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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
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ローハン、奮闘する

 翌朝 キッチンでサエキが新聞を読んでいるところに、ヨウコとローハンが笑いながら入ってくる。


「ヨウコちゃん、お誕生日おめでとう」

「サエキさん、ありがとう。今朝は寝坊させてもらっちゃった」

「仲直りしたんだね? そういえば喧嘩したっていつも翌日には仲直りしてるよな」

「俺がヨウコのリセットボタンを押しちゃうからね。朝になったら元通りなんだ」

「リセットボタン? 何のこと?」


 ローハン、赤くなる。


「そんなこと聞かないでよ。イヤラシイなあ」

「ああそういうことか」


 ヨウコ、ローハンを睨む。


「何が『そういうこと』なのよ? おかしなこと言わないで。いつまでも怒ってても仕方ないから仲直りしてあげたんでしょ?」

「それじゃ俺との『めくるめく一夜』とはなんの関係もないっていうの?」

「ないわよ」

「ヨウコちゃん、あるって言ってやれよ。こいつだって一生懸命なんだからさ」


 ローハン、椅子の背に掛けてあったジャケットを取る。


「まあ、いいや。それじゃ俺、出かけてくる」

「ええ? どこ行くのよ?」

「秘密。じゃあね」


 ローハン、ヨウコにキスすると急いで出て行く。


「何あれ?」

「さあなあ?」


        *****************************************                      


 夕方近く、キッチンでヨウコとサエキが話しているところにローハンが入って来る。


「あんた、私をほったらかしにしてどこ行ってたのよ? それに今日は夕食作当番でしょ?」

「ごめんごめん、ほら、着替えておいでよ。出かけよう」

「どこ行くの?」

「そんなの秘密に決まってるだろ? 人前に出ても恥ずかしくない格好しておいでよ」

「え? フォーマルな服なんて葬儀用のしか持ってないんだけど、ワンピースでもいいかな?」

「それでいいよ。三十分で出るから急いでね」


 ヨウコ、不思議そうな顔で部屋から出て行く。


「もしかして予約が取れたのか?」

「うん。朝行ってレストランのマネージャーに直接お願いしてきたんだ」

「ええ? そんな事したって席なんて取れないだろ?」

「マネージャーは女の人だったんだよ」

「なるほど」

「ちょうどいいタイミングでキャンセルが出たから、その席を譲ってもらったんだ」

「それなのにどうしてそんなに時間がかかったわけ?」

「引き換えに半日秘書やらされた」

「ええ? はべらされたってこと?」

「うん。すっかり気に入られちゃってさ。カバン持ちだよ」

「何か変なことして来なかっただろうなあ」

「大丈夫。露骨に誘われたけどチュウで勘弁してもらった」

「やっぱり」

「ヨウコには言わないでね」

「当たり前だ。誰がそんな恐ろしいことするもんか」

「ヨウコ、喜んでくれるかなあ?」

「ほら、お前も着替えてこいよ。こっちに 来たときに買った茶系のスーツがあっただろ? あれがいいんじゃないか?」

「はーい」


 ローハン、急いで部屋を出て行く。


        *****************************************

                                               

 身支度を終えたヨウコが戻ってくると、サエキの前で回って見せる。


「これ、どうだろ? カーディガンを羽織ればいけるよね」

「なかなかいいじゃない。36には見えないよ」

「それって褒め言葉だと思っていいのよね?」


 スーツに着替えたローハンが部屋に駆け込んでくる。


「ねえ、ネクタイ、これでいいかなあ?」

「うひゃあ! モデルみたいよ。そんな服着てるの初めて見たわ 」

「スーツなら結婚式でも着てただろ?」

「だって真っ白いスーツなんて着るんだもん。馬鹿みたいじゃない」

「ええ? 馬鹿みたい? じゃ、どうして言ってくれなかったのさ?」

「あんたが白じゃなきゃ嫌だって言い張るから譲ったんでしょ」

「似合ってると思ったのになあ。カッコ悪かった?」

「似合いすぎてどっかのテーマパークで巡回してる王子様みたいなんだもん」

「それって凄くカッコいいじゃないか。文句言わなくってもいいだろ?」


 サエキが急かす。


「ほら、早く行かなきゃ間に合わないぞ」

「どこに連れてってくれるんだろ。楽しみだなあ。ローハン、ちょっと来て」

「なに?」


 ヨウコ、ローハンに抱きついてキスする。


「スーツって効果あるんだなあ」


 ヨウコ、顔をしかめる。


「あれ? ……香水みたいな匂いがする」

「そ、そう?」

「それも年配の女のつける奴」

「どこでついたのかな? おかしいな」


 ヨウコ、ローハンを睨む。


「どこでついたか心当たりあります、って顔してるけど?」

「……こ、心当たりなんて全然ないけどなあ」


 サエキが立ち上がる。


「ああ、もう見てられないよ。お前はもう黙ってろ」


 サエキ、ローハンを部屋の外に押し出してドアを閉める。


「ちょっと、なにしてるのよ? まだ話は終わってないわよ」

「俺がちゃんと説明してやるからヨウコちゃんはそこに座りなさい」

「はあ?」

「早くしろって。時間がないんだよ。頼むからローハンの苦労を無駄にしないでやってくれ」


        *****************************************


 レストランの窓際の席 ヨウコとローハンが向かい合って座っている。


「キースに頼めば予約なんて簡単に取れたんじゃないの? ホストみたいな真似しなくってもさ」

「俺の妻の誕生日プレゼントなんだから、俺の力でなんとかしたかったんだよ」

「だからって他の女とチュウするわけ?」

「魅力も実力のうちだろ? ヨウコだってキースとキスするじゃないか。人のこと言えないんじゃないの?」

「キースとのチュウは役作りのお手伝いでしょ? 男に飢えたやらしい女のチュウと一緒にしないで欲しいわね」

「あ、ほら、あの人がマネージャーさんだよ」


 ぴっちりしたスーツを着た女性が、部屋の反対側からローハンに微笑みかける。


「うわ、グラマラスな美女ね。あんたじゃなければ間違いなく誘惑されてたわね」

「そうだろ? 機嫌を損ねずに逃げてくるの、大変だったんだよ」

「まあいいか。私のために身を挺してくれたってことにしとくわ。素敵な誕生日プレゼント、ありがとうね」

「うん。でも、もう一つのプレゼントも楽しみにしててよね」

「そうだった。それって一体なんなのよ? 気になるなあ」

「秘密だって言っただろ」

「いつもらえるのよ?」

「近々……だと思うけど……」

「いい加減だなあ」

「俺だって努力はしてるんだよ。首を長くして待っててよね」

「そう言われれば言われるほど不安になるのは何故かしら?」


 ローハン、ヨウコを無視して幸せそうに笑う。


「ヨウコの驚く顔、早く見たいなあ」


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