表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
73/256

キースからの贈り物

 サエキが居間に入ってきてヨウコに声をかける。


「ヨウコちゃん、小包が届いたよ。人が配達してくれるのっていいもんだねえ」

「私宛? オークションで買った鍋かしら?」


 ローハン、呆れた顔でヨウコを見る。


「え? また鍋、増えたの?」

「いいや、小さいから鍋じゃないだろ」


 サエキ、小さな包みをヨウコに手渡す。


「ああ! キースからだ。なんだろう?」


 急いで包みを開けるヨウコをローハンが憂鬱そうに眺める。


「あいつ、人の妻に何を送りつけてるんだよ?」

「誕生日プレゼントだって。うわ、かわいい!」

「セレブ面してブランド物でも送ってきたの?」

「これ、雑誌で紹介されてて、かわいいなあ、って言ってたんだ。ちょうどキースが遊びに来てたのよね。よく覚えてたなあ」

「忘れようったって忘れられないんだよ、コンピュータなんだから。それ、見せてよ」

「スペインの田舎の彫金作家が限定で作ってるの。入手困難って書いてあったのにな」


 ローハン、眉を寄せる。


「……ヨウコ、これ指輪だろ?」

「うん。かわいいでしょ」

「よその男から指輪なんて貰うか?」

「よその男って言ったってキースだもん。他意はないわよ」


 サエキが急いで割って入る。


「その通りだよ。ヨウコちゃんが欲しがってたモノを贈ったってだけだろ? 気にせずもらっておきな」

「それじゃ、結婚指輪とは違う指につけてよ。わかった?」

「ひひー」

「……俺の『あっと驚く誕生日プレゼント』を見て腰抜かすなよ」

「もうそれ、嫌だってば」

「残念ながら今年は赤ちゃんじゃないんだよ」

「本当なんでしょうね?」

「だって、ヨウコ、一人産んだばかりじゃないか」

「なんだ、心配して損しちゃった」

「もしかして最近乗り気じゃないのはそのせい?」

「そうよ」

「言ってくれりゃいいのに」

「だって、なんとなく言いにくいじゃない」

「心配しなくても三人目は来年の誕生日まで待つよ。早いほうがいいなら今年のクリスマスでもいいけど」

「あの、私、子供は二人って決めてるから」

「ええ? 俺は六人ぐらい欲しいなあ」

「諦めなさい」


 ローハン、寂しそうな顔をする。


「そんな顔するのもやめなさい」

「……まあいいや。とにかく俺のプレゼント、楽しみにしててよ」

「早くちょうだいよ」

「プレゼントはケーキ食べた後にもらうのが、我が家の決まりだろ」

「期待してるからね。そうだ、キースにお礼の電話してこよう」


 ヨウコが部屋から出て行くと、ローハンが恨めしそうにサエキの方を向く。


「サエキさん、何が気にせずもらっときな、だよ。俺は気になるよ」

「仕方ないだろ? キースの気持ちをヨウコちゃんに気づかせるんじゃない。誕生日プレゼントぐらいなら構わないだろ?」

「ヨウコは鈍いから、どうせ気づきやしないよ」


 サエキ、ため息をつく。


「それにしてもあいつ、何考えてるんだろうなあ? いつも欲しい物は全力で手に入れるくせに、おとなしすぎて気味が悪いよ」


 ローハン、真面目な顔になる。


「どうしたらいいのかわかんないんだよ」

「え?」

「キースさ、どうしたらいいのかわかんないんだ。だって、好きだって言ってみたところで、俺とハッピーな結婚生活を送ってるヨウコが、キースを受け入れるわけないだろ? 動きようがないじゃないか」

「そりゃそうか」

「俺を殺しでもしない限り、ヨウコは手に入らないよ」


 サエキとローハン、顔を見合せる。


「……いや、やるんだったらもっと早くやってるだろう」

「思いついてないだけかもしれないよ」

「お前に手を出せば、あいつだってただじゃすまないからな」

「完全犯罪を企んでるのかも」

「いくらわがままでも自分の都合で人まで殺さないさ」

「俺、モノだけど?」

「そうだったな」


 ローハン、宙に向かって話しかける。


「おい、キース!」

「話しかけてどうする?」


 キースが通信で返事をする。


『何か用?』

「俺、まだ死にたくないんだけど」

『……それはそうだろうなあ。何かあったの? まさか死ぬんじゃないだろうね?』

「いや、そんな予定はないけどさ」

『そりゃ、よかった。君は見てて飽きないからね、いなくなってもらっちゃ退屈だ。それにしても君は相変わらず意味不明だな』


 サエキが笑う。


「いつものことだ。いちいち気にしちゃやってられんぞ」

『今、ヨウコさんと電話で話してるところなんです。プレゼント、気に入ってもらえたようですね』

「お前、ローハンと違ってそういうの選ぶのうまいよな」

『何にするかずいぶん悩んだんですよ』


 ローハン、不機嫌そうに尋ねる。


「でも、指輪はちょっとまずいかなあ、とは思わなかった?」

『彼女に贈るみたいでいいよね。僕もおそろいで作ってもらっちゃったよ』

「だから、それがまずいとは思わなかったのか、って聞いてるんだ」

『ぜーんぜん』

「ずうずうしい」

『二週間後からまたそっちで撮影なんだ。お邪魔するよ』

「ほんと、お邪魔だよ。もう切るからな」


 ソファにもたれこんだローハンを見て、サエキが笑う。


「どうやら殺される心配はないみたいだぞ。あいつ、今のままでも結構幸せなんじゃないのか?」

「そうみたいだね。命拾いしたよ。気が変わらなきゃいいんだけど」

「ところでお前のプレゼントってなんなんだ?」

「ウサギだよ」

「はあ?」

「見たい? そこの戸棚に隠してあるんだ。連れてくるね」

「ウサギぐらいであのヨウコちゃんがあっと驚くか?」

「見ればわかるって」


 ローハン、ウサギの入ったかごを持ってきてサエキに差し出す。


「うわあ! こいつ、ウサギに瓜二つじゃないか」

「ほら、驚いただろ? 俺もペットショップで見つけてびっくりしたんだよ。ウサギさんがいるのかと思っちゃった」

「でもさあ、ヨウコちゃん、そういう『びっくり』を期待してるんじゃないと思うんだけど」

「俺もそこが疑問だったんだよね。今年も失敗しちゃったかなあ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ