ローハン、社長令嬢に気に入られる
クラブハウス、客の一行と一緒にローハンと父が入ってくる。
「根掘り葉掘り聞かれてたな。まだ独身だが理想が高くて求婚を次々断ってるって話だぞ。君に惚れたんじゃないのか? 美人だし金持ちだしいう事ないじゃないか」
「おとうさん、俺にヨウコを諦めさせようったってそうはいかないですよ。あんなわがまま女とヨウコと比べないでください」
「ああ、すまん……」
「終わったらすぐ帰りましょうね。帰りは俺が運転しますよ」
「そうだな」
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ゴルフが終わり、父の上司が父とローハンと話している。
「今日は助かったよ。ローハン君の日本語もたいしたもんだ。細かい用語までよく知っているとヨシダ君も驚いていたよ。大学で勉強したのかね? なんでもオックスフォードを出たそうじゃないか」
「語学は独学です。専攻は電子工学でしたので」
「ほう。今は何をやってるんだね?」
「ニュージーランドで羊飼いをしています」
父、驚いてローハンを見る。
「ええ? そうなのか?」
「とは言っても生計はプログラミングで立ててるんですけどね」
「お嬢さんが帰る前に君と話したいとおっしゃってるんだが、行ってもらえるかね。機嫌を損ねたくはないのでね」
「もちろんですよ。では失礼します」
父と上司、ローハンがトレイシーの方へ歩いていくのを眺める。
「すっかりローハン君を気に入ったようだ。明日、観光の通訳を頼みたいそうだよ。しっかり機嫌と契約を取ってもらわないとな」
「明日……ですか?」
ローハンがトレイシーと話しているところに父が近づく。
「あら、ローハンに明日の通訳をお願いしているところなの」
「トレイシーさん、実はこの男は私の娘と近々結婚することになっておりまして、明日は色々と予定が入っているのです」
驚いた顔をするトレイシーに、父が深く頭を下げる。
「大変申し訳ありません」
「おとうさん?」
「さあ、ローハン、失礼しよう」
ローハンも慌てて頭を下げる。
「それでは失礼します」
ローハン、歩きながら父に話しかける。
「いいんですか? あの人を怒らせるとまずいんでしょ?」
「構わないよ。君には関係ないことだ」
「……ちょっと待っててください」
ローハン、トレイシーのところへ戻って話しかける。トレイシー、不満そうな顔をしているが急に笑顔になる。走って戻ってきたローハンに、父が怪訝な顔で話しかける。
「どうしたんだね?」
「持つべきものは友達ですね。さ、帰りましょう」
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帰りの車内、運転するローハンをヨウコの父が不審な顔で見ている。
「お天気が良くってよかったですね。おとうさん、朝早かったんだから少し眠ってはいかがですか?」
「よく道を覚えているな。ナビを使わなくてもいいのか?」
「俺、記憶力はいいんですよ。心配いりません」
「君はタクシーの運転手でもしていたのかね?」
「いいえ?」
ローハン、急に車線を変更すると高速から降りる。
「どうしたんだ?」
「日本の田園風景を見ておきたくて。この辺きれいですね」
「道はわかるのか? 回り道になるぞ」
「そうですね。おとうさんがさっき言ったことは本当ですか?」
「え?」
「俺のことをヨウコの結婚相手だって言いましたよね?」
「あれはだな、俺がついていながらヨウコと付き合っている君をほかの女性と出かけさせるわけにはいかないだろう? ヨウコを怒らせると怖いからな」
「ほんとに怖いですね。でも、あやうく契約をパーにするところでしたよ」
「そうだな」
ローハン、父に向って微笑む。
「おとうさん、ありがとうございました」
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父とローハン、帰宅する。ヨウコとルークが玄関で出迎える。
「おとうさん、ローハン、お帰り!」
ローハン、ヨウコを抱きしめる。
「ただいま。ヨウコと十時間も会えないなんて、死んじゃうかと思ったよ」
「何回も電話でしゃべったじゃないの」
父、不思議そうにローハンを見る。
「いつ電話してたんだ?」
ルーク、ローハンにゲームソフトの箱を見せる。
「おばあちゃんに新しいゲームを買ってもらっちゃった。ロボット、一緒にやろうよ」
「それ、前から欲しがってた奴じゃないか。よかったな」
ヨウコ、不安げに父に話しかける。
「おとうさん、ローハン、役に立った?」
「ああ、よくやってくれたよ」
「よかったあ」
「ヨウコ、俺、そんなに信用なかったの?」
父、部屋を出て行きながらヨウコの顔をじっと見る。
「ノルウェー語が得意なんだな」
「ノルウェー語?」
「ノルウェーって国の言葉だよ」
「それはわかってるけどさ。何の話してるの?」




