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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
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ヤドリギの下で

 その日の夕食後 ヨウコが居間のソファに座ってテレビを見ている。隣のローハンが落ち着かない様子でちらちらとヨウコに目をやる。


「ねえ、ローハン。そわそわしちゃってどうかしたの?」

「ヨウコさあ、トイレとかキッチンに行く用はないのかな?」

「ないよ。クリスマスディナーでお腹が一杯なんだから、のんびりさせてよね」


 ヨウコ、ローハンの顔を見る。


「何か企んでるでしょ?」

「なんにも企んでないよ」

「ふうん。……まあいいや。そのうちわかることだし」

「何も企んでないって言ってるだろ?」


 ヨウコ、いきなり立ち上がる。


「やっぱりコーヒーいれてこよう」

「ええ? どうしてそんなに突然気が変わるの? ちょっと待ってよ」


 ヨウコ、部屋から出ようとして、ちょうど入ってきたキースとぶつかる。


「うわ、ごめん」


 キース、何も言わずにヨウコを抱き寄せてキスする。ヨウコを追ってきたローハンが声を上げる。


「ああ! 何してるんだよ?」


 キース、廊下の天井からぶら下がっている植物の束を指差す。


「だって、それ、ヤドリギだろ?」

「ああ、本当だ。ローハンの仕業ね」


 ローハン、ふくれる。


「俺がヨウコにチュウしようと思ったのに」

「ヤドリギの下なら誰にでも権利はあるんだろ? 君に文句を言われる筋合いはないよ」


 キース、ローハンの横を通って居間に入る。


「やった。ボーナスポイント、ゲットしたわ」

「なにそれ? 俺の計画ぶち壊しやがって、むかつくなあ」

「ヤドリギなんかなくても、あんたとならいつだってチュウできるじゃない」

「一度やってみたかったんだよ」

「恋愛映画の見すぎじゃないの?」

「それはヨウコだろ?」


 サエキがやってくる。


「こんなとこで何やってるの?」

「キースとチュウ」

「ええ?」

「ほら、それ見て」


 ヨウコ、ヤドリギを指差す。


「それは……ヒマワリだな」

「これのどこがヒマワリなのよ? またその眼鏡でしょ」


 サエキ、眼鏡をはずす。


「最近どの植物を見ても五回に一回は『ヒマワリ』って表示されるんだよな。故障かな?」

「それ、もう捨てたら?」

「植物以外は問題ないんだけどなあ」


 ヨウコ、伸びあがって素早くサエキにキスする。


「うわ。何すんの?」

「ボーナスポイントのおすそ分け。それ、ヤドリギって言うのよ」

「ええ、これがそうなの?」


 キッチンに向かって歩き出したヨウコをローハンが追う。


「ヨウコ、さっきから何してるんだよ?」

「だって誰にチュウしてもいいんでしょ?」

「そうだけどさあ」


 ローハン、ヨウコに追いついてヨウコの顔を覗き込む。


「なんでそんなにニヤニヤしてるの?」


 ヨウコ、笑い出す。


「ああ! 俺の反応を見て楽しんでるんだろ?」

「だって、ローハン、馬鹿みたいなんだもん。かわいいったらありゃしない」

「ヨウコにチュウしたかっただけだろ?」

「じゃ、今しようよ」

「ヤドリギの下がいいの」

「細かいなあ。どこでだっていいじゃない。それじゃコーヒーいれるまで待ってくれる?」


        *****************************************


 居間に入ってきたサエキが、坐っているキースに話しかける。


「お前が廊下でうろうろしてたのはそういうことか」

「タイミングが命でしたからね」

「ヨウコちゃんは『チュウ友』なんだろ? ヤドリギなんてなくってもチュウできるんじゃないの?」

「一度やってみたかったんですよ」

「恋愛映画の見過ぎじゃないのか?」

「この世に見ていない映画はないですから、見過ぎといえば見過ぎですね。ところで、ヨウコさん、サエキさんにキスしましたよね?」

「うん。それがどうかした?」

「ヨウコさんの方からキスしましたよね?」

「……お前、俺に妬いてるだろ?」

「別に」

「妬いてるじゃないか。お前を怒らせると不幸がふりかかりそうで嫌なんだよ。ヨウコちゃんはな、純粋にローハンをからかいたくてチュウしただけだからさ、気にするなよ」

「そんなの、どうしてわかるんですか?」

「俺、エンパスだからな。ヨウコちゃん、俺を男として見てないんだ」

「エンパスなんて存在しませんよ」

「信じたくなきゃ信じなくていいけどさ、俺を恨むのだけはやめてくれ」

「そんな事しませんよ。ところで青いキャミソールの子の電話番号の件ですが……ちなみに彼女はミカエラっていうんですけどね」

「ああ、一体何が望みなわけ?」

「今回の滞在中にヨウコさんと外出したいんですが、なんとかなりませんか? 一、二時間でいいんです」

「要するにローハンに邪魔されずにヨウコちゃんとデートしたいってことだな」

「はい、そうです」


 サエキ、考え込む。


「俺の立場もあるしなあ」

「電話番号、全部あげますけど? 他にも気になってる子がいるんでしょ?」

「ヨウコちゃんがお前の気持ちに気づかないって保証はあるのか?」

「ヨウコさん、鈍いですからね。それにサエキさんには迷惑かけないって約束したでしょ? 信じてもらって大丈夫です」


 サエキが顔を上げて、笑いながら入って来たヨウコとローハンに話しかける。


「ローハンの機嫌、直ったみたいだな」

「うん。ヤドリギの下でチュウしたらもうご機嫌よ。単純なものよね」


 ローハン、ムッとした顔でヨウコを見る。


「なんだよ、偉そうに。あんな物凄いチュウしときながら、そんな事言うの?」


 ヨウコ、赤くなる。


「いいじゃない。ほんとの事言うとね、一度ヤドリギの下でチュウしてみたかったのよね」


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