19. ある日の兄妹
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ネイサン・フリークスと出会った翌日。セキネツ武具店の工房でカンナは自分で描いた設計図とにらめっこをしていた。
「……。なあ、カンナ」
「なに? お兄ちゃん」
椅子に座るナットの声にカンナは返答する。
「最近、リックの旦那とはどうなんだよ?」
「どう、って……一緒にパーティ組んで冒険にいったくらいだよ?」
カンナの言葉に、ナットは「カァ」と呆れたような声を上げた。
「そうじゃなくてよゥ。もっとほかにあるだろ? けっこう付き合い長いし、仲良しだし、普通なら特別な関係になってもおかしくないだろ。カレカノ関係とかさ」
「なにを言うかと思えばまたその話? 全然そういう関係じゃないし」
小指を立てながら問うナットに、カンナは設計図を眺めながら淡々と否定した。リックと仲が良いことを理由に、いつからかナットやボルトから茶化されるようになった。
「今までもそうだけど、仕事関係でしか絡みないのに、そんな関係に見えるのさ」
「そうかぁ? けっこうお似合いの関係に見えるけどなぁ? 傍から見たらそれにしか見えないけどなぁ? ご近所さんからよく言われるぜ? 最近どうなのよってさ」
「変なこと言わないでよ。それでどっちか片方が本気になったらどうすんのさ。今後の関係に支障が出るんだけど? 責任とれんの? リックにだけは迷惑をかけないでよね」
「そんな呑気なこと言ってると、リックの旦那がほかの女に取られちゃうぜ? 嫌じゃないのかよ。仲の良い男がほかの女と歩いてる姿を想像してみろよ」
ナットに言われるがまま、天井を見上げて想像してみるカンナ。
「うーん、実際どうなんだろうね。女の影とかまったく見ないね。あるとしたら受付嬢のアメリアさんじゃない? けっこう親しげだし」
あまりにも反応が薄いカンナに、ナットは溜息を吐いた。
「お前ってやつは……リックの旦那のこと好きじゃないのか?」
「もちろん好きだよ? けど異性として意識したことないし。その辺よくわからないよ」
「異性としてでなくとも好きなら、積極的にアタックしろって」
「……。今日はやけにうるさいなぁ。それならお兄ちゃんがさきに嫁さん連れてきてよ。前に婚約してた女に浮気されてから全然みつけてこないじゃん」
「俺のことはいいんだよ。まったく男を見つけてこないお前を心配してんだ。このままだと婚期を逃すぞ? 早めにリックの旦那と良い関係になれって」
「なにを期待してるんだか。変なお兄ちゃん。リックのこと考えないで」
「でもリックの旦那。いつか娼館にいきたい、とか言ってたぞ」
「言いやがったよ。人のプライベート。そりゃ男だからいくでしょ。むしろ今の時点でいってないリックにびっくりしてるんだけど」
呆れながら完成した設計図に手を加えるカンナに、ナットは肩を組んだ。
「だから今なんだよ。どんな女にも染まってないリックをカンナの虜にできるんだぞ? 絶好のチャンスなんだぞ?」
「リックはガード硬いよ。なにせ遠回しの夜の誘いを食事で断ってた男だよ」
「だからだよ。気を許してるカンナだからこそ、絶好のチャンスなんだよ」
「うーん。絶好のチャンスかぁ……」
カンナは設計図から目を離して、少し考えて答えを出す。
「やっぱ、いいや。そんな気になれないし、今のままでいいや」
リックへ抱く思いは、感謝と、仕事関係と、気の良い友人くらいである。良い関係を築いているのに、今更違う関係に発展させる気になれない。それにリックの気持ちも蔑ろにできない。もし男女の関係になるんだとしたら、ふとしたきっかけを得て自然に発展するだろうし、人に言われて進展する関係ではない。カンナはそう思っている。
そんなカンナを面白くなさそうに見つめるナットは「ケッ」と言葉を漏らした。
「私はともかくとして、婚期を逃してるお兄ちゃんのほうが心配だな。毎日、通ってる夜のお店のお気にの娼婦でも娶ったら? ベッドの下に隠してる薄い本と好み一緒でしょ?」
カンナのその言葉に、眉を顰めたナットは口を開く。
「お前のベッドの下に隠してる薄い本も、ずいぶんと親しげな――」
瞬間、カンナの拳がナットの鳩尾に突き刺さり、ガラクタの山へと吹っ飛んでいった。
「おぅ、おぅおぅおぅぉ…………」
「ったく、人の私物勝手に見んなっての」
「いや、カンナが先に見たから――――」
ナットは言い切る前にガラクタの山の中で気絶した。
「こっちは不可抗力だってぇの」
カンナは溜息を吐いてそう言った。
「なんだ? なんか物凄い音がしたけど?」
すると、リックが工房に顔を覗かせた。
「なんでもないよ。ちょっとした兄妹喧嘩」
カンナは溜息まじりにそう言うと、リックは「そうか」と淡白な反応をしながら工房に入ってきた。いつものように『豆腐メンタル』と書かれただぼだぼの衣服のリックを見て、カンナはナットに言われたことを思い出して顔をまじまじと見た。
中性的な容姿。女性と言われたら女性に見える。だが、長い付き合いからか、その顔立ちは男らしくも映る。きりっとした目つき。凛とした雰囲気が漂い、澄ました顔が際立った。容姿だけなら一級品だ。だが、カンナはそれ以上の感情を抱くことはなかった。
カンナは、彼に抱く感情がわからないことに肩を落とした。それと同時にナットに言われて考えてしまったことを馬鹿らしく感じ、気持ちを切り替えた。
「リック。新しい武器を設計したんだけど、どうかな?」
カンナはそう言って設計図をリックに渡した。
「片刃の剣か。機械仕掛けの魔導具か?」
「そうだよ。エネルギーを貯められる武器。リックのスキルと思う存分活用できるように設計したんだ。斬っても貯まるし、カートリッジも取り外し可能だよ。ストックもできる」
リック専用に設計図した武器。カートリッジ式蓄積魔導剣。刀身は一メートル以上、柄もそれに応じて長い。分厚く先にかけて細くなり、少し反っている。刀身の峰の根本には機械部品が取り付けられ、カートリッジをはめ込む場所がある。
大きさ的に両手で持つような武器だが、リックなら片手で軽々と振れる大きさだ。
「でも、どうして、頼んでもないのに武器を製作しようとしてるんだ?」
「ほら、剣一本壊されてたでしょ。それの新しいやつ」
「ああ、そうだった。斧だけで満足してた」
「戦いの幅が多いほうがいいでしょ。だから作ろうかと」
「ありがとう。すごく助かるよ」
「お金はきっちり貰うけどね」
「それはいいよ。作ってもらうんだしな」
「それで相談なんだけど、武器を作るために必要な材料が欲しいの。魔鉄鉱とか、魔鉱系もろもろなんだけど。それを一緒に採りにいかない?」
「いいぞ。なら、いく場所はあそこだな」
「そうそう。リックも職人もよーく知ってる場所」
「それじゃ、準備して明日にでもいくか」
「おっけー。それじゃ、準備もかねてなにか食べにいこ」
「いいぞ。ナットは連れてくか?」
「ほっといていいよ。今日はうるさいから」
「そうか」
気絶しているナットを置いて、カンナとリックの二人は準備をかねて食事に向かった。
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