雪の夜の訪問者
深夜の自宅でヨウコがぼんやりとソファに座っている。外ではまた雪が降っている。
ガラスの引き戸をノックする音がする。ヨウコが顔を上げると表にローハンが立っている。
「嘘でしょ?」
ローハン、にっこり笑ってドアを開けるようにジェスチャーする。ヨウコ、ふらりと立ち上がるが、ドアに近づこうとして動きを止める。
「自宅まで知ってるの? 今すぐうちの庭から出て行かないと警察を呼ぶわよ」
「ヨウコともう一回話したい」
「うるさい、出てけって言ったでしょ」
ローハン、手を合わせる。
「お・ね・が・い」
「しつこいわねえ。私をうまく騙せたら賞金でも出るの?」
「騙そうとしたんじゃないって証拠を見せるからさ。証拠を見せろって言ったの、ヨウコだよ。だから入れて」
「入れるわけないでしょ。バーカ。早く出てけ」
「お願い」
ローハン、ガラス戸に張り付く。
「駄目だってば!」
「ヨウコ、もうこれで最後だから。証拠を見せたらすぐに出て行くよ」
「……変なことしたら警察呼ぶからね。その前にこれで殴るから」
ヨウコ、そばにあった薪割り用の斧を手に持ってから、引き戸を開ける。
「そんなので殴られたら死んじゃうよ。でもありがとう」
ローハン、中に入って戸を閉める。
「さっさとしてよ。何であんたなんか入れてるんだろ? 私までおかしくなってきたみたい」
「それはヨウコが俺のこと、好きだからだよ」
「そうかもね」
「え、本当に?」
ローハン、嬉しそうにヨウコに近づいて両手を伸ばす。
「よかった」
ヨウコ、赤くなって慌てて離れる。
「よかないわよ。もうからかわないで。何が目的なのよ?」
「目的はもう話しただろ? ヨウコの『一つ目の願い』を叶えることだよ」
「じゃあ、あくまでも自分がオーダーメイドのニンゲンモドキだって言い張るのね?」
「いくら口で言ったって信じてくれないだろ? 今から証拠を見せるよ」
ローハン、ヨウコの顔を見る。
「これを見たらヨウコは俺のこときっと嫌いになっちゃう。でも、俺はヨウコの事、ずっと好きだからね。忘れないでね」
「その意味深な前置きはなんなのよ? 変なことしないでよ」
ローハン、ポケットからカッターナイフを取り出し刃を引き出す。
「ちょっと、そんなもの出して何するの? 私を殺す気?」
ヨウコ、一歩下がって斧を構える。
「馬鹿だなあ。ヨウコを殺してどうするっていうんだよ。殺すんだったら首絞めたほうが早いしきれいだよ。いいからそれ、下ろしてよ」
ローハン、ナイフを自分に向ける。
「ちょっとちょっと、ここで死なれたら困るよ。死ぬんならうちの敷地の外で死んで」
「違うってば。ヨウコはうるさいんだなあ。いいから黙って見てて」
ローハン、後頭部にナイフをあてると一気に引く。ヨウコ、自分の目を覆う。
「ぎゃー!」
ローハン、首から上の頭皮をめくる。
「ほら、見て」
「見ない、見ない、見ない! あんたがここまでおかしいとは思ってなかったわ! 出てってよ」
「大丈夫だからさ。見てよ。ヨウコが見るまでは絶対に出て行かないからね」
ヨウコ、目を開ける。
「ぎゃあ、骨、見えてる!」
「違うよ。よく見てってば」
「……何、それ……。骨じゃないの? 紙? プラスチック?」
「ね。紙でもプラスチックでもないけどさ。拡張するときに開けやすいように脳みそはこういうケースにいれてあるんだ」
「本物……なの?」
「うん」
ヨウコ、近づいてローハンの頭を覗き込む。
「ロゴみたいなのが入ってるわね。こっち側には殴り書きみたいな不気味な文字が書いてあるけど、封印?」
「ほんと? それ、たぶんデザイナーのサインだな。俺、超人気デザイナーに特注でデザインしてもらったから。そんなところにサインしてあったとは知らなかった」
「また話が嘘臭くなってきたわ。頭の皮なんか切らなくても証明できたんじゃないの?」
「だってここ以外はほとんど人間と変わらないんだよ。そんなとこ、切ったらほんとに頭のおかしい人になっちゃうじゃないか」
「血が出てきてるけど大丈夫なの?」
「うん。平気。これで信じてもらえた?」
「あの話……本当だったんだね。」
「誰もヨウコを傷つけようなんてしてないよ」
「うん」
「分かってくれてよかったよ。びっくりさせてごめん。じゃあ俺は行くね」
ローハン、悲しそうにヨウコの顔を見る。
「ヨウコは絶対幸せになれるんだからね。もっと自分に自信をもたなきゃ駄目だよ」
ローハン、ドアをあけると早足で出て行く。立ちすくんでいたヨウコ、慌てて後を追う。
「ローハン!」
「ヨウコ?」
ローハン、驚いて振り返る。
「何が、絶対幸せになれる、よ。偉そうに。あんた何様のつもり?」
ヨウコ、ローハンをいきなり突き飛ばす。ローハン、積もった雪の中にしりもちをつく。
「ヨウコ?」
「私を幸せにするのはあんたの仕事なんでしょ!」
「俺?」
「そのために作られたんじゃないの? 馬鹿ロボット。ロボットならロボットらしく私に一生仕えてりゃいいのよ」
ローハン、ヨウコを見上げて嬉しそうに笑う。
「うん、そうする」
ローハン、地面に座ったままヨウコの手を取ると、引き寄せて抱きしめる。
「よかったあ。やっぱりヨウコは俺の事、まだ好きなんだ」
「……そうみたい」
「ヨウコはあんなの見ちゃって平気なの?」
「あんなのって何?」
「俺の頭の中身」
「まさかあの話が本当だとは思わなかったから、びっくりしたかな」
「それだけ?」
「でも、血は苦手だなあ。このセーター、気に入ってるんだからつけないでね。血液って洗濯してもなかなか落ちないでしょ」
「……ところで俺、ロボットじゃないよ」
「どうせ作り物なんでしょ? 何だって同じようなものじゃない」
「大違いだろ? ヨウコと同じでニンゲンなの。ニ・ン・ゲ・ン! わかった?」