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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
番外編
227/256

【番外編3】ランチタイムは薔薇の咲く庭で THE LAST DAY

 翌日の昼休み ガムランがヒルダの部屋のドアを開けて顔を出す。


「おい、落ち込むのは分かるが飯ぐらい食ってこい」

「最近いつも社内にいるわね。暇なの?」

「『端末一号』はな」

「それ、一号だったの?」

「『端末A』のほうが響きがいいか?」

「どっちでもいいけどさ」

「本体のプロセッサの稼働率は37%だぞ」

「やっぱり暇なんじゃないの」


 ガムラン、ぼんやりとひげに手を触れる。


「そうだな」


 ヒルダ、立ち上がる。


「『端末一号』はご飯食べてないんでしょ? 一緒に出る?」

「いや、今から昼飯デートなんだ」

「ヨウコの馬鹿」

「おいおい、聞こえたら怖いぞ」


 ガムラン、励ますようにヒルダの肩を叩く。


「お前はな、性格は悪いしサボり癖はあるが俺が認めたいい女だ。もっと自信を持てよ」


        *****************************************


 ヒルダが裏庭をぼんやり歩いていると、いつものベンチにフィルが座っているのに気づく。


「フィル?」

「こんにちは、ヒルダ」

「どうしてここにいるの?」


 ヒルダ、フィルの隣に腰を下ろす。


「人を待ってるんです」

「……だってカンヌに戻るって」

「もう一日だけ待つことにしたんですよ」

「誰を待ってるの?」

「僕の恋人です」

「恋人って誰なの?」

「さあ、まだ分かりません」


 フィル、首をかしげてヒルダを見る。


「もしかしたらあなたではないですか?」

「私?」


 フィル、ヒルダの目をまっすぐに見つめる。


「違いますか?」

「私で……いいの?」


 フィル、うなずく。


「毎日ここであなたが来るのを待ってました」

「でも、そんな事、言わなかったじゃないの」

「あなたが本当に僕の待ち人なのか分からなかったからです」

「昨日はどうしてさっさと帰っちゃったの?」

「どうしていいか分からなくて。あなたが私のことをどう思っているのかも分かりませんでしたし」

「……本当にわからなかった?」

「ええ、人の感情を読むのは苦手なんですよ」


 フィル、また微笑む。


「だから、あなたが毎日戻ってきてくれて本当に嬉しかった。今日また会えたらあなたの気持ちを確かめようと思ったんです」

「カンヌに戻らなくちゃいけなかったんでしょう?」

「戻って欲しいんですか?」


 慌てて首を振るヒルダにフィルがキスする。


「……ほんとに私とキスしたのが初めて?」

「知らないんですか? コンピュータって物覚えがいいんですよ」

「どうして私を待ってたの?」

「ガムランにね、あなたと付き合ってみないかと言われたんです」


 ヒルダ、『会社』の建物を見上げる。


「……あいつの仕業か」

「失恋したあなたを毎回慰めるのに嫌気が差したんだそうですよ」

「はあ?」

「彼からあなたのことを聞いて興味を持ちました。さもなければガムランの言いなりになんてなりません」

「でも……あなたに人が好きになれるの?」

「なれるみたいですよ」


 フィル、笑顔でヒルダを抱き寄せる。


「だってあなたが好きだから」

「カンヌはどうするの? 仕事があるんでしょ?」

「端末は『本社』に異動にしてもらいます。どうせこの身体は盆栽にしか使わないんです。どこにいたって誰も気にしません」


        *****************************************


 昼休みの後 ガムラン、ベンチに座っているフィルに後ろから話しかける。


「どうだ、ヒルダは?」

「気に入りました。何本か取り払いたくなる枝はありますが」

「そう簡単にはいかんぞ」


 フィル、微笑を浮かべる。


「野性のバラの美しさも捨てがたいものですからね。構いませんよ」


 フィル、振り返ってガムランの顔を見上げる。


「あなたはいいんですか?」

「何がだ?」

「僕がヒルダを貰ってしまっていいのかと聞いてるんです」

「もちろんだ。貰い手が見つかってほっとしたよ」

「ずいぶん彼女のことを気にかけているようでしたから、裏があるのではないかと疑っていたんですが……」


 ガムラン、笑う。


「ああ、それは気にするな。まあ、一種の親孝行みたいなもんだよ」




 -おわり-


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