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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
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雪の夜の訪問者

 深夜の自宅でヨウコがぼんやりとソファに座っている。外ではまた雪が降っている。


 ガラスの引き戸をノックする音がする。ヨウコが顔を上げると表にローハンが立っている。


「嘘でしょ?」


 ローハン、にっこり笑ってドアを開けるようにジェスチャーする。ヨウコ、ふらりと立ち上がるが、ドアに近づこうとして動きを止める。


「自宅まで知ってるの? 今すぐうちの庭から出て行かないと警察を呼ぶわよ」

「ヨウコともう一回話したい」

「うるさい、出てけって言ったでしょ」


 ローハン、手を合わせる。


「お・ね・が・い」

「しつこいわねえ。私をうまく騙せたら賞金でも出るの?」

「騙そうとしたんじゃないって証拠を見せるからさ。証拠を見せろって言ったの、ヨウコだよ。だから入れて」

「入れるわけないでしょ。バーカ。早く出てけ」

「お願い」


 ローハン、ガラス戸に張り付く。


「駄目だってば!」

「ヨウコ、もうこれで最後だから。証拠を見せたらすぐに出て行くよ」

「……変なことしたら警察呼ぶからね。その前にこれで殴るから」


 ヨウコ、そばにあった薪割り用の斧を手に持ってから、引き戸を開ける。


「そんなので殴られたら死んじゃうよ。でもありがとう」


 ローハン、中に入って戸を閉める。


「さっさとしてよ。何であんたなんか入れてるんだろ? 私までおかしくなってきたみたい」

「それはヨウコが俺のこと、好きだからだよ」

「そうかもね」

「え、本当に?」


 ローハン、嬉しそうにヨウコに近づいて両手を伸ばす。


「よかった」


 ヨウコ、赤くなって慌てて離れる。


「よかないわよ。もうからかわないで。何が目的なのよ?」

「目的はもう話しただろ? ヨウコの『一つ目の願い(ファーストウィッシュ)』を叶えることだよ」

「じゃあ、あくまでも自分がオーダーメイドのニンゲンモドキだって言い張るのね?」

「いくら口で言ったって信じてくれないだろ? 今から証拠を見せるよ」


 ローハン、ヨウコの顔を見る。


「これを見たらヨウコは俺のこときっと嫌いになっちゃう。でも、俺はヨウコの事、ずっと好きだからね。忘れないでね」

「その意味深な前置きはなんなのよ? 変なことしないでよ」


 ローハン、ポケットからカッターナイフを取り出し刃を引き出す。


「ちょっと、そんなもの出して何するの? 私を殺す気?」


 ヨウコ、一歩下がって斧を構える。


「馬鹿だなあ。ヨウコを殺してどうするっていうんだよ。殺すんだったら首絞めたほうが早いしきれいだよ。いいからそれ、下ろしてよ」


 ローハン、ナイフを自分に向ける。


「ちょっとちょっと、ここで死なれたら困るよ。死ぬんならうちの敷地の外で死んで」

「違うってば。ヨウコはうるさいんだなあ。いいから黙って見てて」


 ローハン、後頭部にナイフをあてると一気に引く。ヨウコ、自分の目を覆う。


「ぎゃー!」


 ローハン、首から上の頭皮をめくる。


「ほら、見て」

「見ない、見ない、見ない! あんたがここまでおかしいとは思ってなかったわ! 出てってよ」

「大丈夫だからさ。見てよ。ヨウコが見るまでは絶対に出て行かないからね」


 ヨウコ、目を開ける。


「ぎゃあ、骨、見えてる!」

「違うよ。よく見てってば」

「……何、それ……。骨じゃないの? 紙? プラスチック?」

「ね。紙でもプラスチックでもないけどさ。拡張するときに開けやすいように脳みそはこういうケースにいれてあるんだ」

「本物……なの?」

「うん」


 ヨウコ、近づいてローハンの頭を覗き込む。


「ロゴみたいなのが入ってるわね。こっち側には殴り書きみたいな不気味な文字が書いてあるけど、封印?」

「ほんと? それ、たぶんデザイナーのサインだな。俺、超人気デザイナーに特注でデザインしてもらったから。そんなところにサインしてあったとは知らなかった」

「また話が嘘臭くなってきたわ。頭の皮なんか切らなくても証明できたんじゃないの?」

「だってここ以外はほとんど人間と変わらないんだよ。そんなとこ、切ったらほんとに頭のおかしい人になっちゃうじゃないか」

「血が出てきてるけど大丈夫なの?」

「うん。平気。これで信じてもらえた?」

「あの話……本当だったんだね。」

「誰もヨウコを傷つけようなんてしてないよ」

「うん」

「分かってくれてよかったよ。びっくりさせてごめん。じゃあ俺は行くね」


 ローハン、悲しそうにヨウコの顔を見る。


「ヨウコは絶対幸せになれるんだからね。もっと自分に自信をもたなきゃ駄目だよ」


 ローハン、ドアをあけると早足で出て行く。立ちすくんでいたヨウコ、慌てて後を追う。


「ローハン!」

「ヨウコ?」


 ローハン、驚いて振り返る。


「何が、絶対幸せになれる、よ。偉そうに。あんた何様のつもり?」


 ヨウコ、ローハンをいきなり突き飛ばす。ローハン、積もった雪の中にしりもちをつく。


「ヨウコ?」

「私を幸せにするのはあんたの仕事なんでしょ!」

「俺?」

「そのために作られたんじゃないの? 馬鹿ロボット。ロボットならロボットらしく私に一生仕えてりゃいいのよ」


 ローハン、ヨウコを見上げて嬉しそうに笑う。


「うん、そうする」


 ローハン、地面に座ったままヨウコの手を取ると、引き寄せて抱きしめる。


「よかったあ。やっぱりヨウコは俺の事、まだ好きなんだ」

「……そうみたい」

「ヨウコはあんなの見ちゃって平気なの?」

「あんなのって何?」

「俺の頭の中身」

「まさかあの話が本当だとは思わなかったから、びっくりしたかな」

「それだけ?」

「でも、血は苦手だなあ。このセーター、気に入ってるんだからつけないでね。血液って洗濯してもなかなか落ちないでしょ」

「……ところで俺、ロボットじゃないよ」

「どうせ作り物なんでしょ? 何だって同じようなものじゃない」

「大違いだろ? ヨウコと同じでニンゲンなの。ニ・ン・ゲ・ン! わかった?」


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