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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
序章 追放重戦士編

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18. S級冒険者と世界観

アクセスありがとうございます。

 依頼達成の報告を終えたリックたちはギルドの食堂で夕飯を食べていた。


「………………、よく食べるねぇ、リックは」

「そうか? まだ二〇杯目だぞ?」


 スパゲティ全品を往復しながら食べているリックの隣には皿が積み上げれ、それをデザートを食べながらカンナが眺めているところだった。


「やっぱり冒険の後は腹が減るなぁ」


 リックがそう呟きながら、周囲のどよめきを聞いてスクリーンに『バラン・ガタッタ』のリーダー含めメンバーが映っていた。


『難易度の高い依頼をこなし、ザルツブルグに貢献してきた冒険者パーティ『バラン・ガタッタ』が今回を持って、S級冒険者パーティとして認定されることになりました!』


 それは一ヵ月前に追放された冒険者パーティのS級認定された映像だった。


『メンバー全員A級冒険者でありますが、パーティとしてはS級に値するとして、晴れてS級に認定されたとのことです。今後の活躍に目が離せませんね!』


 リックは黙々と食べながら、スクリーンの向こうでS級認定された証を掲げる、かつての仲間たちの笑顔を浮かべて幸せそうにしている映像を眺めた。


「……、」

「その、リック。あんまり気にしないほうがいいよ。ほら、リックが強いことは私も含めてみんなが知ってるから。すぐにS級になれるかもしれないよ?」


 カンナはしどろもどろになりながらリックを慰めようとした。

 だが、リックは咀嚼した料理を飲み込んで、


「ん? なんの話だ?」


 いつもと変わらない反応をカンナに返した。


「えっ、悔しかったんじゃないの?」

「べつに?」

「そっ、そっか。よかった」


 カンナは安堵の息を漏らして椅子にもたれかかった。


「気にかけてくれたのか?」

「まあね。リックを追い出したあいつらがS級認定されたら、そりゃぁね」

「あいつらがS級認定されてもおかしくはないさ。それくらいの実力は持っているからな」

「それでも私は気に食わないよ。リックが倒した賞金首にボコボコにされたって聞いたし」


「壁役がいなくなってからの出陣だからな。それにメンバーがもう一人いない」

「そういえば、もう一人のメンバーにはあったことないなぁ。どんな人?」

「サングラスかけた気の良い奴だよ。いるだけで頼もしい」

「へぇ、会ってみたいかも」

「そのうち会えると思うぞ。用事があって今はザルツブルグにいないけどな」


 用事というのはべつの長期間の依頼を単独でこなしているからだ。どんな依頼かはリックも、元メンバーたちも把握していない。最近は頻繁に単独行動が増えていた。

 リックはその理由をなんとなく察している。それはメディア系に出たくないからだ。


 冒険者パーティ『バラン・ガタッタ』がメディアに出るようになってから、パーティメンバーとして行動することを避けるようになった。


 誰にも相談することなく、勝手に行動していた。当初、リーダーのグランも愚痴っていたが、何度も繰り返されるうちに誰も文句を言わなくなった。まあ、出てほしい依頼にはしっかり出ているから誰も強くは言えなかったのだろうが。


「今回はどれくらいで帰ってくるかな」


 そんなことを考えながらリックはレモン水を飲んだ。


「すみません。二人なんですが、相席よろしいでしょうか?」


 すると、ある男性冒険者がそう頼んできた。


「いいですよ」

「ありがとうございます。どこも空いていなかったので助かりました」


 男性冒険者は感謝の言葉を述べた。その振る舞いはまるで貴族のように丁寧だった。

 そんな彼をじーっと見つめるカンナは「あっ」を声を出した。


「リック。この人、S級冒険者のネイサン・フリークスだよ! 『迸る閃光の覇者』の異名を持つ有名人。あらゆるアーティファクトを迷宮から持ち帰ったっていう」

「よくご存じですね。『小さき鍛冶工房』のお嬢さん」


 男性は柔らかい口調でそう返した。

 ネイサン・フリークス。年齢不詳。男性。身長約一八○センチ。容姿はわからない。彼の身なりは冒険者用に仕立てられたコートに、手袋とブーツ。そして、頭部を覆う魚眼レンズのような単眼の仮面をつけている。肌を一切見せない装備だった。


「初めまして、ネイサンさん。リック・ガルートンと申します」

「カンナ・ウォールマンです。よろしく」

「ご丁寧にありがとうございます。ネイサン・フリークスです。以後お見知りおきを」


 リックたちが自己紹介をすると、ネイサンも自己紹介をしてくれた。


「シャノン。こちらへ」


 すると、ネイサンは背後に隠れていた者に声をかけ、リックたちの前に出てきた。


「こちらは私の姪にあたるシャノン・フリークスです。ほら、ご挨拶」

「しゃ、シャノン・フリークスです。よろしく、お願いします……」


 人見知りする子なのか、少しぎこちない様子で自己紹介してくれた。そんな彼女に、カンナは陽気に「よろしくねぇ」と返した。

 それよりリックは、彼女の頭部を見て驚いた。


「……その角、もしかして悪魔族の子ですか? この辺では珍しいですね」

「はい。彼女は(ゆう)(かく)人種(じんしゅ)にあたる悪魔族の子です。わけあって私が面倒を見ています。最近は彼女とともにパーティを組んでゆっくり活動しています」


 シャノン・フリークス。ヤギのように巻いた黒い角。赤毛の長髪。容姿のあどけなさから、彼女はまだ十代後半と伺えた。どこか儚げな雰囲気が漂う少女だ。

 黒を基調としたドレを彷彿とさせる衣装にはレースが編み込まれており、スカートは膝上と短めだが、肌を隠すように黒いストッキングを履き、黒いブーツを履いていた。

 そして、左腕には機械仕掛けの円形の盾。左腰には片手直剣を携えていた。


「シャノンも私と同じ冒険者でしてね。最近B級に昇格したばかりなのです」

「そうなんですか。きっとネイサンさんの教育の賜物でしょう」

「私は基礎しか教えていません。あとのことはシャノンが頑張ったから成しえたのです」


 ネイサンはそう言ってシャノンの頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

 そんな彼女の反応にネイサンは「ふふっ」小さく笑った。


「リックさん。私たちに堅苦しい敬語は不要です。どうぞ楽に話してください。私のこともネイサンとお呼びください」


「わかった。ネイサン」

「では、挨拶もほどほどに。注文をしましょうか」


 そう言ってネイサンはシャノンとともに料理のメニューを見た。


「ううぅ、F級の私は肩身が狭い……」

「本職じゃないだろ。気にすんな」


 先程まで気楽だったカンナが縮こまっていた。


「ところで、リックさんはS級になりたいのでしょうか?」


 すると、料理の注文を早々に終わらせたネイサンが訊いた。


「え?」


「いえ、先程のお話が耳に入りましてね」

「ああ。ちょっと前にいたパーティがS級認定されたと番組から流れてきてな」

「番組……ああ、『バラン・ガタッタ』でしたか。あれはダメですね」


 スクリーンに映されている映像を見てネイサンは即答した。


「あ、やっぱり? ネイサンもそう思う?」

「ダメってどういうことだ?」


 カンナは確信していたかのように反応は薄かったが、逆にリックはS級冒険者であるネイサンまでもがそう言い切ったことに驚いた。


「S級で必要な要素は多岐に渡ります。その中で最も必要な要素とは、手数です」


 リックの疑問を察してか、ネイサンはそう答えた。そして、言葉を続ける。


職業(ジョブ)、武装、技術、知識……取り入れられるものすべてが必要になってきます。私は職業は二つしか持っていませんから、ほかのところで補っています。コートの下は装甲とパワードスーツを装着しています。そこはリックさんと一緒ですね」


「パワードスーツというのはS級の間では普通なのか? あまり聞き馴染みがなくてな」


 あまり冒険者の間では聞かないワードにリックは引っかかった。

 パワードスーツという単語を聞いたのはカンナが初めてだ。まさかネイサンの口からその単語が出てくるとは思ってもみなかった。


「少なくとも私含め、知人はそうです。パワードスーツというのは大量生産を可能とした時代からあるものです。今では小規模ですが生産されています。パワードスーツでなくとも、なにかしらの力が宿った武装をしているのが基本となります」


 大量生産を可能とした時代。約七〇〇年前。産業革命が起こり、数百年の間は技術が発展し、巨大な施設を運用して大量生産が行われていた時代である。魔力を動力源とした機械が主流で、時代が後退するまでの間、人々の生活に欠かせないものだったそうだ。


「世界は果てしなく広い。この世界にはいまだ発見に至っていないものを含め、おおよそ七割の未知が眠っています。その深さは海と変わりません。七〇〇年前も調査が進んでいたと思われますが、人為的に引き起こされた魔力災害によってその進捗は白紙となり、文明は五世紀後退し、さらに七〇〇年前の遺産まで未知へと還元されてしまいました。我々だけでは世界を紐解くには手が足りません。人類が知る必要がある謎もあるというのに」


 ネイサンは一息ついて、言葉を続ける。


「すみません。少し熱くなりすぎてしまいましたね」

「いえ、とても勉強になります」


「まあ、私が言いたいことは、彼ら『バラン・ガタッタ』はスタートラインにすら立てていないということです。武器に道具、技術も足りない。S級認定されたとはいえ所詮パーティとしての総合的な評価。残酷な話ですが、もってあと半年でしょうね」


 淡々と語り続けるネイサン。それはとても受け止められるような内容ではなかった。ここに『バラン・ガタッタ』がいなかったことに、リックは安堵していた。


「その点、リックさんは必要な条件を満たしています。複数の職業(ジョブ)。機械仕掛けの魔導具の武装が多数。魔法。そして腕利きの職人(スミス)とタッグを組んでいる。あと必要なのは実績のみ。それに加えて、リックさんは巷で噂の〝ハイスペッカー〟だと聞いています。次世代のS級冒険者の卵。将来が楽しみです」

「わりとノリと勢いで始めた部分も多いですけどね」


 最初の課題は、一人でも活動できるようにする方針で準備を始めた。先のことなんて考えていなかった。今の姿は、ただカンナと一緒になってロマンを求めた結果だ。ハイスペッカーも周りが言うほど自覚があまりない。


「そういえば、あの鎧に変わったのは前のパーティを追い出されてからでしたね。結果はどうであれ、あなたはスタートラインに立っています。だからどうか胸を張ってください」


 ネイサンの言葉に、リックは軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。期待に答えられるよう努力します」

「頑張ってください。カンナさんも」


 ネイサンは、シャノンと少し打ち解け始めていたカンナにも言う。


「もちろんです。それであの、もしよければネイサンの武装を真似て作っても?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます!」 


 カンナは嬉しそうに感謝の言葉を述べた。

 話に区切りがついたところで、ネイサンたちが頼んだ料理が運ばれてきた。


「さて、温かいうちに食べましょう。シャノン」

「はいっ。いただきます!」


 待ちわびたと言わんばかりにシャノンは食事を始めた。


「リックさんたちも、今日は私がおごりますので食べていってください」

「いいんですか! ごちそうさまです!」


 カンナは嬉しそうにそう言うが、リックは表情を変えずに口を開く。


「俺、あと一〇皿食べる予定ですが、懐は大丈夫ですか?」

「………………割り勘でよろしいでしょうか?」


 S級冒険者とはいえ、財布の中身は普通の冒険者と変わらないらしい。そもそもの話、リックのような食事量ほどの金額を持ち歩かないだろう。


読んでくださりありがとうございます。

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