ヨウコの息子
カフェの近くの駐車場 ローハン、ヨウコを一台の車の前に連れてくる。
「ほら、これが俺の車だよ」
「未来のスーパーロボットの車にしてはえらく古いわねえ」
ローハン、ムッとした顔になる。
「もう、それやめてよ」
「ごめん。本当に気にしてるんだ」
「24世紀じゃ人間相手に『ロボット』って言葉を使うと、中傷行為になるんだよ。訴えられても文句は言えないぐらいのね。君に悪気がないのはわかってるけど」
「これからは気をつけるよ」
「ヨウコって俺の思ってたのとずいぶん違うんだな」
「サエキさんにも言われたわ。知り合う前から好きになっちゃってるなんて、ずいぶんと損な話よね。それでも付き合いたいの? 考え直す?」
「ヨウコはね、想像してたよりずっといい感じだよ。もっと品行方正で優雅で上品な女なんじゃないかと思ってたんだ」
「つまりその反対だって言いたいわけね」
ローハンが近づくと、車のロックが解除される。
「こんなに古いのにオートロックがついてるの?」
「ヨウコ、こんな車好きだろ?」
「うん、レトロな感じがかわいいね。ピカピカにリストアしてあるけど、燃費が悪いんじゃない?」
「燃料なんていらないよ。ちゃんと24世紀風に改造してあるから」
「……空を飛んだりしないわよね」
「え、飛んだほうがよかったの? しまったなあ。二、三週間、待ってもらえる?」
「ううん、このままでいいから」
ローハン、助手席のドアを開けて、ヨウコを乗せる。次に自分で乗りこもうとして頭をぶつける。
「いたっ!」
「あなた、背が高すぎるんじゃないの? 何センチあるのよ」
「186cm」
「ええ? もっとでかく見えるけど」
「俺、ヨウコと違って顔が小さいからそう見えるだけだよ」
「……もうちょっと低くても良かったんじゃないの」
「これがヨウコのタイプなんだよ」
「本人の前ですごい自信ね」
「ヨウコの深層心理を分析した結果こうなったの」
「並ぶと私がすごく小さく見えるじゃない」
「そういうの、気にするの?」
「しないけどさ」
「ほらね」
運転しながら、ローハンが助手席のヨウコに話しかける。
「この車のすごいところはね」
ローハン、急カーブの直前でハンドルから手をはなす。
「何してるの!」
「手離し運転が出来ちゃうところなんだ」
「ぎゃあ!」
車は無事にカーブを曲がる。
「足もいらないよ」
ローハン、両足を持ち上げる。
「信号、赤! ブレーキ踏んで、ブレーキ!」
車が無事に止まる。
「びっくりしただろ」
「したわよ! 死ぬかと思った」
「ヨウコは心配性なんだね」
「そういうのは心配性って言わないの!」
「俺なら目をつぶってても運転できるよ。外部カメラがあるからね」
「それは実演しなくていいからね。頼むから普通に運転して」
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学校につくと、迎えに来ている父兄がローハンに注目する。
「うわ、浮いてるなあ。あんた、もうちょっと普通の外見にできなかったの?」
「ヨウコがそのほうがいいって言うんだったら変えてもらおうか? 俺はかまわないけど」
ヨウコ、ローハンをちらりと見る。
「……やっぱりそのままがいい」
「そうだ、皆さんに自己紹介しよう。『ヨウコのパートナーです』って説明した方がいいよね」
「やめてよ。笑顔で挨拶しといてくれればそれでいいわよ」
「ほら、でもシングルファーザーっぽい人もいるよ。ヨウコが狙われないように、しっかりアピールしておかないと」
「誰にも狙われたためしがないから大丈夫だって。それより自分の心配しなさいよ。シングルマザーのほうが圧倒的に多いわよ」
「じゃ、手をつないどこうよ」
「やめてってば。恥ずかしい」
授業終了のベルがなって子供たちが教室から出てくる。ヨウコ、自分の息子を見つけて声をかける
「おーい。ルーク!」
「おかあさん」
ローハン、前に出てルークに挨拶する。
「こんにちは。ルーク」
ルーク、警戒したようにローハンを見る。
「誰、この人?」
「おかあさんのお友達。ローハンっていうの」
「ふうん」
「挨拶くらいしなさいよ」
「……こんにちは」
ルーク、ローハンから目をそらしてヨウコを見上げる。
「今日は歩きなの?」
「ローハンの車に乗ってきたの」
「ふうん」
帰りの車の中、ルークが後部座席に不機嫌そうな顔で座っている。
「今日からローハン、うちに泊まるからね」
「この人、新しい彼氏なの?」
「そうよ。格好いいでしょ」
「そう?」
「ちょっと、あんた、さっきから失礼じゃない?」
ローハンが慌てて割って入る。
「いいよ。ヨウコ、気にしてないから」
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ヨウコの自宅のキッチンで、ヨウコとローハンが話している。
「俺、嫌われてるのかなあ」
「ただの人見知りだと思うけど。コーヒー入れるわ。その辺座ってて」
「ヨウコの家、今見ると何でも床においてあるんだね」
「散らかってるだけよ。それって嫌味?」
「ちょっとルークと話してくるね」
「無理して仲良くならなくていいよ。そのうち慣れるからさ」
ローハン、立ち上がると部屋から出て行く。
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ローハン、ルークの部屋のドアの隙間から中を覗く。
「ルーク、ちょっといい?」
「なに?」
「ルークは俺のこと、気に入らないみたいだね」
「おかあさんのこと、いじめただろ」
「どうして?」
「昨日、おかあさん、泣いてたよ。どうせお前が泣かせたんだろ」
「泣いてたの? 俺のせいで?」
「泣いてないフリしてたけど、下手だからすぐわかるんだ」
「ちょっと誤解があっただけなんだ。もう仲直りしたから大丈夫なんだよ。心配かけてごめんね」
「……本当かなあ」
「本当だよ」
「おかあさんを泣かさないように俺が見張ってるからね。もし泣かせたら追い出すよ」
「分かったよ。泣かさないって約束するからここにいてもいい?」
「約束だよ。破るなよ」
ルーク、ローハンを睨む。