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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
22/256

ヨウコ、サエキと映画を観に行く

 居間でサエキがテレビを見ているところに、ヨウコが入ってくる。


「いつも暇そうね」

「あれ以来、ヨウコちゃん、ローハンと仲良くやってるからなあ。大喧嘩でもしてくれたら出番があるんだけど」

「サエキさんの仕事って喧嘩の仲裁だけなの?」

「なんだよ。さっきからちくちく嫌味だなあ。何か用?」

「今から映画を見に行かない?」

「デートの誘いか」

「たまには付き合ってよ。ローハン、絶対に行かないっていうし」

「わかった。キース・グレイの出てるやつだろ」

「うん。俳優にまで妬いてどうするんだろ? 馬鹿なんだから」

「ヨウコちゃんの入れ込み具合が凄いからじゃないの? なんでそんなにキースが好きなんだよ?」

「だって格好いいじゃない。見た目だけじゃなくてさ、デビューしてから今まで悪いうわさが一つもないのよ。ファンにも優しいしチャリティにも熱心だし、人間的にも尊敬できるのよね」

「まあ、そう言われりゃ確かにいい男だよな」

「いろいろあって辛かった頃にね、世の中にはキースみたいな男もいるんだから希望を持たなきゃ、って慰められたのよ」

「なるほどなあ。俺もその映画は見たいと思ってたからちょうどいいや。この間はヨウコちゃんと一夜を共にし損ねたしな。今日は付き合うよ」

「やった。じゃ十分後に出るからね。その妙な色合いのチェック柄のシャツとチノパンはやめて、誕生日にあげたジーンズはいてよ」

「ええ。ジーンズじゃ映画館でくつろげないだろ?」

「私がデートしてあげようってんだからちょっとは気を使ったらどうなのよ?」

「ヨウコちゃんって何様?」

「あなたの大家さんだけど。じゃ、車のところでね」

 

       *****************************************

                                               

 映画館のチケット売り場の前でヨウコがトニーを見つける。


「トニーも映画?」

「あら、今日はローハンは一緒じゃないの?」

「私の好きな俳優なんて見たくもないっていうからさあ。サエキさん、この人、私の親友のトニー。トニー、こちらは同居人のサエキさん。ローハンの同僚なのよ」


 サエキ、トニーに微笑みかける。


「ローハンがお世話になったそうですね」

「ヨウコとくっつけてあげた件かしら? それにしてもローハンってほんとヤキモチ焼きなのね。人間でもないくせに」


 サエキ、驚いてヨウコを振り返る。


「ヨウコちゃん! バラしちゃったの?」

「サエキさん、まずいって」


 トニー、愕然としてサエキを見つめる。


「……もしかして本当に人間じゃないのね?」

「私は話してないわよ。ローハンがへまやったもんだから、かなり疑われてたけどさ」

「それじゃ、サエキも仲間なのね。ローハンは一体何モノなの? あれから気になって熟睡できないの。あたしの予想じゃ宇宙人なんだけどさ。当たってるかしら?」


 サエキ、頭を掻く。


「困るなあ。トニーってヨウコちゃんの親友なんだよね?」

「うん。なんでも相談できる大事な友達なんだ。この件以外はだけどね」

「それじゃあ、あんまり手荒な真似はしたくないなあ」


 トニー、目を輝かせる。


「まあ、手荒な真似ってどんな真似? 場合によっては考えるけど」

「拉致して記憶を消すんです」

「やっぱり宇宙人なのね。拉致はともかく記憶を消されるのは嫌ねえ」


 ヨウコ、サエキを冷ややかな目で見る。


「サエキさん、いつもそんな事やってるの? やめてよね」

「いや、別に俺がやってるわけじゃないけどさ。……トニー、じゃあ、お話ししますから、誰にも話さないって約束してもらえます?」

 

 ヨウコ、バッグから財布を取り出す。


「チケット買ってくるわ。サエキさん、映画が始まるまで15分あるから、その間に済ませてよ。トニーもキースを見に来たんでしょ?」


「当たり前じゃない。ヨウコとあたしって不思議なぐらい男の趣味が同じなのよね」


       *****************************************                                                

 ヨウコの家のキッチンで、ふくれっ面のローハンがヨウコとサエキと向かい合っている。


「ヨウコはこんなポップでキッチュでお洒落なサエキさんと一緒に、憧れのキースの映画を見に行ったんだ。俺に内緒で」

「内緒になんてしてないでしょ? サエキさんと映画に行くって言ったじゃない。これのどこがポップでキッチュでお洒落なのよ」


 サエキ、ヨウコを睨む。


「じゃ、なんで着替えさせたんだよ?」

「この方がまだましだからでしょ。とにかく、あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ」


 ローハン、ふくれる。


「ぶー」

「何が不満なの?」


 ローハン、目をそらせる。


「別に」

「はっきり言いなさいってば。ちょっとキースの方が自分より格好いいからってさ」

「やっぱりそう思ってるんだ」

「信じられない。この男、本気で俳優に妬いてるんだ」

「妬いちゃ悪いの?」


 ヨウコ、ニヤニヤしながらサエキを見る。


「ローハン、かわいすぎるわ。ねえ、サエキさん」

「よく出来てるだろう。俺も感心するよ。ヨウコちゃんのツボ、的確についてくるよなあ」

「なんなんだよ、二人して。人を製品みたいに」

「だって製品じゃないか」


 ヨウコ、ローハンに抱きつく。


「機嫌直してよ。私はローハンだけのモノなんだからさ」

「ヨウコが?」

「そうじゃないの?」

「だって、この間は違うって」

「あのときは腹立ててたからさ」

「あー……」

「なに? はっきり言いなさい」


 サエキ、笑い出す。


「感極まって言葉につまってるみたいだぞ」

「本当によく出来てるわねえ。かわいいなあ」


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