1. 重戦士、追放
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重戦士——分厚い鎧と兜で身を包み、斧や盾などを装備する重装備の戦士だ。
物理的な攻守に非常に優れており、攻撃力と防御力が非常に高く、前線に出てタンクとしての役割と同時にアタッカーとしてのポテンシャルもあわせ持つ職業だ。
個人や性格でスタイルが変化し、仲間の命を第一に守るために防御特化にしたり、元から高い防御力を利用して先陣きって魔物の懐に飛び込む攻撃特化を主体にする猛者もいる。そして、攻撃と防御の両方を考慮して安定を選ぶ者もいる。
鋼の精神力と強靭な肉体を持ち、魔物とまともに力勝負をして一歩も引かない重戦士の勇ましさは目を見張るものがある。多少、行動力と速度に難はあるものの、それでも壁役としての活躍は期待できるだろう。
時折、逸脱した職業の者も現れるが、世界の変化からすれば些細なことだ。
「リック・ガルートン! お前を『バラン・ガタッタ』から追放する!」
だが、その重戦士の一人であるリック・ガルートンは追放を宣言されていた。
「……。え? ちょっと待ってくれ、グラン。なんでそういうことになっているんだ?」
街外れにある料理屋の個室。リックと呼ばれる重戦士は、なにを食べようか選んでいた料理の注文票を置いて、落ち着いた口調でリーダーの魔剣士グランに問いかけた。
「パーティメンバーと話し合った結果だ。これは決定事項だ」
「話が見えないな。俺がパーティから追放されるようなことをしたのか?」
「自分の胸に手を当てたらどうなんだ? お前なら良くわかっていることだろ」
「生憎と見当がつかない。俺がなにをしたのか聞かせてくれないか?」
リックがそう言うとグランと呼ばれるリーダーはテーブルを思い切り叩いた。
「コストがかかりすぎるんだよ!」
グランの荒々しい口調から発せられた言葉に、
「はい?」
リックは拍子抜けしてしまった。知らないうちに犯罪でもしていたのか、もしくは冒険者らしからぬ行いをしていたのか、と心配したというのに、その理由がコストだ。
「それは前に話し合って解決してるじゃないか」
ダン、とテーブルを叩いてグランは話を遮った。
「リック、なにを問題視してるのかわかってるのか?」
「さあ? なにもないんじゃないか?」
「お前のスキルのせいで食費がかかりすぎているんだぞ! それだけじゃない。お前が重戦士以外の職業を取得してるせいで、いろんな問題が出ているんだぞ!」
「それ、前にも言ったじゃないか。新しく職業が発現したとき喜んでたじゃないか」
職業は、基礎技術と一定の魔力量を所持している者に発現する職業という名の能力だ。発現した職業に沿った恩恵とスキルを手にすることができる。ざっくりと、重戦士なら防御系スキルを習得しやすく、恩恵なら体が頑丈になるなど様々だ。
「うるさい! お前のユニークスキル〈食蓄〉はどう説明するんだ?」
スキルは、魔力を消費して使う技術、または持続的に作用する特殊効果などのこと。その魔力を使った技術は、魔法に引けを取らないほどの超人的な力を発揮する。
スキルには種類があり、ユニーク、コモン、エクストラ、パッシブ、などがあげられる。
「ああ。まさか、条件を満たすと能力が上昇するっていうヤツのことを言ってるのか? あれなら俺は質より量だから安上がりだぞ? これ前にも言ったはずなんだけどな」
どれもこれもすでに終わった話だ。今さらその話を掘り返すことになんの意味があるのか、とリックは不思議でならなかった。
「だからってそれを請求するのか?」
「そういう決まりじゃないか。職業の必須となるものには金をかけるってさ」
リックは冷静に淀みなく返す。だが、グランの口は止まらなかった。
「大体な。お前は重戦士なのにパーティ内役割を無視しすぎなんだよ」
「なにを言って――」
「とぼけんなよ! 前衛で盾役をしてればいいのに、ちょこまかと動きやがって! 挙句の果てに魔法も使うようになった! メンバーの活躍の場を奪うつもりか?」
「そんなつもりはない。みんなが円滑に動けるように立ち回っていただけだ」
「そんな言い訳が通用すると思うのか?」
「ちょっと待て。お前なんかおかしいぞ? みんなもなにか言ってやってくれないか?」
グランの言い分に困り果てたリックは、同じテーブルに着く三人の仲間に声をかける。ずっと無言を貫いていて、まるで知らぬ存ぜぬという姿勢でいた。
「グランの言うとおりだ。俺は戦士なのに俺以上に動けて邪魔されてばっかだ」
「私も。魔法しか使えないのに、それを普通に使いこなして。居場所を奪うつもり?」
「まったくです。私は神聖術師なのに、治癒魔術まで使って」
だが、リックが望んでいた言葉とは違うものが返ってきた。
戦士のコルク。前衛で活躍する斧使いの男性だ。
魔術師のデミ。後衛で魔法攻撃、または支援を得意とする女性だ。
神聖術師のミア。同じく後衛で、神聖術を使いこなす聖女と呼ばれる女性だ。
それぞれがリックに対して不満を漏らした。
「どうして……」
リックには理解ができなかった。昨日まで和気あいあいとやってきた仲間が、まるで別人と入れ替わったかのように冷たかった。
「これでわかっただろ。お前がどれだけ迷惑な存在なのかを」
「だが、今後タンクがいない状態でどうやってやっていくというんだ?」
「俺たちにタンクなどいなくても平気だ。高火力アタッカーさえいれば十分だ」
「納得できるわけないだろ。五年も一緒にやってきて、そんな簡単に」
「べつに俺たちがいなくても、一人でもやっていけるだろ」
「だが――」
ダン、とテーブルにパーティ解消の手続き書が置かれた。リックは訴えかけようとしても彼らに届くことはなかった。
「悪いが、もう決まったことだから」
こうして、リックは五年も在籍した『バラン・ガタッタ』から追放されたのだった。
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