14. スキルとハイネン森林地帯
アクセスありがとうございます。
ハイネン森林地帯。中央ブルースの平野を進んだ先に存在する森だ。
ザルツブルグで一番近い森として有名で、森の入り口は平野に浸食するように領域を伸ばしており、平野を完全に飲み込まないように定期的に伐採などが行われている。
森の奥地に進むにつれて断続的になだらかな傾斜が続き、知らず知らずのうちに出入口からでもわかる大きな山に登っていくことになる。あまり深くは進まないことだ。
もともと魔力濃度の高い土地と言うこともあってか、ダンジョンのような魔力濃度を有しているが、危険が伴うだけの森で留まっている。まあ、それを抜きにしてみると普通に資源が豊富な森として人々に活用されている。
そして、リックたちが求めているアクダミ草もそこに広範囲に分布しているのだ。
「着いたぞ。ここがハイネン森林地帯だ」
「へぇ、ここが」
カンナは森を見渡しながら始めてきた場所に、目をキラキラさせていた。森に入ってから少し歩いたところでリックたちは立ち止まって一息ついているところだ。
「……。ん?」
リックは森を見渡しながらある違和感に気づいた。
「どうしたの?」
「いや、入ってすぐにでも見つかるアクダミ草がなくてな」
「この森ってそんなに生えてるの?」
「鬱陶しいくらいにな」
アクダミ草は根が少しでも残っていれば数週間で群生しているほどの生命力を持ち合わせている。魔法薬の材料として重宝されている反面、ガーデニングの厄介者でもある。
そんな植物が出入口から見当たらないのはリックにとって不自然だったのだ。リックの真新しい記憶の中でも森に入る前にすでに生えていたりしていた。
「レンガの隙間から生えてくるような雑草だしね。それが生えてないのはおかしいか」
「雑草いうな。まあ、少し進めばあるだろ」
「りょーかい」
カンナはそう返して両手持ちのハンマーを肩にかける。
森の奥へ進む途中、生物の泣き声はするものの魔物との遭遇はなかった。目的のアクダミ草を探しながら足元を注視していたが、発見することはなかった。
ハイネン森林地帯は開けた場所が多く、そこに日光を浴びて育つ植物が多く生育している。そのなかにはアクダミ草も含まれている。まあ、ほとんどがアクダミ草だが。
次の場所に到着したリックたちは散策するが、アクダミ草は一向に見つからない。
「リック。これ見て」、
すると、一枚の葉っぱを拾い上げたカンナがリックを呼んだ。
手渡された葉っぱは、リックたちが探していたアクダミ草のものだった。
リックは足元に目を向け、屈んで地面を確認した。
「どうやら、誰かが採取した後みたいだな。茎の部分が残ってる」
「ホントだ。ここに来るまでなかったのも、誰かが採取したからだったんだね」
「このへん一帯は群生地だったはずなんだがな」
アクダミ草の群生地が見当たらない。取り尽くせないほどの量が群生していた薬草が取り尽くされている状況にリックは違和感を覚えた。
「もう少し進んでみようか。ここだけかもしれないし」
「……。そうだな」
リックはそう言ってカンナとともに別簿場所へと移動した。
緩やかな傾斜を登った先に合った開けた場所。土が削れて岩が露出した場所に、目的のアクダミ草を見つけることができたが、リックたちは穏やかではなかった。
「一本だけ……小さいけど、背に腹は代えられないか」
小さなアクダミ草に、伸ばしかけたカンナの手をリックは掴んで止めた。
「これは十分に育ってない。ほかのを探そう」
「そっかぁ。わかった」
カンナは残念そうに息を吐いてそう言った。
次の場所にリックたちは移動したが、やはりアクダミ草はなかった。
あってもアクダミ草の葉っぱだけだった。
「ない……」
「ないな」
「ねぇ、こんなことってあるの?」
「普通ならないだろうな。もう採取を終えて帰ってるところだ」
リックの予定では森に入る前に採取依頼が終わっていたはずだった。
「動物が食い荒らしる感じじゃないし、冒険者が採取していったってことだよね?」
「痕跡を見る感じ、そう見るとしかないだろうな」
「目につくものぜんぶかぁ。魔法薬の材料以外でそんな需要あったかな?」
「アクダミ草の利用方法はけっこうあったりするぞ。お茶にして飲むとかあるしな」
「ふーん。そうなんだ」
魔法薬以外でのアクダミ草の採取依頼があるくらいだ。短い期間で採取依頼が急増したかなんか近場の群生地が取り尽くされてしまったのだろう。もしくは環境変化によるもの。それか今年は育ちが悪いだけか。原因はいくらでもあるが、そこまで深く考えるほどの問題でもない。ことアクダミ草にいたっては。運が悪かっただけだ。
「仕方ない。もっと森の奥へいくか」
「そうだね。このまま帰ったらペナルティついちゃうし、気を取り直していこうか」
背伸びをしながら立ち上がったカンナはそう言って前進しようとした瞬間だ。
リックの近づいてきた気配にスキルが反応した。
「待て、カンナ。魔物だ」
「え?」
カンナが立ち止まって振り返った瞬間、魔物が草陰から奇襲をしかけてきた。咄嗟に二人はその奇襲を回避して距離を取った。
「……。ブルースボアか」
「しかもあの大きな牙……かなりの大型個体じゃない?」
ブルースボアは、ブルース地方に生息する在来種である。茶色の体毛が特徴的で、大型になると大きな牙を持つようになる猪だ。比較的おとなしいと言われているが、こちらを視認すると襲ってくるくらいには好戦的で凶暴な生物だ。
そのブルースボアは、奇襲が失敗しても減速し、方向転換してまた突進してくる。
「逃してはくれなそうだな」
リックが収納魔法から装備一式を取り出そうとしたとき、
「待って。私だけにやらせてくれない?」
「一人でか? 大丈夫なのか?」
「どうだろ? でも、リックに私の強さを知ってほしいからさ」
「……、わかった。ヤバいと思ったら言ってくれ」
カンナの戦闘技術を見る絶好の機会。多少の心配はあるものの大型のボア程度ならなんとかなるか、とリックは考えてその提案を飲んだ。
「ありがと。それじゃ、ガッカリされないようにいっちょ頑張りますか」
カンナはそう言って担いでいた両手持ちハンマーから、巻いていた布を取り去った。
その武器は、ブースターを取り付けられたハンマーだった。
長方形のハンマーで、面は外側に反るような形状。その逆側にブースター。柄の半分程度は補強用らしき短い柄が入り、柄を守るように小さな縦長の装甲が取り付けられている。その逆側には燃料らしきコンパクトバッテリー。そして起動用のトリガーがあった。
「どう? この武器。かっこいいでしょ? ブースターを乗せたハンマー」
「……、とてもいいじゃないか」
澄まし顔のリックは、内心では『かっけぇっ!』と少年のように叫んだ。
カンナは武器を起動し、トリガーを引きながら吹かした。そして、突進してくるブルースボアに向けて走り出し、最初はブースターを吹かさずに殴打した。
どすんっ、と鈍い衝撃音とともにブルースボアは宙に浮いて転倒した。だが、ブルースボアは平然と立ち上がり、カンナに突進する。それをカンナは回避した。
「よっ、と。さすがに無理があるかぁ。それじゃ――」
カンナはブースターの出力を上げて、迎え撃つ構えをした。
「からのぉ」
さらに攻撃力を上げるためにカンナはスキルを発動した。
すると、カンナの全身から揺らぎのようなものが一瞬だけ現れて収縮した。
スキルの発動時は、体内で魔力が弾けるような、あるいは爆発するようなことが起きている。魔力を消費して自分の中にある力が呼応するように発動する。
そして、カンナの全身から揺らぎのようなものが一瞬だけ発生して収縮した現象は、スキル発動時に発生する現象だ。揺らぎの肉眼では確認しにくく、意識しないと見ることすら困難だ。しかし、高等技術には発動する瞬間を視認して対応するものがあったりする。
カンナが使用したスキルは、戦士の強化スキル〈ブースト〉だ。
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」
回転をきかせて振るわれた武器は、ブルースボアの脇腹に深く突き刺さった。
砲弾のように飛んでいくブルースボアは岩場に激突し、そのまま動かなくなった。
「討伐完了。どう? 私の腕は」
「思ってたより……」
「弱かった?」
「強かった」
「たはぁ、変な間を作んないでよぅ、もう……。ちょっと焦っちゃったじゃん」
脱力したカンナは、ハンマーを杖代わりにして寄りかかった。
「すまんな。思ったより戦えてびっくりしたんだ。とてもF級とは思えない」
「お褒めに預かり光栄です。これで問題なくリックと冒険できるね」
にかっ、と明るい笑み浮かべるカンナに、リックも返すように微笑した。
早々に討伐した大型のブルースボアを解体し、素材と肉にわけて収納魔法に収納した。こればかりはカンナも不慣れで少し時間はかかったものの問題なく終わった。
「次の場所いこ。リック」
「そうだな。次こそあるといいな」
武器を担いで先に進むカンナを追う形で、リックも歩き始めた。
読んでくださりありがとうございます。




