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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第二幕
48/256

ネットオークション

 同日の晩 ヨウコ達の寝室にローハンがドアを開けて入ってくる。布団に入って雑誌を読んでいたヨウコが顔をあげる。


 「ローハン、今日は格好良かったよ。キースに将棋で勝っちゃうなんて凄いよね」

 「そう思ってるんだったら、その場でそう言えよ」

 「だって、サエキさんとキースの前じゃ照れくさいでしょ? キースのプライド傷つけて、遊びに来てくれなくなったら嫌だし」

 「そういう計算してるんだ」

 「この歳になると女もだんだんずる賢くなってくるのよ」


 ローハン、ベッドに腰を下ろす。


 「ねえ、俺ってどこか変なのかな?」

 「やっと自覚が出てきたんだ」

 「そういう意味じゃなくてさ、キースが言ってただろ? 俺って普通のロボットじゃないのかなあ?」

 「他のロボットなんて知らないもん。私に聞かれても困るよ。あれってまぐれじゃないのよね?」

 「うん。何回やっても間違いなく俺が勝つよ」

 「うわ、すごい自信ね。今日のローハン、格好良すぎるわ。どうしちゃったのよ?」

 「惚れ直しただろ?」

 「ううん」

 「なんだよ。格好いいと思うんだったら惚れ直せよ」

 「無理だな。だって最初から惚れ直しようがないぐらい惚れてるもんね」

 「え?」


 ローハン、耳まで赤くなる。


 「赤くなっちゃって馬鹿みたい」


 ローハン、ふくれてヨウコを睨む。


 「からかうなよ」

 「からかってなんかないわよ。ほら、早く入っておいでよ」


 ローハン、あたりを見回す。


 「俺のパジャマ、どこに置いたっけな?」

 「パジャマなんていらないでしょ?」

 「パジャマ着なきゃ落ち着いて眠れないんだ」

 「もう……寝ちゃうの?」

 「うん。慣れない将棋なんてやったもんだから、がっくり疲れちゃった。今日は即効眠れそうだよ」

 「……そうなんだ」


 ローハン、笑いながら布団にもぐりこむ。


 「嘘に決まってるだろ。がっかりした顔しちゃってさ。さっきのお返しだよ」

 「なによ。腹立つなあ。正体不明のロボットのくせに」

 「ヨウコこそ人間のくせしてそのロボットに夢中じゃないか」

 「……今日はずいぶん強気なのね」


 ローハン、ヨウコを抱き寄せてキスする。


 「やっと新妻の前でいいとこ見せられたから、調子に乗ってるんだよ。ハエ捕りしか能がないと思われてるんじゃ悲しい過ぎるだろ?」


        *****************************************


 数週間後の晩、ヨウコとサエキがパソコンの前に座って真剣な面持ちで画面をで見つめている。ローハンが後ろから画面を覗き込む。


 「またネットオークション? 今度は何買うのさ?」


 ヨウコ、唸る。


 「ああ、やられた。今回はいけると思ったのになあ。いつもこの『BEEP66』って人がさ、オークション終了直前になって入札してくるんだ。私の欲しいモノ、いつも落とされちゃう。きっと海外に商品流してボロ儲けしてるバイヤーなのよ」


 ローハンが不思議そうに尋ねる。


 「こんな古臭いランプ、どうするのさ?」


 サエキが顔を上げる。


 「古臭い? そこがいいんじゃないか」

 「かわいいでしょ? ビンテージでさ、日本で買うと高いんだよ。状態がいいと5万円ぐらいするの」

 「ええ? これが? じゃあ、入札すれば? まだ50ドルだろ?」

 「安くで買うのが醍醐味なのよ。この人、まだまだ出すから、入札しても無駄よ」

 「ふうん、そうなんだ。でもほかの人が入札したよ」

 「ほら、すぐに『BEEP』がビッドし返すでしょ。売れば元が取れるんだから、このぐらいじゃ諦めないわよ」


 サエキが興味深げに画面を見つめる。


 「おい、この人、粘ってるぞ。500ドルだって」

 「ふうん。よっぽどこのランプが欲しいのね」

 「どんどん上がるな。1000ドル台に突入したぞ」

 「凄いわね。昔よりも値打ちが出てるのかな?」

 「『BEEP』は競り負けたことがないんで、意地になってるんじゃないか? 1200ドルか。さすがに諦めたみたいだぞ」

 「こいつが競り負かされるなんて気持ちいいなあ。しかしここまで上がるとはびっくりよね」

 「こっちの人はコレクターなんじゃないか? 金に糸目をつけないんだよ」

 「いいご身分ねえ。さ、見物も終わったしお茶にしよう」


 ヨウコが立ち上がったとたんに、携帯電話が鳴る。


 「もしもし?」

 『ヨウコさん、元気?』

 「キース? どうしたの?」

 『ランプ、そっちに送るからね』

 「もしかして……今のオークションのこと? あれキースだったの?」

 『明日、誕生日だろ?』

 「ええ? あんな高い物、貰っちゃっていいの?」

 『僕がハリウッドスターだって知ってた? じゃあね』


 キースが電話を切り、ローハンが不機嫌そうな顔になる。


 「格好つけちゃってさ。ヨウコを甘やかすの、やめてほしいよ」

 「よかったな。ヨウコちゃん」

 「うひゃあ。ベッドルームに置いちゃおう」

 「駄目」

 「ええ? どうして?」 

 「だって、ヨウコ、ランプを見るたび、キースを妄想するだろ?」

 「そんなことないってば。おかしなこと言わないでよ」

 「目が笑ってるよ。絶対に駄目だからね。そのパソコンデスクの上でいいだろ?」

 「そうね。そこならいつだって見れるわね」

 「やっぱりそこも駄目」

 「じゃあ、どこに置けって言うのよ?」

 「トイレか納屋は?」

 「やっぱりベッドルームに置くわ。うるさいロボットはルークの部屋に移動ね。他のロボット人形と一緒に並んでりゃさびしくないでしょ?」

 「なんてこと言うのさ。ひどいよ、ヨウコ」

 「あんたがつまんないヤキモチ焼くからでしょ。そんなに私って信用ないわけ? 腹立つなあ」


 サエキが割って入る。


 「喧嘩はやめようよ。明日は誕生日なんだから、明るい雰囲気で迎えよう」

 「そうだった」


 ローハン、ニヤリと笑う。


 「ヨウコにはあっと驚くプレゼントを用意してるんだよ。ランプなんて目じゃないね」

 「あんたの『あっと驚くプレゼント』って……なんだか怖いんだけど」

 「でも、たぶん明日には間に合わないよ」

 「ええ? じゃあ誕生日プレゼントとは言わないでしょ?」

 「そうか。しまったなあ」

 「わけわかんないよ。サエキさん、ローハン、壊れてきてるんじゃないの?」

 「いつものことだろ? 後から貰ったっていいじゃないか。誕生日で喜ぶような歳でもないんだからさ」

 「うわ。サエキさんまでそんな事言うの? 頭に来た」


 ヨウコ、立ち上がると部屋から出て行く。


 「怒っちゃったよ。どうする?」

 「お前がおかしなこと言うからだろ?」

 「明日あげるプレゼントなんて用意してないや。まずいかな?」

 「それじゃさ、明日の晩はヨウコちゃんの行きたがってたレストランに連れてってやれよ。ルークは俺が見とくからさ」

 「レストランって川沿いのホテルの中のだろ? サエキさん、あんなところ、今から予約取れっこないよ」

 「コネをつかえばいいだろ?」

 「もしかして……キースに頼めって言ってるの?」

 「うん」

 「『俳優キース』が電話して予約を取ってくれるわけ?」

 「まさか。『俳優キース』じゃなくて『フギン』の方。あいつ、あちこちに知り合いがいるからな。ホテルの親会社に圧力かけるぐらい簡単だろ」

 「コンピュータなのに知り合いがいるの?」

 「直接会わなくってもビジネスはできるだろ? いろんな偽名使って方々に手を伸ばしてるみたいだよ。『キース・グレイ』の所属してる芸能プロダクションだって、オーナーはあいつなんだよ。本人にしてみりゃゲームのつもりなんだろうな」

 「……やっぱりキースには頼みたくないや」

 「ヨウコちゃんの機嫌取る方が大事じゃないの?」

 「そうなんだけどさあ、俺にだってプライドがあるよ。自分でなんとかするからいいよ」


 ローハン、立ち上がると部屋から出て行く。


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