ある日の一幕
立体駐車場でヨウコが周囲を見回してながら歩いている。しばらくしてポケットから携帯を取り出すと短縮ボタンを押す。
「もしもし、キース?」
『ヨウコさん、どうしたの?』
「車をどこにとめたのか分からなくなっちゃったのよ。駐車場の防犯カメラで見えないかな?」
『七階のB列の一番奥から五台目だよ』
「そんなに上にとめてたんだ。助かったよ。ありがとう」
『どういたしまして』
「今からローハンと待ち合わせなんだ。車が見つからなくて遅れたなんて言ったら、しばらくからかわれるからさ。立体駐車場にとめると絶対に迷うのよね」
『どこで会うの? 慌てて行って事故なんて起こさないでよ』
「うん、ありがとう。トニーのカフェでお昼を食べる約束なんだ」
『楽しんできて。トニーにもよろしくね。じゃ』
「ねえ、キース」
『なに?』
「いつも変なことばっかり頼んでごめんね。ついつい頼りにしちゃうんだ」
『頼ってもらって構わないよ。僕は暇なんだからいつでも電話してよ』
「『守護天使』がついててくれるってこんな感じなのかな? 今、ニューヨークなんでしょ?」
『俳優端末はね。再来週またお邪魔するよ』
「来月末まで忙しいのかと思ってた。楽しみにしてるよ。じゃあ、また電話するね」
『うん。またね』
通話を終えたとたんに携帯が鳴る。
「ローハン?」
『よかった、通じた。誰かに電話してたの? 俺、ちょっと遅れそうだから先に行っててよ。アーヤのオムツを換えてから行くよ』
「うん、わかった」
『また車探してただろ? 七階だよ』
「知ってるもんね。今向かってるところ」
ローハン、笑う。
『ほんとに? 怪しいなあ。じゃあ、トニーのところでね』




