表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
64/256

追跡

 ローハン、不安そうに道路の先を見つめる。


「サエキさん……もし24世紀に連れて行かれちゃったら……」

「ガムがすぐに見つけてくれるよ」

「連れ込んでしまえば隠し場所なんていくらでもあるだろ? ヨウコをさらった目的も分からないんだよ。手遅れになったらどうするんだよ?」

「落ち着けよ。追いつけるよ」


 キースから通信が入る。


『ローハン、信号も渋滞も強行突破されるんだ。もっとスピード出せないの?』

「応援は頼んでくれたんだろ?」

『処理班が向かってるけど、彼らの専門は事後処理だからね、君に任せるしかないんだよ』

「くそ……」


 ローハン、いきなりサエキの方を向く。


「サエキさん、いいモノ見つけたよ。これなら、いけるかも」

「なにがいけるんだ?」

「全部俺の責任だから、心配しないでね」

「え? 何の話だよ?」


 ローハン、目をつぶって下を向く。


「お、おい、なんでそんなに集中してるんだ? 車、ぶつけないでくれよ」

「……セキュリティが思ったより厳重なんだ」

「セキュリティ? 何する気だ? おい、ローハン……」


 顔を上げて、笑みを浮かべたローハンを、サエキが訝し気に見つめる。


「お前……何で笑ってんだよ……」


 突然、前方に巨大な光の柱が現れ、一瞬あたりが明るくなる。


「うわ! なんだ、あれ?」

「道路をちょん切ったんだ。これなら止まるだろ」

「い、今の……攻撃衛星か? あんなもの、どうやって動かしたんだ?」

「誰も使ってないから借りちゃったんだ。ほら見えたよ」


 前方の道路の中央が大きくえぐれて煙を上げている。手前で停止していた赤い車がUターンして再び走り出す。ローハンが後部座席のウーフに声をかける。


「こっちに来るよ。ウーフ、止められる?」

「まかせておけ」


 ウーフ、車から飛び降りると赤い車に向かって走っていく。


「おい、あいつ、何する気だ?」


 ウーフがボンネットに飛び乗ってフロントグラスに体当たりすると、車が急ブレーキをかけて停止する。サエキが目を覆う。


「うわ、乱暴だなあ」

「俺も行くよ」

「お前はウーフみたいに頑丈に出来てないんだからな。無理するなよ」


 ローハン、赤い車に駆け寄ると、ドアをこじ開ける。後部座席からヨウコが声をあげる。


「ローハン、もう一人いるよ! 気をつけて」


 ヨウコの下敷きになっている男が、握っている銃をローハンに向け発砲する。ローハン、素早く男を殴り倒して、笑顔でヨウコを助け起こす。


「ヨウコ、お待たせ」

「あ、当たらなかったの?」

「当たったよ。ど真ん中。結構痛い」


 ローハンのシャツの鳩尾のあたりに血の染みが広がる。


「馬鹿! どうして避けないのよ?」

「だって、ヨウコを人質に取られたら困るだろ? こいつに冷静な判断ができないうちに終わらせたかったんだよ」

「そんなの無茶苦茶じゃない。大丈夫なの?」

「頭さえ撃たれなければ俺は死なないんだよ。ヨウコは大丈夫だったの?」

「うん、この人、クッションにしちゃった」

「ヨウコのお尻でつぶされちゃったんだね」


 ヨウコ、ムッとしながら車から這い出そうとする。


「う、痛たたたた」

「どうしたの?」

「肋骨、ぶつけたみたい。ひび、いったかも」

「ええ!」

「ローハンこそ、手が血まみれだよ」


 ローハン、自分の手に目をやる。


「大丈夫。ドアを開けたときに切れただけだよ」

「さっき道路に穴を開けたの、あなたなんでしょ? 凄いこと出来るのね。この人達、私を24世紀へ連れて行くつもりだったのよ」

「間に合ってよかった」

「絶対来るってわかってたから心配しなかったよ」


 キースから通信が入る。


『ローハン、うまいことやったみたいだな。ヨウコさんは無事?』

「うん、ヨウコは大丈夫だよ。ありがとう。キース」


 サエキがローハンの後ろから車内を覗き込む。


「ヨウコちゃん、無事でよかったよ。ローハン、そいつら動けないようにしばっとけよ」

「サエキさんがやってよ。何にもしてないんだから、ちょっとは役に立ってみたら? その人達ならほっといても当分は起きないとは思うけど」

「何もしてないって、お前みたいな事できるかよ。そろそろ処理班が着くそうだ。ウーフもよくやったな」


 ウーフ、運転席で気を失っている男を覗き込む。


「そいつ、死んだのか?」


 ローハン、笑う。


「まだ生きてるよ。サエキさん、ヨウコを病院に連れてってくれる? 胸を打ったみたいだから」

「それよりもローハンが撃たれたの。血が出てるんだけど、大丈夫かな?」

「ええ! ほんとか? 見せてみろよ。気をつけろって言ったのに……」

「うん……」

「どうした? こっち向かなきゃ見えないだろ?」


 ローハン、体を動かそうとして、そのまま車の座席にくずおれる。


「ローハン? どうしたの?」

「おい、お前、動けないのか?」

「あれれ? あのぐらいなら平気だと思ったのにな」

「こんな至近距離で撃たれてただで済むわけないだろ? 自分を何だと思ってるんだよ? あっちに戻って修理だな」


 サエキ、ローハンの身体を仰向けにして、血に濡れたシャツのボタンをはずす。ヨウコが不安そうにローハンを見つめる。


「ローハン、死んじゃったりしないよね?」

「これくらいじゃこいつは死なないよ。あーあ、でかい穴、開いちゃってるよ。これ直すの面倒だなあ」


 ローハン、口をとがらせる。


「ヨウコの前で格好悪いなあ」

「ここまでは格好良かったから安心して」

「惚れ直した?」

「スーパーヒーローみたいだったよ」

「ヨウコ、ちゃんと病院に行くんだよ。俺、ちょっと眠るからね。サエキさん、ヨウコと子供達を頼むよ」


 サエキ、うなずく。


「わかった。そのほうがいいな」

「え? 何で寝ちゃうのよ?」

「セーフティモードっていうのかな。体の機能がうまく働かなくなって、電力や酸素を頭脳に供給できなくなったときに、頭だけ切り離して休止させるんだよ」

「……そんな深刻なことをさらっと言ったわね」

「心配ないってば」


 ローハン、ヨウコを見上げて笑う。


「ヨウコ、また後でね。アーヤを迎えにいってあげて。クリスばあちゃんのところにいるからね」

「うん、わかったよ。早く戻って来てね」


 ヨウコがキスすると。ローハンが笑って目をつぶる。


「サエキさん、さっさと持って帰って直してよ。じゃないと、もう出入り禁止だからね」


 サエキ、困った顔で頭をかく。


「出入り禁止って言われてもなあ」

                             

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ