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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
9/256

初めての夜

 午後八時過ぎ、居間にルークが入ってくる。


「おやすみ、おかあさん」


 ルーク、ローハンを睨むと部屋を出て行く。


「ごめんね、無愛想で。今までいろいろあったからさ」

「俺がヨウコと仲良くしてればそのうち認めてもらえるだろ。おかあさん思いのいい子じゃないか」

「……それならいいけど」

「明日の予定は?」

「朝のうちに仕上げなきゃならない在宅の仕事があるけど、午後は暇かな?」

「今から何するの?」

「DVDでも見る? 新作、いくつか借りてきたんだ。ほら、これキース・グレイの出てる奴。すっごく格好いいのよ」


 ローハン、DVDのケースを眺める。


「ヨウコ、この人のほうが俺より格好いいと思う?」

「だってこの人、ハリウッドスターだもん。張り合ってどうするのよ。……そっか、24世紀から来た人には新作じゃないんだ」

「大丈夫、この時代の映画はほとんど見てないんだ。ここで一緒に座って見ようよ」

「いいよ。でも、あなたと一緒じゃ、どきどきしちゃって映画どころじゃないかも」

「時々ものすごく素直なこと言うんだね。こっちもドッキリしちゃったよ」

「いちいち指摘しないでよ。ねえ、ローハンの顔、ちゃんと見せてもらってもいい?」


 ローハン 赤くなる。


「うん」


 ヨウコ、顔を近づけてローハンの顔を見る。


「きれいな目だね。この微妙な色合いがいいな」

「ほんと?」

「すごーい。鼻毛もあるんだね。伸びるの?」

「……どこ見てるんだよ」

「肌、きれいでうらやましいなあ。髭は? 生えてこないの?」

「髭は生えてないほうがいいんだろ?」

「触ってみてもいい?」


 ヨウコ、ローハンの頬にそっと手をあてる。


「ヨウコの手、気持ちいい」

「作り物とは思えないんだけど」

「俺、最高級品だもん」


 ヨウコ、そのままローハンを引き寄せてキスする。


「ヨウコの方からチュウしてもらえるなんて感動だな」

「絶妙な唇してるから……つい」

「キスならいつでも大歓迎だよ」

「そうだ。しちゃいけないことがあったら先に言っといてよ。『磁石を近づけてはいけません』とか、『直射日光に長時間当ててはいけません』とかさ」

「そうだな。『壊れモノですので乱暴に扱うのはおやめください』ってぐらいかな」

「嫌味も言うんだ」

                                               

 数時間後、映画が終わるとテレビがひとりでに消える。


「あれ?」

「消しちゃっていいんだろ?」

「どうやったの?」

「俺、器用なんだ」

「器用って……」

「もう11時だね。寝る?」

「うん。……今夜はここのソファで寝てもらっていい?」

「いいよ。でもほんとはヨウコと一緒に寝たかったな」


 ヨウコ 赤くなる。


「はっきり言うなあ。もうしばらく付き合ってからでいいかな?」

「わかってるよ。言ってみただけ」

「着替えは持ってきてるの? 男物のトレーナーとかジャージならたくさんあるけど、ローハンには小さいかも」

「……もしかして前カレの服、とってあるの?」

「捨てちゃうのもったいないじゃない。悪い?」

「悪くはないけどさ。いるものは車に積んであるから大丈夫」

「そっか。じゃ、おやすみ」

「おやすみのチュウしてよ」


 ヨウコ、ローハンにキスすると彼の顔をじっと見る。


「どうしたの?」

「ううん。明日の朝また会えるんだよね」

「当たり前だろ? おやすみ、ヨウコ」

「うん、おやすみ」


 ヨウコ、不安そうにローハンを見ると部屋から出て行く。


        *****************************************

                                               

 夜中過ぎ、ヨウコが目を覚まし、急いで居間へ行く。ソファの上でローハンがうなされている。


「ローハン! ねえ、ローハン! 起きてってば」


 ヨウコ、ローハンを揺さぶる。


「あ、ヨウコ。まだ朝じゃないだろ? トイレ?」

「うなされてたよ。どうしたのよ?」

「ああ、そういえばヨウコにフられる夢をみた。『ニンゲンモドキの分際で、私と付き合おうとは思い上がりも甚だしい』って言うんだよ」

「人を勝手に自分の夢に登場させないでくれる?」

「ごめん」

「ほら、起きて。一緒に寝よう」

「一緒に? いいの?」

「うん。またおかしな夢みたらすぐ起こしてあげる」


 ヨウコ、ローハンを寝室へ引っ張っていく。


「あんたは壁側で寝てね。私はこっち側じゃないとよく眠れないんだ」

「うん」

「じゃあお休み」

「嬉しいな。ヨウコの寝顔をじっくり見ちゃおうっと」

「壁を見て寝なさい。落ち着いて眠れないでしょ」

「冷たいなあ。……それに男の写真が貼ってある壁なんてみたくないんだけど」

「ええ? ああ、それ格好いいでしょ。イギリスの友達がキースの生写真送ってくれたんだ。気になるなら剥がすよ」


 ヨウコ、壁から写真をはぎ取ると布団にもぐりこむ。


「今、それ枕の下に入れなかった?」

「よく見てるなあ。黙って寝なさいよ」    


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