み、高出力スラスターを全開にして、盾を構えて跳躍する。
「――〈シールドインパクト〉ッ!」
弾丸のごとく飛んだリックは竜の腹部にめり込み、スキルの爆発力で冥峰竜を空中に突き上げる。さらに火魔法の最大出力の特大〈ファイアーボール〉を撃ち込んだ。
これで冥峰竜を倒せるとリックは思っていない。竜の体重で圧殺される前に重力魔法と風魔法を同時に行使して距離を取る。
竜が地面に降りた瞬間、土埃が立ち、姿が隠れてしまった。
刹那、瞬間移動でもしてきたかのような竜の突進がリックに直撃する。その重々しい巨体に関わらず、魔剣士のような速度に意表を突かれたリックは反応すらできなかった。
「――ッ!」
宙へ突き上げられたリックは壁に激突し、飛翔した冥峰竜に右腕を噛みつかれた。
岩竜は鉱物を主食とする竜。その咬合力は計り知れない。その知識によって全身に冷水を当てられたような悪寒に襲われたリックは、
「パージッ!」
迷うことなく右腕の装備を切り離した。
手が離れたと同時に、グシャッ、とミスリルチタン合金の装備が空き缶のように噛み潰れたところだった。その光景にリックは内心で『フオオォォォォォォッ!?』と叫んだ。
だが、驚いていられず、リックは即座に気持ちを切り替え、周囲の空間を把握した。
高出力スラスターの出力を最大にし、リックは壁に向かって飛ぶ。そして、大盾をソリのように使い、事前に組んだルートを辿って洞窟内を円を描くようにして滑る。高出力スラスターと遠心力でさらに速度を上げ、壁の突起を利用して方向を変え、竜に突っ込む。
「――〈シールドダイブ〉ッ!」
スキルと風魔法の飛翔突進技。盾を構えた状態で風魔法で飛んで突進する捨て身の技。〈シールドタックル〉と同じだが、違いは地に足がついているか否かだけである。
通常より加速した〈シールドダイブ〉が直撃した竜は、くの字に曲がり、リックとともに地面に激突した。土煙が上がる中、リックは腰のメイスを装備する。
「終わりにしよう。〈蓄積装甲〉――〈闘気圧縮〉、〈闘気強化〉――〈闘気解放〉ッ!」
一連のスキルを発動し、起き上がろうとする冥峰竜の顔面めがけて振りかぶる。
「――〈チャージインパクト〉ッ!」
スキルを発動して、すべての力を乗せたメイスが冥峰竜の顔面に突き刺さる。
ガンッ、と堅く鈍い音とともに堅い頭部を破壊し、深々とメイスがめり込んだ。
「飛んでいけエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ――――ッッッッ!」
最後の力を引き絞り、リックはメイスを振り切った。
強風が吹き荒れ、冥峰竜が横なぎに数メートルほど飛んで地面に落下した。
リックは荒い息を整えながら、動かなくなった竜が絶命したことをスキルと肉眼で二度確認し、その場に仰向けで倒れた。
「な、なんとか倒せた……ああぁぁぁもう、無理」
力を使いすぎた脱力感から、リックは暗い天井を見た。
「リック! 大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄るカンナの声に、なんとかなったことにリックは安堵の息を漏らした。
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