15. アクダミ草の価値
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森を散策するリックたちは次の場所に到着した。
ずいぶんと森の奥へとやってきて、ようやく目的のアクダミ草を見つけた。
「あっ! アクダミ草があるよ!」
「ああ、そうだな」
現在いる場所は、森の中腹より一歩手前の場所である。新人冒険者が辿り着ける最終地点であり、問答無用で引き返す場所である。
さらに深く進めば魔力濃度が濃くなり、強力な魔物が出現するようになる。リックたちがいる領域が危険度2と例えるならその奥の領域は4だ。
それに、厄介な強化種と接敵する可能性も出てくる。
「この場所はなんか中途半端に残ってるね」
「そうだな」
「でも、なんか変だね。取り損ねたっていうか、途中でやめたっていうか。最初はこの辺もぜんぶ採っていこうとしてる感じだよね」
「言われてみればそうだな。刈り損ねた稲みたいに、奥のほうはまだ密集してるな」
カンナはなにかを見つけたようで、群生地に入ってそれを拾い上げた。
「見て。アクダミ草を入れるカゴがある」
「逃げた後みたいだな」
「そうだね。せっかく採った雑草ぶちまけてるし」
「雑草いうな。アクダミ草に恨みでもあるのか? まあ、大かた想像はつくが」
採取してからだいぶ時間が経過して使い物にならなくなったアクダミ草を足でどけるカンナをリックはただ眺めた。
アクダミ草は魔法薬の材料としても有名だが、同様に雑草としても有名な植物だ。アクダミ草の特徴には、魔力を多く取り込む性質があること。魔力の豊富に含んでいるものほど薬草としての効能も高まって価値がついてくるのだ。
そして、魔法薬の材料たらしめる力は、その生命力だ。
少しの根があるだけで繁殖できる生命力。地下茎ということもあるが、ぜんぶ引っこ抜いたからといって全滅させることは非常に困難なほどだ。
まあ、その生命力がたまに、はた迷惑なときもあるのだが。その生命力と魔力が合わさることで即時的な治癒効果を生み出す。
それが、冒険者が冒険には欠かせない即効性の治癒の魔法薬となるのだ。
「とりあえず、残ってるアクダミ草を取ろっか」
「……、いや、ここでの採取はやめておこう」
「なんで?」
微かに繁茂するアクダミ草を採取しかけたカンナは訊ねた。
「ほかにも新人が採りに来るかもしれない。アクダミ草は根こそぎ採っても生えてくるが、残ってるのとじゃ成長スピードも違う。それに収穫サイズになったからといってすぐに採れるものじゃないからな。ここのでも早くて二週間後だ」
アクダミ草はすぐに成長するが、魔法薬の材料にするには十分な魔力を貯め込む必要がある。そして十分な魔力を貯め込み始めるのは成長しきってからだ。
「あっ、リックの考えてることがわかっちゃった」
カンナは含みのある笑みを浮かべて、「よいしょっ、と」と言って立ち上がる。そして、リックが振り向いた森の方向を見た。
「このまま森の奥へ進む。おそらくそこならアクダミ草は取られてないだろうから」
「リスクを冒してまで採りにいくようなものじゃないしね」
ハイネン森林地帯なら十分な品質でアクダミ草を採取できるのであれば、わざわざ危険を冒してまで潜る必要はない。だが、逆に言えば競争率は皆無に等しい。
べつにリックたちは腕試しにいくわけではない。少し足を踏み入れてアクダミ草を採取してくるだけなのだから。
「でも、どうしてアクダミ草がなくなるくらい採っていこうと思ったんだろ?」
「気になるか?」
「そりゃあね。アクダミ草が良い物で、たくさん採取されるのはわかるけど、新人が採りにこれる限界地点まで根こそぎ取るほど必要なのかな、って」
「まあ、疑問に思うよな」
「だって、どう見たっておかしいじゃん。リックはどう思ってるの?」
「しょうじき疑問に思ってる。ぜんぶ売ったところで二束三文だ。加工にするにしたって知識と技術が必要だし、専門家に頼んだところで大赤字確定だ」
魔法薬に適したアクダミ草が近場で大量に入手できる土地では、簡単に入手できるし、十分な治癒の魔法薬を生産できる。依頼でも出されないかぎり採取にいく必要もないものだ。ほかの加工品にしたって、街中で生えているもので十分なのだから。
「それに、ザルツブルグで治癒の魔法薬はどの国よりも、どの町よりも安価で入手できてしまう。一○○○ユルドだぞ? わざわざ根こそぎ取る必要もない」
ほかの国や地域で治癒の魔法薬を購入するとなると平均一万ユルドは軽く超える。錬金術によって生産される物は普通それくらいするのだ。
「薬草が簡単に入手できるから、うちらの都市の錬金術師たちは治癒の魔法薬が得意分野なところもあるしね。まあ、そのせいで値崩れおこして一部から反感は買ったけど」
ザルツブルグがある土地は魔力が濃い。そして、アクダミ草が簡単に手に入る環境であるため、自然と錬金術師の最初に作る錬金であり、一番生産するものとなる。
なにせ大釜で大量生産できる技術を持っているくらいだ。
「こうなると、下手をすれば環境破壊とかでギルドから目をつけられるだろうな。俺たちが現場にいる以上、これは報告したほうがいいな」
「なら、いいのがあるよ」
そう言ってカンナが「じゃじゃーん」言いながら取り出したのはカメラだった。
「また高価な物を取り出したな」
「便利だよ。録画機能もあるし。これで現場の写真とっておくね」
「頼む」
カンナはカメラを起動して現場の写真を何枚か撮影した。
「こんなところかな……ほかの場所はアクダミ草を採取した後でいいよね?」
「ああ。今から戻ると日が暮れるからな」
「そうと決まれば、ちゃっちゃと採取しに奥にいこうか。リック――」
瞬間、リックとカンナの二人は地肌がひりつくような感覚に襲われる。
「——ッ!」
「なにっ!?」
二人は即座に気配がする方向に振り向くと、草木をかきわけて大型の魔物が現れた。
体高三メートルの四足歩行の鹿の魔物。両手を広げたかのように大きく、天を目指すようにまっすぐ伸びた枝角。三本の短い尾。前足も後足も鎧のような感情な外皮に守られ、血濡れたような赤い目を光らせ、引き裂いたような大きな口を開いて雄叫びを上げた。
「リック、これは」
「……ああ、強敵のおでましだ」
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