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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
79/256

ローハンの製品番号

 キッチン ヨウコとサエキがコーヒーを飲んでいる。


「あのさ、映画じゃよくロボットに、名前の代わりに数字やアルファベットが付けられてるじゃない」

「『C-3PO』みたいに?」

「うん。ローハンにはそういうの付いてないの?」

「付いてるよ。えーと、呼び出すから待って。『04899398285691875312001』だな」

「……長いのね」

「最初の4桁が開発部署を表してるんだ。その次の2桁が……」

「いいよ、説明しなくって。そんなの呼びにくくないの?」

「だから、ちゃんと『ローハン』って名前がついてるだろ? そんな番号、管理にしか使わないよ。番号で呼ぶなんて感じ悪いだろ?」

「ロボットでも?」

「ロボットは名前で呼ぶのが慣習になってるよ。名前ってのは大切なモノなんだ。名前をつけることによって相手に生命を与えることになるからね」

「いのち? サエキさんがそんな非科学的なこというなんて意外だわ」

「まあ、生命ってのはおおげさかもしれないけどさ、例えば試作品Bの3号って名前をつけるよりは『ハナコ』って呼んだ方が愛情もわくだろ。要は こっちの気持ちの持ちようだよ。24世紀じゃ、たとえモノでも敬意を持って扱うように教えられてる。なんでもかんでも使い捨てなんかにはしないんだよ」

「まさか炊飯器にまで名前付けたりしてないでしょうね?」

「え? そこの炊飯器だったらマナミちゃんだけど?」


 ローハンがのっそり入ってくる。


「何の話をしてるのさ?」

「お前の製品番号の話」

「ええ、俺に製品番号なんてついてるの?」

「ロボットだからな」

「へこむなあ」

「へこむことないだろ? ハルちゃんと一番違いだぞ。連番だ」

「そんなのちっとも嬉しくないけど? 俺についてる番号って『会社』のデータベースのだけかと思ってたよ」

「ガムランの使ってる奴か?」

「うん、俺は『34987648』だよ」

「どういうシステムなんだ?」

「通し番号だよ。あの人、トイレの備品にまで通しで番号つけてるからさ、欠番も多いんだ。サエキさんは『29699858』だろ」

「ええ? 職員にまで番号つけてるのか?」

「ほとんど使わないんだけど、昔誰かが始めたから続けてるらしいよ」

「あいつ本人は何番なんだよ」

「ガムラン? 自分にはつけてないよ。自己管理には自信あるんだって」

「嫌味な奴だなあ」


 ヨウコ、ローハンを見る。


「誰がローハンって名前を付けてくれたの?」

「ウサギさんの奥さんだよ。すごくかわいい人なんだ。会うたびに思わず抱きしめて頬ずりしたくなっちゃうよ」

「ええ? そんなにかわいいの?」

「うん。耳は短いんだけど、色は薄いグレーで、ほっぺたなんてウサギさんよりふわふわなんだ」

「ああ、そういう事ね。妬いた自分が馬鹿だったわ」


 サエキが笑う。


「そういう事だな」


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