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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第四幕
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授賞式のスピーチ

 居間 ヨウコの家族がテレビでアカデミー賞の授賞式を見ている。ヨウコが主演男優賞を受け取るキースをうっとりと眺める。


「主演賞だなんて格好いいなあ。この調子だと作品賞も取れそうだね」


 ローハンが笑う。


「これでオスカー、いくつ目だよ? 裏で工作してるんじゃないの? 俺も俳優になろうかなあ」

「あんたに演技なんてできるはずないでしょ。簡単な嘘もまともにつけないんだから」

「見た目なら負けない自信はあるんだけどなあ」


 ルークがアーヤの膝の上の『キースケ』に話しかける。


「スーパーコンピュータはいつ戻ってくるの? あのトロフィー、持って帰って来て欲しいな」


 キースが『通信』で答える。


『できれば五日後には帰るよ』


 ヨウコ、笑う。


「やった、五日後だって言ってるわよ」

『それから、僕には裏工作なんて必要ないよ。他人の裏工作の邪魔はしたけどね。ヨウコさん、スピーチの最後の部分、しっかりと聞いて欲しいな』

「え? どうして?」


 サエキがヨウコに声をかける。


「ほら、スピーチ始まったよ。仕事中はほんとに愛想がいいよなあ。ヨウコちゃんを十年前のあいつに会わせてやりたいよ。可愛げの欠片もない態度の悪い機械でさ……」

『サエキさん、ヨウコさんにおかしなこと吹き込まないでください』

「いいからお前はスピーチに専念してろ」


 テレビの画面ではキースが映画の関係者に礼を述べている。


「……あなたのような才能にあふれたアーティストとご一緒できて光栄でした。……最後にもう一つだけ言わせてください」


 キース、顔を上げてカメラを見据える。


「僕を励ましこの世界に復帰させてくれたヨウコさん、見てくれていますか? 愛しています。僕と結婚して下さい」


 ヨウコ、愕然としてテレビの画面を見つめる。


「え、ええと……英語、聞き間違えたみたい」


 キースが笑う。


『そう思うんだったら聞き間違えてないんじゃないかな? 返事は五日後でいいよ。じゃね』


        *****************************************


 五日後の午後 居間でヨウコとサエキがニュースを見ている。


「最近平和になったわね」

人事(ひとごと)みたいに言うなよ。自分達がやったんだろ? なんだよ、そわそわしちゃってさ」

「だって、今晩さあ……」

「ああ、キースが帰って来るんだよな。でも、あれからも毎日しゃべってるんだろ? プロポーズの話はしないのか?」

「中東問題とかエルニーニョとか、なんの関係もないことしか話してないよ。普通の会話がしづらくなっちゃったのよ。向こうも触れてこないところを見ると、私と会うまで待ってるんでしょうね」

「キースの本体と話すのと端末と話すのとどう違うんだよ?」

「ぜんぜん違うわよ。端末って言ったってコードレス電話じゃないんだからさ。誰も電話機とチュウしたりセックスしたりしないでしょ?」


 サエキ、苦笑いする。


「ヨウコちゃん、どうして俺にはそんなに身も蓋もないのかなあ?」

「サエキさんとは話しやすいのよ。私、惚れた男には素直になれないからさ」

「ほらまた。俺ってそんなに魅力ない?」

「私のタイプじゃないってだけだから心配しないで」

「一度付き合ってみる? 印象変わるかも」

「三人目が欲しいんだったらマサムネさんを貰ってたわよ」

「そりゃそうか。それにしてもキースの奴、やらかしてくれたなあ。『キース・グレイ』が授賞式でプロポーズだなんてマスコミは大喜びだ」


 ヨウコ、笑う。


「あの人、なんだかんだ言っても注目浴びるのが好きなのよ」

「どこもキースの謎の婚約者を特定しようと必死だな。見つかりっこないのに気の毒になるよ。で、プロポーズの返事はどうするの?」

「そんなもの、ローハンがいるのに受けられるはずないでしょ?」

「断るのか? かわいそうになあ。あいつ落ち込むぞ」

「……サエキさん、ずいぶんキースに甘くなったわね」

「あいつには負い目があるんだよ」

「どうやって断ろうか悩んでるの。キースが結婚にこだわるなんて意外だよね」

「そうでもないよ。あいつ、ヨウコちゃんを名実共に自分のモノにしたいんだ。結局は自分の欲しい物は手に入れないと気が済まないわがままな奴なんだよ」

「そういえばそうだったわね」

「セックスって言えばさ、あいつ、どんな顔してるわけ?」


 ヨウコ、赤くなる。


「おかしなこと聞かないでよ。セクハラじゃないの」

「俺にはそういうの話しやすいんだろ? だっていつも無表情だから気になるじゃないか」

「普段と同じで無表情よ。その時だけ演技されたら嫌じゃない」

「それもそうか。あいつ、なんだって器用にこなすからそっちの方もうまいんだろうな」

「そりゃあまあ、知識だけは豊富だからね」  


 サエキ、笑う。


「夫の立場がないなあ」

「そんなことないわよ。ローハンとだとね、桜の木の下でピクニックしてるような気分になれるの」

「は、はあ……?」


 ローハンが入ってくる。


「また俺の話してただろ? ピクニックがどうしたって?」

「お前とのエッチは桜の木の下でピクニックしてるような気分にしてくれるんだってさ」

「ええ? 本当に?」


 ローハン、嬉しそうな顔をする。


「そんな風に思ってくれてたんだね」


 ヨウコ、赤くなる。


「うん」

「それはお前らの間では凄い褒め言葉なんだな」

「じゃ、今からベッドに行こう」

「ええ?」

「だって今夜から三日間はキースにヨウコを取られちゃうもんね」

「……そういう言い方されたら断れないわね」


 サエキが笑う。


「そんなこと、ちっとも思ってないくせに」


 ヨウコ、サエキを睨みつける。


「ちょっと、サエキさん……」

「ほら、ヨウコ、怒ってないで行くよ」


 ヨウコ、ローハンに引っ張られて部屋から出て行く。


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