ヨウコ巡礼
キッチン ローハンとサエキとキースの三人がテーブルを囲んで話している。サエキが憂鬱そうに二人を見る。
「またおかしな連中から、21世紀への渡航申請があったんだってさ。今週に入って三組目だよ」
「困ったもんだね」
「ヨウコちゃんが狙われて以来、渡航希望者は全員、三ヶ月前からモニターされることになったんだ。一度でも『ヨウコ』関係の団体と関係を持った者には渡航許可が下りなくなったし、戦闘能力のありそうな奴も全部落とされてる。そのうちガムが非難されることになるだろうが、仕方ないな」
「でも、その人達のみんながみんな、ヨウコをさらおうとか殺そうとか思ってるわけじゃないんだろ?」
「ほとんどは巡礼が目的だな」
「巡礼?」
「『救世主』に一目お会いしたいんだってさ」
「ああ、そういうことか」
「でも、暗殺目的って奴も二人いたんだよな。『ヨウコ』を殺して自分も死ぬ気だったそうだ」
ローハン、驚いた顔をする。
「そうなの? ヨウコと心中したいなんて物好きな人もいるんだね。俺たちの居場所がバレてるんだったら、引越ししたほうがいいのかな?」
「ヨウコちゃんの情報は内部から漏れたとしか考えられないんだよ。俺たちの動きが筒抜けになってるのなら、引っ越しても意味がないよ。ガムランが流した偽情報の効果も出て来てるようだし、知らない土地へ行くよりはここで守りを固めたほうがいいだろうな」
キースが口を開く。
「今のところ、ヨウコさんはウガンダに庵を結んで、毎日裸で滝に打たれてると思ってる人が多いみたいですね」
「絶世の美女だって話になってるぞ。それが本当なら俺でも巡礼したいぐらいだ」
「ところでサエキさん、僕にもここの監視カメラのアクセス権をもらえませんか?」
ローハンがキースを睨む。
「だーめ」
「何でだよ? 二人で監視したほうが安心だろ?」
「何を監視する気なんだよ? 嫌だよ」
サエキが口を挟む。
「いや、それはいい考えだよ。キースなら何も見落とさないだろ? お前は機械とは思えないぐらい抜けてるからなあ」
「ほーら」
「むかつくなあ。じゃあ、敷地の外周のカメラだけね。家の中は駄目だよ。ストーカーやらせりゃ、お前は世界一だからな」
「なんて失礼なこと言うんだ」
「端末を家に入れてやってるだけでもありがたく思えよな」
サエキがため息をつく。
「お前らさあ、こういう時ぐらい仲良くしてくれよな。上では『二つ目の願いのヨウコ』が発見されたことを公表するらしいぞ。そろそろ『ヨウコ』が見つかるだろうと予想されてたから、頃合いだと判断したんだろう。お祭り騒ぎになるだろうな」
「じゃ、当面、俺たちはここでヨウコを守ってればいいんだね。あんな不細工でいけずなヨウコなんかにみんな必死になっちゃってさ。困ったもんだよ」
「そう言ってやるなよ」
ローハン、不敵な笑みを浮かべる。
「あれは俺だけのモノだからね。誰にも触らせやしないよ」




