ヨウコ達、日本へ向かう
12月の中旬 空港の出国ターミナルで、ヨウコ、ローハン、サエキ、ルークの四人が、セキュリティーゲートを通り抜けようとしている。ヨウコが不安そうにローハンを見上げる。
「ねえ、金属探知機にひっかかっちゃわない? 頭の中にいろいろ入ってるんでしょ?」
「こんな機械、だますの簡単だよ」
後ろのサエキが声をかける。
「ローハン、俺も頼むな」
「サエキさんも頭にいろんな便利グッズが入ってるからね。でもこんな原始的な機械も騙せないんだよ」
「お前の頭はコンピュータだからそういう器用な真似が出来るんだよ。いい加減に気づけよ」
ローハンたちに続いて、ヨウコが通ろうとするとブザーがなる。
「ええ! あ、ポケットにさっきのお釣り入れてたわ」
ヨウコ、ボディチェックを受け、ゲートを通り過ぎてからローハンを睨む。
「ちょっと、ローハン。なんで一緒にごまかしてくれないのよ?」
「だって、ズルしたらいけないんだよ」
ヨウコ、ローハンの足を蹴飛ばす。
「いたっ」
「ごめん、足が滑ったわ」
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航空機の機内、ヨウコの一行が乗り込んでくる。ローハンが嬉しそうにヨウコの腕を引っ張る。
「俺たちの席はこっちだよ。ルークは窓側がいいだろ? サエキさんは通路側ね。俺はヨウコの隣」
「仕切るなあ」
「ねえ、ヨウコ、座席が狭いよ。せめてビジネスクラスにすればよかったのに」
「お金がもったいないもん。ほんの11時間の辛抱でしょ?」
「ヨウコは身体が小さいからいいけどさあ。それに俺、ちゃんと稼いでるよ」
「私、稼いでないもん」
「俺は自分の妻子くらい自分で養うつもりだよ」
「まだ結婚してないもんね」
ルークが驚いて身を乗り出す。
「ええ、おかあさん、ロボットと結婚するの? 聞いてないぞ」
「ええ? 言ってなかったっけ?」
「今回はルークのおじいちゃんとおばあちゃんにご挨拶に行くんだよ」
「おじいちゃんたち、ロボットの事、知ってるの?」
「ローハンの存在も知らないのよね。友達を連れて行くとだけ言っておいたけど」
「ふうん」
ローハン、ヨウコに向き直る。
「こんな大事なこと、ルークに言ってなかったの? 駄目だろ、ヨウコ」
「ごめん。私、そういうのすぐ忘れちゃうの」
「もう、だらしないなあ。ねえ、ルーク。俺、おかあさんと結婚してもいいかな?」
「ロボットが俺のおとうさんになってくれるんだったらいいよ」
「いいの? 人間じゃないんだよ?」
「人間なんていやだよ」
「ロボットだと得することもあるんだな」
ヨウコ、笑う。
「だいぶ自分をロボットと呼ぶのに抵抗がなくなってきたみたいね」
「事実は事実で受け入れないとね。そうは言ってもまだまだ泣きたい気分になるけどさ」
「いい心がけだわ。……サエキさんはずいぶん浮かれてるのね」
「こんな原始的な乗り物で空を飛ぶなんて男のロマンだね。まさにアルミの棺おけじゃないか」
「……途中で墜落して海の藻屑と消えたりしたら本望でしょうね」
「日本に着いたら秋葉原に行きたいんだが連れて行ってくれる?」
「一人で行ったらいいじゃない」
「いくら巧みに変装しているとはいえやっぱり未来人だしうっかり目立ったら嫌だろ?」
「決して目立たないから安心して」
客室乗務員が近づいてくる。
「サクライヨウコさんとそのご家族ですか?」
「そうですけど……」
「申し訳ありませんが、お席のほうを移動してはいただけませんか?」
「ええ? どうして? バラバラになったりしませんよね」
「みなさん、ご一緒にファーストクラスのお席になります」
「移ります! ほら、行くわよ。ローハン、荷物お願いね」
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ファーストクラス、ヨウコが先頭に立って入ってくる。
「うわ、めちゃめちゃ広いじゃない」
前の方に座っていた男性が立ち上がってヨウコたちの方を向く。ヨウコ、立ち止まって目を見開く。
「ローハン! この人、キ、キ、キ……」
「誰? 知り合いなの?」
「キース・グレイだ」
ヨウコ、赤くなる。
「ええ? 俳優の? ほんとだ……あれ?」
ローハン、不思議そうな顔でキースを見る。サエキ、慌ててヨウコ達の横を通って前に出る。
「おい、お前、ここで何やってんだよ?」
キース、流暢な日本語で答える。
「こんにちは、サエキさん。ニュージーランドでロケだったんですよ。次の撮影まで時間があるので、日本で休暇を取ることにしたんです。一人じゃ寂しいんで同席してください。貸切にしておきましたから」
「サエキさん? キースと知り合いなの? なんでキースが日本語しゃべってんのよ?」
キース、ヨウコの顔を見て会釈する。
「お久しぶりです。ヨウコさん」
「お久しぶり? 私、あなたに一度も会ったことないけど?」
「離陸するまで席に座っててくださいね。あとでいくらでも話す時間はありますから」
キース、前の席に戻る。ローハン、席に座って小声でヨウコに話しかける。
「なんでそんなに浮かれてるんだよ? ねえ、ヨウコ、この人、俺と同じ……」
「うん、同じぐらい格好いい。いや、もっと格好いい」
「違うってば。俺と同じでロボットだよ」
「ええ! ……サエキさんと知り合いだって時点で何かが間違ってる気がしたのよね。ねえ、私の好きな人が全部ロボットである確率ってどんなもんだろ?」
「限りなくゼロに近いよ」
「落ち込むなあ」
「どういう意味だよ?」




