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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
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オーダーメイドの男

 ヨウコの家の居間、サエキがソファに座ってローハンの頭を調べている。ヨウコは向かい側の椅子に座って眺めている。


「むちゃくちゃだよ。こんなところ切っちゃって血まみれじゃないか。明日出直そうって言っただろ? なんで待たないんだ」

「出直したって証拠を見せなきゃどうせ同じことの繰り返しだろ? ヨウコに誤解されたままだなんて、我慢できなかったんだよ」

「で、フラれるつもりだったのか? 俺の立場も考えろ」

「フラれなかったからいいだろ? 痛いよ。サエキさん。ずきずきしてきた」

「自業自得だ。頭の感覚を切ればいいだろ?」


 ヨウコ、感心してローハンの顔を覗き込む。


「へえ、そんな事ができるんだ。便利なのね」

「感覚がなくなったら、ヨウコにチュウされてもわかんなくなっちゃうもん」

「チュウなんてしないから切りなさいよ。ところでサエキさんって……なんなの? 仕事仲間なんかじゃないわよね」

「『じいさん』との契約にはアフターケアもはいっててさ、俺がローハンの担当者なんだ。だから仕事仲間と言えば仕事仲間だけどさ。ヨウコちゃんとローハンがうまくやっていけるか当分見守るつもりだからね。カウンセラーの資格も持ってるから何でも相談してよ」

「……ふうん。ねえ、なんで急にタメ口になってるの? 『ヨウコちゃん』って、ずいぶん馴れ馴れしくない?」

「え? ああ、あんまり焦ったんで忘れてた。俺、丁寧語とか敬語とか凄く苦手なんだ。いいだろ?」

「別にいいけどさ」

「ヨウコちゃん、本当に平気なの? 普通、この時代の人がこれを見たらトラウマになるよ」

「そうなの? 格好いいけどなあ。SF映画みたいだよ」

「ヨウコちゃんって俺の思ってたのとイメージ違うなあ。お前と似合いだわ。ローハン」


 ローハン、嬉しそうに目を輝かせる。


「ほんと? やった!」

「ところで『この時代』ってどういう意味よ?」

「俺ら、24世紀から来たから。正確には346年と二ヶ月後」

「嘘だ」

「信じないならそれでいいけど」


 ローハンが慌てて口を挟む。


「ほんとだよ。ヨウコ」

「また証拠を見せるとか言って変なことされたら困るから信じるわ」


 サエキ、小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「この時代の科学でこんなの作れっこないだろ? 常識的に考えろよ」

「あんた達みたいな非常識な人間から言われたくないわね」


 ヨウコ、ローハンを眺める。


「道理でモデル並みの格好良さなわけね。何から何まで私のタイプだと思ったらオーダーメイドだったとは」

「金に糸目をつけない注文だったからね。デザインもなんせあのサルバドール・ヤマモト・デンデロヴィッチに頼んだし」

「名前からして嘘臭いんだけど。どこの人なのよ?」

「なんてこと言うの、ヨウコちゃん! サルバドールだよ。ローハンはこの時代でいうとフェラーリ十台分くらいの価値があるんだよ」

「へえ、凄いのね。売れるかしら?」


 ヨウコ、ローハンのショックを受けた顔を見て笑う。


「冗談よ」

「……サエキさん、ヨウコって性格悪いよ。知ってたの?」

「お前ってからかいたくなるタイプだよな。やって行けそう? ヨウコちゃん、ホチキスあるかな?」


 ヨウコ、立ち上がると引き出しの中からホチキスを出し、サエキに手渡す。


「これでいい?」

「ありがとう。ローハン、動くなよ」


 サエキ、ローハンの後頭部の傷をパチンと止める。


「痛いよ。サエキさん」

「感覚を切れって!」

「だって」


 ローハン、ヨウコをじっと見つめる。


「わかったわよ。目、つぶって。ちゃんとつぶってよ」


 ヨウコ、少しためらってからローハンにキスする。


「ほら、ちゃんと感覚切りなさいよ」

「やだ。ヨウコの薄くて硬いくちびるの感触が消えちゃう」


 ヨウコ、怒った顔でサエキを見る。


「サエキさん、やっちゃって。なるべく痛く」

「おう」


 サエキ、ローハンの傷をホチキスでパチパチ止める。


「いたたたた……」

「とりあえず、応急処置したけど一度戻ってちゃんとくっつけないとな」


 ヨウコ、不安そうな顔になる。


「連れて帰っちゃうの? その……未来に?」

「ねえ、サエキさん。俺、帰りたくないよ」


 サエキ、呆れた声を出す。


「お前が馬鹿なことするからだろ? 急ぎでやってもらうから我慢しろ」

「ヨウコを置いてはいけないよ。せめて朝まで待って」

「いいから、帰りなよ。そんな頭の皮がブカブカ浮いてる男は嫌だってば。ちゃんと治してもらってよね」


 ローハン、不満そうに立ち上がる。


「ヨウコ、気が変わったりしない?」

「するわけないでしょ。明日、また一時にトニーのカフェで会おうよ。ね」

「うん」


 ローハン、名残惜しそうにヨウコを抱きしめる。


「サエキさん、ヨウコ、持ってっちゃだめ? ちゃんと面倒見るからさ」

「捨て犬じゃないんだぞ。明日また会えるだろ。じゃね、ヨウコちゃん」


 ローハン、しぶしぶとヨウコから離れる。


「おやすみ。ヨウコ」


 ローハンとサエキ、ドアを開けると部屋から出て行く。一人残されたヨウコ、しばらく立ったまま外を眺めている。


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