表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第五幕
203/256

次の標的

24世紀 『会社』の一室 サエキが入ってくるとヒルダに声をかける。


「お前さあ、何かわかったのか? 偉そうなこと言って帰ったくせに、あれから何の連絡もないじゃないか」

「そんな事言われても私だって忙しいのよ。ガムの馬鹿が遠慮無しに仕事を押し付けてくるんだもん。……そうだ、今夜付き合いなさいよ」

「やだよ。俺もう戻んなきゃ」

「つれないなあ」


 ヒルダ、サエキの肩に腕をまわすと耳元でささやく。 


「タダスケ、黙って聞いて」


 サエキ、眉を寄せるが何も言わずヒルダを抱き寄せる。


「私は四六時中監視されてる。ガムに気をつけて。今言えるのはそれだけよ」


 ヒルダ、サエキにキスすると部屋から出て行く。


        *****************************************


 庭に水を撒いていたヨウコ、キースが丘を登ってくるのに気づく。ヨウコ、近づいてくるキースを何も言わずにじっと眺める。


「……どうしたんだよ、ニヤニヤしちゃって。仕事帰りの夫に『おかえり』ぐらい言ってくれてもいいんじゃないの?」

「だって『キース・グレイ』がうちの丘を登ってくるなんて、もの凄く素敵な眺めなんだもん」

「ふうん……」


 キース、いきなりヨウコを抱き上げる。


「ぎゃ、何するのよ?」

「ベッドに行こう」

「はあ?」


 キース、ヨウコを抱えたまま歩き出す。


「何考えてるのよ? 今着いたことでしょ?」

「今すぐにヨウコさんと愛し合うことに決めたんだ」

「また自分勝手なこと決めてくれたわね。性欲なんてないくせに」

「僕の場合は所有欲って奴かなあ」

「じゃ、セックスなんてしなくてもいいじゃない」

「……ヨウコさんは僕とセックスしたくないんだ」

「そんな事言ってないから、すねるのはやめなさい」


 キース、曖昧な笑顔を浮かべる。


「そうだ、愛してるって言ってくれる?」

「……なんでよ? 私の気持ちなんてわざわざ確認することないでしょ?」

「聞きたいんだよ。まだ二回しか言ってもらってないからね」

「二回? そんなはずないってば。忘れちゃってるんじゃないの?」

「コンピュータに向かってそんなこと言うかなあ?」

「いつも好きだって言ってるでしょ?」

「愛してるって言って欲しいんだよ」

「わかったわよ。今日のキースはいつもにも増してわがままね。……ちょっと待って……」

「どうしてそこで躊躇するのさ?」

「だって、照れくさいでしょ?」


 ヨウコ、赤い顔でぼそっとつぶやく。


「キース、愛してる」

「声が小さい」

「うるさいなあ。 愛してる、愛してる、愛してる。これでどう? 合計六回になったでしょ?」

「ダメだな。まだまだ照れが入ってるよ」

「私は俳優じゃないの。演技指導するのはやめてよね」


 ヨウコ、不思議そうにキースを見上げる。


「ねえ、キース……どうかしたの?」

「ううん」

「そうか、わかったわ。次は自分が狙われるって思ってるんでしょ? 不安で落ち着かない気分でいるんだね」


 キース、笑う。


「ヨウコさんからは何も隠せなくなっちゃったな」

「ヒルダがね、別れ際に私に言ったの。フギンを守ってやってくれって。彼女も同じ心配してたんじゃないのかな?」

「ヒルダが?」

「カイルは私に精神的な圧力をかけようとしてる。リュウが現れたのはショックだったわ。私、あの子を心から信頼してたからね。ローハンを失いかけた時にはもう立ち直れないと思った。あの男、私の弱点をよく知ってる。私をいたぶって楽しんでるのよ。きっと次はあなたを狙ってくるわ」


 ヨウコ、キースの首に両腕をまわす。


「でもね、あなたは私が守るよ」

「ヨウコさん、僕はいずれはいなくなるんだよ。僕を守るために自分の身を危険に晒して欲しくないんだ」

「だからって今すぐにいなくなる必要はないでしょ?」

「夫の言う事、たまには素直に聞けばどうなのさ?」

「ローハンと同じこと言うのね。機械は人間に従ってればいいの。誰がなんと言おうとあんたたちは私が守るからね。もうこの話はおしまいよ」


 キース、憂鬱そうに笑う。


「そうはいかないんだ」

「何かあったの?」

「僕の本体の位置をバラされちゃった」

「ええ?」

「八カ国の上層部が僕の正確な位置を掴んでる。もう隠しようがないよ」

「あの男……」

「僕の所在地は24世紀でも機密になってる。カイルが知ってるなんて、よっぽど上の奴が絡んでるんだよ。ヨウコさんの『番犬』が僕を守っている限り、ネットワーク経由で僕に手を出すことはできない。物理的な攻撃をかける用意があるという脅しのつもりだろうね」

「それであなたはどうなっちゃうの? 掘り起こされたりしない?」

「僕がいるのは分厚い岩盤の中だから、21世紀の技術じゃ難しいと思う。調査しようって動きが出てるから、とりあえずアメリカとロシアの偉い人達に掛け合ってみるよ」

「大統領のこと?」

「違うよ。あの二人はたいして偉くはないだろ? なかなか面白い人達だけどね」

「どうやって掛け合うつもりなの?」

「そうだなあ。『調査を中止しないと、あなたの三親等まで攻撃衛星で抹殺しますよ』ってのはどう?」

「それだと掛け合いじゃなくて脅迫でしょ? キレイな顔してひどいこと考えつくのね」

「こっちだって命がかかってるからね。大丈夫、俳優やってるだけあって脅かすのは得意なんだ。快く協力してもらえるさ」


 キース、ヨウコを抱えたまま、器用に玄関のドアを開ける。


「えーと、サエキさんに挨拶しなくてもいいのかな?」

「うん、僕がいいって言うまで邪魔しないように頼んであるんだ。愛してるってきちんと言えるまで、今日のレッスンは終わらないからね。逃げようったって無駄だよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ