ローハンの製品番号
キッチン ヨウコとサエキがコーヒーを飲んでいる。
「あのさ、映画じゃよくロボットに、名前の代わりに数字やアルファベットが付けられてるじゃない」
「『C-3PO』みたいに?」
「うん。ローハンにはそういうの付いてないの?」
「付いてるよ。えーと、呼び出すから待って。『04899398285691875312001』だな」
「……長いのね」
「最初の4桁が開発部署を表してるんだ。その次の2桁が……」
「いいよ、説明しなくって。そんなの呼びにくくないの?」
「だから、ちゃんと『ローハン』って名前がついてるだろ? そんな番号、管理にしか使わないよ。番号で呼ぶなんて感じ悪いだろ?」
「ロボットでも?」
「ロボットは名前で呼ぶのが慣習になってるよ。名前ってのは大切なモノなんだ。名前をつけることによって相手に生命を与えることになるからね」
「いのち? サエキさんがそんな非科学的なこというなんて意外だわ」
「まあ、生命ってのはおおげさかもしれないけどさ、例えば試作品Bの3号って名前をつけるよりは『ハナコ』って呼んだ方が愛情もわくだろ。要は こっちの気持ちの持ちようだよ。24世紀じゃ、たとえモノでも敬意を持って扱うように教えられてる。なんでもかんでも使い捨てなんかにはしないんだよ」
「まさか炊飯器にまで名前付けたりしてないでしょうね?」
「え? そこの炊飯器だったらマナミちゃんだけど?」
ローハンがのっそり入ってくる。
「何の話をしてるのさ?」
「お前の製品番号の話」
「ええ、俺に製品番号なんてついてるの?」
「ロボットだからな」
「へこむなあ」
「へこむことないだろ? ハルちゃんと一番違いだぞ。連番だ」
「そんなのちっとも嬉しくないけど? 俺についてる番号って『会社』のデータベースのだけかと思ってたよ」
「ガムランの使ってる奴か?」
「うん、俺は『34987648』だよ」
「どういうシステムなんだ?」
「通し番号だよ。あの人、トイレの備品にまで通しで番号つけてるからさ、欠番も多いんだ。サエキさんは『29699858』だろ」
「ええ? 職員にまで番号つけてるのか?」
「ほとんど使わないんだけど、昔誰かが始めたから続けてるらしいよ」
「あいつ本人は何番なんだよ」
「ガムラン? 自分にはつけてないよ。自己管理には自信あるんだって」
「嫌味な奴だなあ」
ヨウコ、ローハンを見る。
「誰がローハンって名前を付けてくれたの?」
「ウサギさんの奥さんだよ。すごくかわいい人なんだ。会うたびに思わず抱きしめて頬ずりしたくなっちゃうよ」
「ええ? そんなにかわいいの?」
「うん。耳は短いんだけど、色は薄いグレーで、ほっぺたなんてウサギさんよりふわふわなんだ」
「ああ、そういう事ね。妬いた自分が馬鹿だったわ」
サエキが笑う。
「そういう事だな」




