スターの祝福と老女のお告げ
父母と話をしているヨウコとローハンに、キースが近づいて話しかける。
「ヨウコさん、ローハン、おめでとう」
「キース! 忙しいのにこんなに遠くまで来てくれたんだね」
「だって招待状、くれたでしょう?」
キース、ヨウコに近づいて、さりげない動きでキスする。
「ひひー」
「ひひーってなんだよ? キース、お前はシベリアに引っ込んでろよ」
「わざわざ来てくれたのになんてこと言うのよ。キースは私のチュウ友なのよ。気にしないで」
「するよ。それに『チュウ友』ってなんなの? 勝手に言葉を作るな」
「あんたは私の夫なんだから、それで満足しときなさいよ」
「なんで結婚してからの方が立場が弱いんだよ?」
父が怪訝な顔でヨウコとキースを見る。
「ヨウコ、なんでお前はそのアレとキスしてるんだ?」
「ただの友達だって。そうだ、ドレス姿で一緒に写真撮ってもらおうっと」
母が瞳を輝かせて、キースを見つめる。
「いいわねえ。私にもチュウしてくれないかしら?」
「あれはアレだぞ。そういってしまえばローハンもアレだが」
「でもキースちゃんはハリウッドスターでしょ? 格好いいわあ。ヨウコって急に男運が良くなったみたいね」
「お前、だってどちらもアレじゃないか。男運って呼べるのか?」
ルークが後ろから声をかける。
「おとうさん」
「おじいちゃんだろ?」
「違うよ。そこのロボットに言ってるの」
「俺?」
「おかあさんと結婚させてやったら俺のおとうさんになる約束だろ?」
「うん。そうだったね」
「何で涙ぐんでるのよ?」
「だって、ルークが俺のことを……」
「あーあ、またそうやってうまく使われるのよね。騙されちゃ駄目よ。その子、中身は私にそっくりなんだから」
ヨウコ、キースの手を引っ張る。
「ほらキース、写真撮りに行こうよ。ここじゃみんなに素顔を見られちゃうから、裏に回って。おとうさん、カメラ持ってついて来てよ」
「ヨウコ、俺が撮ってやるよ」
ヨウコ、ローハンを疑い深い目で見る。
「あんたは信用ならないわ。わざとピンボケにされちゃかなわないものね」
「おとうさん、何か言ってやってください」
「おい、ヨウコ。ローハンがヤキモチ焼いてるがどうする?」
「もっとビシッと言えませんか?」
「ヨウコに何を言っても無駄なのは知っとるだろ?」
「おとうさんまでそんな事を……」
「ちゃちゃっと済ますから待っててね」
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ヨウコ達が家の裏に回ると、トニーとウーフが立っている。
「あれ、裏庭でなにしてるの?」
「ウーフとお話してたのよ。他の人のいるところで犬がしゃべってちゃまずいでしょ?」
キース、ウーフに目をやる。
「ロボット犬まで持ち込んでるの? こんな殺傷能力の高い軍用犬、連れてきてもらっちゃ困るんだけど」
「どの犬の話してるのよ? ウーフは牧羊犬でしょ?」
ウーフ、不満そうに唸る。
「俺はまだ誰も殺してないぞ」
「この家、ご禁制の品でいっぱいなんだよ。あの車だって持って来ちゃいけない部品を使いまくって改造してあるし。サエキさんに文句を言わないと」
「まあ、今日は私に免じて大目に見てあげてよ」
トニー、ヨウコ達に歩み寄る。
「彼は誰? ウーフのこと知ってるんだから未来の人よね? さっき式を止めてたでしょ? サングラスしてても素敵だわ」
「ええと、ローハンの親戚なの」
「嘘ね。ロボットに親戚なんていないでしょ?」
ヨウコを無視して近づいたトニーに、キースが手を差し出して握手する。
「トニーだね。はじめまして。キースです」
「……あたしの事知ってるの?」
「ヨウコさんの親友ですよね? ローハンの正体も知ってるわけだし、僕も紹介してもらっていいんじゃないのかな?」
「しょうがないなあ。じゃあ顔見せてあげて」
キース、サングラスを取る。
「キース? ええ? キースってキースなの! 本物?」
「落ち着いてよ。最近、知り合ったの。また後で事情は話すわ」
「今日は人生最良の日だわ」
「がっかりさせて悪いけど、この人も人間じゃないんだ」
「それがどうしたのよ。あたしも一緒に写真撮ってもらっていいかしら。キースってあたしより背が低いのね。かわいいわ」
「ヨウコさんって友達も変わってるんだね」
「友達も、ってどういう意味よ? トニー、わかってるとは思うけど、誰にも話しちゃ駄目だからね」
「わかってるわよ。拉致されるんでしょ?」
父がヨウコを促す。
「ほら、さっさとせんと新郎がごねるぞ」
「はいはい。キース、腕組んでもらってもいい?」
「いいよ」
「ほら、キースは笑えんのか? テレビに出てるときみたいに笑ってみろ」
キースが笑顔を浮かべ、トニーが釘付けになる。
「うわあ、キースの生笑顔が見れるなんて生きててよかったわ」」
クリスばあちゃんが裏庭に入ってくる。
「おやおや、花嫁が裏庭で何をしてるんだい?」
「あ、おばあちゃん」
ウーフ、嬉しそうにしっぽを振る。
「クリスばあちゃん、こんにちは」
「今日はウーフも楽しそうだね」
「ちょっと、ウーフ、あんたおばあちゃんとしゃべっちゃダメでしょ?」
キース、ウーフに近づく。
「困るなあ。この犬、この時代の人と勝手に会話してるの?」
「おばあちゃんは大丈夫だぞ」
クリスばあちゃん、キースに話しかける。
「あんたはキースだね。うちの孫が大ファンだよ。ウーフはヨウコの大事な家族なんだから、叱らないでやっとくれ」
キース、戸惑った様子でクリスばあちゃんを見る。
「おばあちゃん、キースがこんなところにいて驚かないの?」
「そろそろ会える頃だと思ってたからね。驚きゃしないさ。今日はヨウコにお祝いを言いに来たんだよ」
「おばあちゃん、ありがとう」
「じゃ、しっかり聞きなさい。これからいろいろ起こるだろうけどね、ローハンとならやっていけるさ。ヨウコが幸せになりゃみんなも幸せになれるんだからね。まずは自分の幸せを第一に考えればいいんだよ」
クリスばあちゃん、言い終わるとさっさと立ち去る。トニー、眉をひそめてヨウコを見る。
「ねえ、ヨウコ、お祝いの言葉というよりお告げみたいだったわよ」
「今日はいつもにも増してミステリアスね」
キース、クリスばあちゃんの後姿を見つめる。
「あの人、何者なの?」
「向かいの家に住んでるおばあちゃんよ。この辺りの地主さんで、この家と土地を譲ってもらったの」
父、納得した顔でうなずく。
「ああ、あの人がそうなのか。しかしお前の周りには普通の人間はいないのか?」
トニー、慌てて手を上げる。
「あ、あたし、普通の人間ですけど」
「そうなのか? 君もアレかと思ってたよ」
「まあ、それって褒め言葉よね?」
「お父さん、ずいぶん前だけどトニーに会ったことあるじゃない。ほら、サナエちゃんの旦那さんよ。一緒に日本食レストランに行ったでしょ? もう離婚しちゃったんだけどさ」
父、目を見張ってトニーを見る。
「ええ? ずいぶん雰囲気が違うが同じ人なのか? あの時は角刈りだっただろ?」
「ちょっと、角刈りだなんてキースの前で言わないでもらえます?」
「大丈夫。知ってるから」
「まあ! どうしてあなたが知ってるのよ?」
ヨウコ、考え込む。
「……私の親友だから当然調査の手は入ってるわよね。……ちょっと待って。トニー、もしかして一年ぐらい前から『キース』って名前のメル友がいたりしない? 私の話をしたでしょ?」
「あら、よく知ってるわね。あたし、ヨウコに話したかしら?」
ヨウコ、キースを横目で睨む。
「仕方ないだろ? 僕だって仕事だったんだからさ」




