ローハンの妹
居間でサエキとヨウコがソファに座ってテレビを見ていると、ローハンが部屋に入ってくる。
「サエキさん、ハルちゃんが来たよ。今、ゲートのところにいる」
サエキ、急いで立ち上がる。
「俺が出てくるわ」
サエキ、ヨウコ達を振り返る。
「俺、イケてるかな? どっかおかしいところない?」
「いつも通りって言う意味だったら大丈夫よ」
サエキ、うきうきと出て行く。
「女の人なんだ」
「うん。ハルノって言ってね、俺と同じ頃に作られたんだ」
「ニンゲンモドキなのね?」
「だからその呼び方はやめようよ。ハルちゃんは優秀なんでウサギさんのアシスタントしてるんだ。最初のうちは一緒に講習受けたりしてたし、俺の妹みたいなもんかな」
「ドラミちゃん……」
「え、なに?」
サエキ、ハルノを連れてはいってくる。
「ヨウコちゃん、この子、ハルノっていうんだ。今日は遊びに来たんだって」
ハルノ、ぺこりと頭を下げる。
「こんにちは。ガムランが許可をくれたので遊びに来ちゃいました。ずっと21世紀を見てみたかったんです」
「遠いところからいらっしゃい。今、お茶を淹れようと思ってたとこなの。ハルノさんは何を飲みたい?」
「紅茶をいただきます」
「何か入れる? ミルクとレモンならあるけど、24世紀でも入れるのかしら?」
「レモンがいいな」
キッチンに向かうヨウコに、ローハンがついて行く。
「やっぱりニセ人間だけあって、めちゃめちゃかわいいわね。アイドル歌手みたい。サエキさんの好きそうなタイプだわ。あの子、20代前半よね」
「誕生日は俺と数日違いだと思うけど。俺の外見の年齢はヨウコに合わせてあるからさ」
「そりゃ、申し訳ないことしたわね」
「ほんとにそう思ってる?」
「思ってないよ」
「思ってないこと言うなよ」
「なんでついてくるのよ? せっかくハルノさん、来てくれたのに」
「かわいい子といると誰かがヤキモチ焼くから」
「妹分なんでしょ?」
「本当はヨウコと二人きりになりたかったの」
ローハン、ヨウコを後ろから抱きしめる。
「そりゃ無理だわ。ハルノさんも来たから」
ハルノ、おずおずと部屋に入ってくる。
「すみません。お邪魔でしたか? キッチンを見てみたくて」
「ううん、全然。好きなところ見てもらっていいよ。あれ、レモンないや。ローハン、裏から摘んできてくれる?」
「了解」
ローハン、出て行く。
「やっぱり24世紀とは全然違うんでしょ? 博物館に来た気分にならない?」
「基本的なところはそれほど変わってないんですよ。不思議なくらい」
ハルノ、缶切りを手に取ると不思議そうに眺める。
「私は24世紀には行けないんだって。サエキさんが写真を見せてくれるぐらいかな。ガムさんが見せても無難だって判断したのだけだから、あんまり面白くないんだ」
ローハン、戻って来るとヨウコに手を差し出す。
「ヨウコ、ほら、カマキリあげる」
「カマキリ? うわ、持って来たの?」
「この間、カマキリを見つけたらグッドラックだって、クリスばあちゃんが言ってたからさ」
「だって、見つけたのはあんたでしょ?」
「あ、そっか」
「良かったね。きっといい事あるよ」
「俺はヨウコにあげたかったのにな」
「レモンは?」
「忘れてた。はい、カマキリ」
ローハン、ヨウコの手にカマキリをとまらせる。
「どうすんのよ。これ?」
「幸運のかけらぐらい残ってるかもしれないよ。レモン、取ってくる」
ローハン、急いで出ていく。
「ねえ、ヨウコさん。あの人、いつもあんな感じなんですか?」
「うん。変でしょ」
「信じられない」
「どうして?」
「だってあの人、私と同じ型なんですよ。外見はずいぶん違うけど」
「じゃあ、あなたもきっと凄い人なのね」
「え?」
ヨウコ、ハルノにお菓子の皿を渡す。
「これ、むこうに運んでもらっていい? すぐ、お茶もっていくね」
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玄関、一同がハルノを見送っている。
「今日は急に来ちゃってごめんなさい」
サエキ、嬉しそうに笑う。
「いつでも遠慮なく来てよ。向こうまで送ってこうか?」
「ううん、一人で大丈夫」
ハルノ、ヨウコの方を向く。
「ヨウコさん。ローハンがあなたのことを好きなのは、そう刷り込まれてるからなのよ。分かってるんでしょ?」
ローハンが慌てて口を挟む。
「ハルちゃん? なんで急にそんな事言うの?」
「あまり調子に乗って尻に敷かないでくださいね」
「ハルちゃん、やめなよ」
ヨウコ、うなずく。
「うん、わかったよ」
「ヨウコ? わかったってどういう意味だよ?」
「気にさわったらごめんなさい。じゃあ、失礼します」
ハルノが出て行き、ローハンがいそいでヨウコの肩を抱く。
「ヨウコ、俺、尻に敷かれてるなんて思ってないからさ。ヨウコになら何をされても言われても平気なんだよ」
「そうなのよね。そこが問題なんだわ。ドラミの言う通りじゃない」
ヨウコ、ローハンの腕を振り払って部屋に入る。




