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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
25/256

フギンからの電話

 キッチンでヨウコが片づけをしていると、携帯が鳴る。ヨウコ、急いで通話ボタンを押す。


「ハロー? ああ、フギン、元気?」

『元気ですよ。でも、あまりに何も起きないんで退屈ですね』


 サエキが後ろから声をかける。


「ちょっと、なんであいつが勝手に電話してくるんだよ? おい、フギン。駄目って言っただろ?」

「しまった、サエキさん、後ろにいたわ。ごめん」

「もしかして初めてじゃないんだな? 困るよ、ヨウコちゃん」

「世間話しかしてないってば」

「じゃあ、俺にも聞こえるように話してくれる?」


 ヨウコ、ふくれっ面でスピーカーに切り替える。


「いいけどさあ。話しにくいなあ」

「話しにくいような話をしてるわけ? 俺に隠れてこそこそと?」

「してないわよ。この間はテレビドラマの話をしただけよ。フギンって何でも知ってるから面白いんだ。日本のドラマだってみんな見てるんだよ」

「そりゃ、情報集めが仕事だからな。世界中のメディアは全部記録してるんだよ」

『そうそう、サエキさんに頼まれてた限定販売のフィギュア、手に入りましたよ。そちらに送ってもらいましたから』

「そりゃ、助かったよ。ありがとう。すごい競争率だったからな」

「時々サエキさん宛てに送られてくる怪しい小包の中身はそれか。そういうの、公私混同って言わないの?」

「ちょっとぐらいいいだろ? せっかく来てるんだから21世紀アートの収集ぐらいさせてよ」

「ふーん。アートねえ。それじゃ私もなんか頼んじゃおうかな」

「おいおい」

「そうは言っても何にも思いつかないや」

『買い物以外でもたいていのことはできますよ。バッキンガム宮殿にだって入れてあげますけど』

「駄目だってば。フギンも余計なことするな」

「スーパーコンピュータって凄いのねえ。でも女王陛下に会う用は今のところないなあ」

『会いたい有名人はいる?』

「そうねえ。俳優のキース・グレイに会いたいけど、さすがに無理よね」

『なんだ、そのぐらいなら簡単ですよ』


 サエキ、慌てて割って入る。


「ああ、もう。駄目。そんなの絶対に駄目。お願いするのはコンサートのチケットぐらいにしておきなさい。好きなバンドがニュージーランドに来るんだろ? 最前列取ってもらえよ」

「はいはい、わかってるわよ。言ってみただけだってば」

『ねえ、サエキさん、ローハンって何者なんです?』

「え? 急に話題を変えるなよ。あいつは俺の同僚だよ」

『サエキさんたちとヨウコさんとの関係は?』

「ヨウコちゃんは俺たちの大家さんなんだよ。ちゃんと話しただろ?」

『なんでサエキさんたちが一般人のお宅にステイしてるんですか?』

「そりゃあ、この時代の研究のためだよ」

『ヨウコさんとローハンはどう見ても恋人同士ですよね』

「どっから見てるんだよ?」

『そりゃ、いろんなところにカメラが設置してありますから、ちょくちょく見かけますよ』

「そうなの。ローハンは私の彼氏なの」


 サエキ、ヨウコを睨む。


「ヨウコちゃんってば」

「見られちゃったんだったら、隠しても仕方ないでしょ?」

「だからって話せないこともあるんだよ。電話切るぞ。もう二度とヨウコちゃんにかけてくるなよ」

『サエキさん、やっぱり何か隠してるんですね』

「聞きたいことがあったらガムに直接聞いてくれ。じゃな」


 サエキ、ヨウコから携帯を取り上げて通話を切る。


「もう、後味悪いなあ」

「だって仕方ないだろ。話しちゃいけないことになってるんだからさ」

「フィギュア、手に入れてもらったくせに? もうちょっと優しくしてあげたらいいのに」

「それとこれとは別なんだよ。あいつは好奇心が旺盛でさ、このぐらいで諦めるとは思えん。困ったもんだよ」



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