ごめんなさいって言うんだよ
その日の午後、ローハンが一人でソファに座っているところに、ルークが入ってくる。
「おい、ロボット」
「今日はその呼び方、やめて欲しいなあ」
「どうして元気ないの?」
「俺、本当はロボットだったんだ」
「……? そんなの前から分かってることだろ?」
「……そうだね」
「鼻血でたの?」
「うん……」
「ね、ゲームしようよ」
「俺、反省してるとこなんだ」
「おかあさんにしかられたの?」
「うん。怒らせちゃったんだ」
「どうして?」
「俺が、もう、おかあさんといたくない、って言ったから……だと思う」
「ロボットはおかあさんと一緒にいたくないの?」
「いつまでだって一緒にいたいよ」
「じゃ、なんでそんなこと言ったのさ」
「おかあさんはロボットじゃなくて本当の人間といたほうがいいのかな、って思って」
「本当の人間なんてなんの役にも立たないよ。おかあさん、ロボットが来てから泣かなくなったんだ。毎日すごく楽しそうなのに、ロボットがいなくなったらかわいそうだよ」
「そうなの?」
「ロボットはおかあさんを守りに来たんじゃなかったの? 早く謝ったほうがいいよ」
「どうやって謝ろう」
「スーパーロボットなのに謝り方も知らないの? 『ごめんなさい』って言うんだよ」
「そうだったね」
「『ごめんなさい』だけだよ。言い訳したら逆効果だからね」
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ヨウコたちの寝室のドアを開けて、ローハンが中を覗く。ヨウコが布団をかぶってふて寝している。
「ヨウコ、入っていい?」
「駄目。さっさと24世紀にでもどこにでも行っちゃえ」
「ごめんね。ヨウコ」
「……」
「俺が悪かったです」
「ほんとにそう思ってるの?」
「うん、ちゃんと反省したよ」
「わかればいいのよ。馬鹿ロボット」
「ヨウコはその馬鹿ロボットと結婚する気なんだ」
「悪いけど私はその馬鹿ロボットが好きなのよ」
「布団の中で照れてるだろ」
「うるさいなあ。くそ馬鹿ロボット」
「くそ馬鹿ロボットも布団にはいっちゃおう」
「やめてってば!」
ローハン、布団をめくってヨウコの顔を見る。
「……どうしてヨウコが泣いてんだよ?」
「あんたがわけのわかんないこと言うからでしょ。なんで好きなだけじゃ駄目なのかなって思ったら悲しくなった」
「駄目じゃないよ。俺が間違ってたんだ。ごめんね」
「……うん。鼻血、止まった?」
「まだ痛いけどね。次の検診で鼻を補強してもらっとこうかな」
「もう殴らないってば。補強したって鼻以外を狙えばいいだけだし」
「そうだね。無駄なことはやめとくよ」
「やっぱり『ドラえもん』だっんじゃないの」
「ドラえもんは22世紀だろ? 俺は24世紀から来たんだよ」
「ロボットはロボットでしょ?」
ローハン、黙ってうつむく。
「ごめん。あんたにしてみりゃ、ものすごいショックだったんだよね」
ヨウコ、起き上がってローハンの肩を抱く。
「私はローハンが何者だって全然構わないんだからね。嫌だって言ってもどちらかが死ぬまでずっと一緒だよ。覚悟はできてるの?」
「当り前だろ」
「こんなにかわいいヨウコちゃんと添い遂げられるなんて、あんたは世界一の幸せモノなんだからね。自分の頭蓋骨の中身が間違ってたぐらいでいじけるのはやめなさいよね」
「間違ってた、ってどういう意味だよ? それにヨウコのどこがかわいいって言うんだよ?」
「かわいいなあ、っていつも思ってるくせに」
「思ってないよ」
「思ってるって」
「思ってない」
「思ってるの」
「思ってないって言ってるだろ?」
ヨウコ、ローハンを睨む。
「あんた、自分がかわいいとも思えない女と結婚するっていうの? こっちから願い下げよ。出てきなさいよ」
「ああ、わかったよ。ヨウコのバーカ」
サエキがドアから顔を出す。
「なんだ、喧嘩か? じゃ、もう大丈夫なんだな。ローハン、今日の夕食当番はお前だからな。忘れるなよ」
第一幕 -完- 第二幕に続く




