表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
56/256

クリスマスの日の勝負

 クリスマスの日の午後、ヨウコがうきうきした足取りで居間に入ってくると、ローハンに話しかける。


「家族で過ごすクリスマスっていいものね。七面鳥をオーブンに入れてきたから、後はのんびり出来るわ」

「ヨウコのクリスマス嫌いが治ったのはいいけどさ、どうして今年もあいつがいるんだよ?」


 ソファに座って本を読んでいたキースが顔をあげる。


「今年から年末には仕事を入れないことにしたんだ」

「それがいいわ。クリスマスはともかく、お正月はやっぱり家族と過ごさなくっちゃね」

「いつから家族に格上げになったんだよ? 友達でも十分過ぎるぐらいだろ?」

「キースはアーヤの叔父さんなのよ。それに人間のフリしてる機械って、この時代じゃあんたたち二人だけなんでしょ? 兄弟みたいなものなんだから、仲良くしなさいよね」


 ローハンとキース、お互いを睨む。


「こいつと一緒にするなよな」

「そこのパソコンと兄弟だって言われたほうがましだけど?」

「パソコンは兄弟じゃなくてご先祖様だろ? もっと敬意を払ったらどうなのさ?」


 サエキが入ってきて、二人の顔を眺める。


「何? また喧嘩?」

「そうなのよ。仲がよくって微笑ましいわ」


 ローハン、ムッとする。


「違うだろ?」


 サエキの表情が明るくなる。


「喧嘩はいかんな。そういう場合は勝負で決めよう。それがいい」


 キース、無表情でサエキを見上げる。


「まだやるんですか?」

「サエキさん、はまってるわねえ」

「だって面白いだろ? 先月の『電話番号聞き出し対決』は最高だったよな」

「もう、人の夫にそういう事させないでくれる?」

「帰ってからヨウコに散々怒られたよ」

「いいじゃないか。変装させたから誰だかバレてないって。それに後々あのリストが役にたつかもしれないだろ?」


 ヨウコ、冷ややかに笑う。


「サエキさんのズボンのポケットに入ってた紙の束なら、洗濯したときに捨てといたわよ」

「ええ? なんてことするんだよ」

「清純な機械たちをナンパの道具に使うんじゃないわよ。ローハンはともかく、よくキースがそんな話に乗ったわね」

「そう? いい演技の勉強になったよ」

「キースの圧勝だったよな。素顔も見せてないのにまさに神業だ」


 ローハン、ふくれる。


「納得いかないなあ」

「私にはあんたが負けた理由がよくわかるわ」

「なんだよ。自分は俺に釣られたくせに」


 キースがサエキの顔を見る。


「ところで、あの時の電話番号なら全部覚えてますよ」

「そうか。よかった」

「サエキさんはあの青いキャミソールを着てた子の番号が欲しいんですよね?」

「そうそう、そうなんだ。よくわかったな」

「話によっては教えないでもありませんが」

「なんだよ、それ? そんな事言わずに教えてよ」

「そうはいかないです」

「じゃ、何と引き換えなら教えてくれるの?」

「ここじゃ言えません」

「わかった。じゃ、話は後でな」


 ヨウコ、不満そうな顔になる。


「なんなのよ? 気になるなあ」

「どうせろくでもないことだよ」


 サエキ、ヨウコに向き直る。


「さて、勝負だけど何にする?」

「やっぱりやるのね」

「当たり前だろ? ヨウコちゃん、何かアイデアある?」

「言いだしっぺが決めればいいのに」


 ヨウコが窓の外に目をやると、羊が三頭並んで草を食んでいる。


「羊の毛刈りはどうかな? あの子たち、もこもこで暑そうでしょ? 気になってたんだ」


 ローハン、戸惑った顔で羊達を見る。


「俺、毛刈りなんてやったことないよ。それに、スタンリーさんが時間のあるときに刈りに来てくれるって言ってたけど?」

「うちで刈っちゃってもいいんだろ? 面白そうじゃないか。毛刈り対決にしようよ」

「僕はかまいませんよ。早くきれいに刈ったほうが勝ちってことですよね」

「キースは毛刈りの経験があるの?」

「まさか。羊なんて触ったこともないよ」


 ローハン、キースを睨む。


「じゃあ、なんでそんなに自信ありげなんだよ?」

「僕に出来ないことはないんだよ」

「うひゃ、キース、格好いい」


 ローハン、怒った顔で立ち上がる。


「じゃ、外行こうよ。俺にも羊飼いの意地があるからね。負けないよ」


        *****************************************

     

 ヨウコ達が外に出ると、羊たちが草を食べるのをやめて、疑い深そうにこちらを見る。サエキ、ローハン達を急かす。

「ほら、早く捕まえて来いよ」

「あいつら、もの凄くすばしっこいんだよ。ウーフに頼まなきゃ無理だって」

「それならさっさとウーフを呼べよ」

「ウーフならルークのクラスメイトのクリスマス会にくっついてったわよ」

「ええ? じゃ、毛刈りなんてできないじゃないか」


 サエキ、気を取り直してローハン達の方を向く。


「……わかった。それじゃ、まずはどちらが先に羊を捕まえるか勝負だな」


 ローハン、ふくれる。


「冗談はやめてよ。相手は四本足だよ。俺に捕まえられるはずないだろ?」

「僕も嫌です。こんな真夏日にオゾンホールの真下で羊を追いかけ回したら、日焼けしちゃうでしょ?」


 ローハン、馬鹿にしたようにキースを見る。


「日焼けぐらいしたって構わないだろ? どんだけヤワな端末なんだよ。肌、真っ白じゃないか」

「正月が明けたらすぐに撮影に入るんだよ。次は病人の役だからさ、健康的に日焼けしてちゃまずいだろ?」


 ヨウコ、納得した表情になる。


「だから今回あんまり外に出ないんだ。俳優って自己管理が大変なのね。そういやローハンは毎日、日に当たってるのにたいして焼けないわね。地黒だからかしら?」

「俺のお肌はUV防止加工してあるんだよ」

「ずるいなあ。妻がシミだらけになっても,自分だけきれいでいるつもりなんだ。なんて男なんだろ」

「ええ? 俺にシミができて嫌な思いをするのはヨウコだろ?」

「それはそうなんだけどさ」


 サエキ、不満そうに周りを見回す。


「じゃあ何で勝負するんだよ?」

「サエキさん、決めたら呼んでよ」

「僕は中に入りますから」

「おい、お前ら、最近ノリが悪くないか?」


 ヨウコ、笑う。


「もう勝負にも飽きてきちゃったんでしょ。コーヒーでも飲もうよ。暑いからアイスコーヒーでいいよね」


ニュージーランドは南半球にあるので、12月は夏です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ