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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
24/256

ヨウコ、待ち伏せされる

 二週間後、ヨウコとローハンとルークが、モール内のスーパーマーケットの入り口から出てくる。ヨウコ、はっとして立ち止まる。


「ルーク、五ドル上げるからゲームセンターで時間つぶしてて。おかあさん達、行くところがあるんだ」


 ヨウコ、ルークに五ドル札を渡す。


「やった!」

「三十分で迎えに行くから、ゲームセンターから出ちゃだめよ」

「はーい」


 ルークが走っていくと、ローハンが尋ねる。


「俺たち、どこか行くの?」

「どこにも行かないよ。あなたはここで待ってて」


 ヨウコ、少し先のベンチに座っている男に歩み寄る。ローハン、少し離たところから眺めている。


「久しぶりね、マーク」

「ここにいればそのうち会えると思ったんだ。引越し先が分からなかったんでね。ヨウコは木曜の特売日に買い物するのが好きだからな」

「何の用なの?」

「ルークがすっかり大きくなったな」

「おかげさまでね」

「相変わらずお前は嫌味だな」

「だから、何しに来たのって聞いてるの。私から百メートル以内に近づいちゃいけないの分かってるでしょ?」

「街を出る前に、お前の顔を見ておきたかったんだよ」

「おかあさんのところに行くのね?」

「そのつもりだけどな。……すまなかったな、ヨウコ。謝っても仕方ないんだろうけど」

「そうね、分かってるんじゃない」

「もう会いに来たりはしない。でも元気でいてくれよ。今は幸せなんだろ? トニーがそう言ってた」

「トニーと話したの?」

「お前の居場所を知りたかったんだ。もちろん教えてもらえなかったけどな。男が出来たんだってな。そこに立ってる奴だろ? 大丈夫なのか? 見た目だけじゃないんだろうな?」

「あんたよりはずっと頼りになるよ」


 マーク、立ち上がって、ヨウコに手を伸ばす。ローハン、素早く飛び出して、ヨウコとマークの間に割って入り、マークの腕をつかむ。


「触るなよ。ヨウコは俺のだからな」


 マーク、おかしそうに笑う。


「トニーの言った通りだな。あんたなんかヨウコに触れることもできないわよ、って笑ってたよ」


「ローハン、大丈夫よ」


 ローハン、マークの腕を放して一歩下がる。


「ヨウコを頼むな。俺はもう行くよ」

「マーク、ちょっと待って」


 ヨウコ、マークに近づくと腕を回して抱きしめる。


「元気でね。今度は失敗しないで」

「あの約束はもう忘れて欲しい。お前の事だから今でも気にしてるんだろ? こうなったのはお前のせいじゃないんだからな」


 マーク、笑うとそのまま歩み去る。ベンチに座り込んだヨウコの顔を、ローハンが不安そうに覗き込む。


「ヨウコ、大丈夫?」

「うん。もし会ったら怖くてパニック起こすんじゃないかって思ってたんだ。でも全然平気だった。ローハンがついててくれたからだね」

「なんでハグなんてするんだよ。あいつがヨウコにしたことは絶対に許せないよ」

「……ローハンには話さなかったけどさ。あの人に出会ってからルークが三歳になるまでの間が、私の人生で一番幸せだった時なんだ」

「ええ?」

「すごくいい人だったんだよ。毎日楽しくっていつも二人で笑ってた。でもね、ストレスに弱い人だったの。リストラされてからおかしくなっちゃった。一緒に頑張ろうって言ったのに、おかしな仲間と出歩いてさ、急にお金を持ってくるようになったと思ったら、ドラッグを売ってたんだ」

「ドラッグ?」

(ピー)よ。メタンフェタミン」

「だから刑務所に入ってたの?」

「私が通報した。クラブで未成年に売ってたのに気づいたから。どうしても止めたかったの」

「それで殴られたんだね?」

「うん。その頃はマーク自身もいろんな薬をやってたからさ。自制心なくしてたんだ。罪悪感に耐えられなかったんじゃないかな。暴力なんてふるう人じゃなかったのに、馬鹿だよね」

「ヨウコ、まだあいつが好きなんだね」

「好きよ。ちゃんと更生してくれたらいいんだけどな」

「そうなったら、あいつのところに戻ってやり直す?」

「ええ? まさか。私にはもうあんたがいるでしょ?」

「でも、あいつといる間が人生で一番幸せだったんだろ?」

「ごめん、さっきは言い方、間違えた。私の人生で一番幸せなのは、今こうやってローハンと一緒にいる時だよ」


 ヨウコ、ローハンを見上げる。


「さっきは格好良かったよ」


 ローハン、赤くなる。


「あの約束って?」

「一緒になろうって決めた日にね、『何があっても二人で幸せになろう』って誓ったんだ」

「そうか、それがひっかかってたのか」

「心のどこかでね。あんな事されたのに、それでも自分の方がマークを見捨てたような気がしてさ」

「じゃ、今日からヨウコは自由なんだね」


 ヨウコ、驚いた顔でローハンを見る。


「さ、ルークを迎えに行こうよ。俺もゲームやっていい?」

「駄目だよ。あんたがやると全面クリアするまで終わらないから、帰れなくなっちゃうでしょ? 人だかりも出来るしさ、怪しすぎるよ」

「つまんないなあ。じゃあ、UFOキャッチャーでぬいぐるみ取ってもいい?」

「それならいいよ。でも今日は不気味な子はいらないからね」


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