恋人発覚
翌朝 キースと並んでホテルから出て来たヨウコが、落ちつかな気に周囲を見回す。
「パパラッチに見られてないかな?」
「目撃情報を流しまくっておいたから、今頃は市内のホテルを張ってるよ。朝から鬱陶しいのは嫌なんだ。滞在先がバレると面倒だから、電車で市内まで出てそこからタクシーに乗ろう」
「ハリウッドスターってボディガード付きのリムジンで移動するんじゃなんだね」
「庶民的でいいだろ?」
キース、ヨウコを見てニヤリと笑う。。
「今日は面白いことになるよ。帽子とサングラスだけは何があっても身につけていてね」
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ヨウコとキースがタクシーで撮影所の入り口に乗りつけると、待ち受けていた報道関係者が車を取り囲む。
ヨウコが不安そうに窓から外を覗く。
「うわ、凄い人だよ。昨日私を連れてきたからこんなに集まってるんだよね?」
「そうだよ。デビューしてから13年間、一度も女性関係を認めたことがなかったからね。恋人報道は何度もあったけど、毎回ガセだっただろ?」
キース、ヨウコの顔を見て笑う。
「今回は本物だよ」
「だからって私が一緒にいちゃまずいでしょ? 私だけこのままホテルに戻るよ」
「だーめ、さ、行くよ」
キース、ヨウコを車から降ろすと肩を抱いて歩き出す。
「そんなにくっついちゃダメだって」
「どうしてダメなの?」
「こんなことしてていいの? ほら、海外の記者まで来てるよ」
「面白くなるって言っただろ? ヨウコさんは笑顔でいてくれればいいよ」
リポーターたちがキースに口々に声をかける。
「ミスターグレイ、その女性は?」
キース、愛想よく笑顔で答える。
「僕の彼女なんですよ。きちんと紹介したいところだけど、今はまだ話せないんだ。今から仕事なので失礼します」
キースとヨウコ、そのまま歩いて建物のロビーに入る。
「人妻だってのに公認になっちゃったわよ。マスコミには絶対に写真を撮られるな、って言ったのはあなたでしょ?」
「顔を隠してればどこの誰だかわからないだろ? ああ、面白かったなあ」
「何を考えてるのよ? キースらしくないよ」
「またヨウコさんの『キースらしくない』か。生まれて初めて彼女ができたんだから、みんなに知ってもらわなくっちゃね」
「私が誰だかバラすわけにはいかないのに?」
「僕の正体だって誰も知らないんだ。同じことだよ」
キース、いきなりヨウコを抱き寄せるとキスする。
「うわ、びっくりした」
「報道陣にサービスしてみたよ。ガラス越しだけど見えたかな?」
「すごく楽しそうだね」
「ヨウコさんは楽しくないの?」
ヨウコ、笑う。
「楽しいよ。週刊誌とタブロイド、買い占めないとね」
「正面から撮られたのはピンボケにしておいたよ。そのサングラスと帽子じゃ、たいして美人じゃないな、ってぐらいしかわからないだろうけど」
「キースさあ、最近失礼じゃない?」
「たまには僕にも本気で怒ってみたらどうなのさ? ローハンなら間違いなく叩かれてるのになあ」
部屋に入るとミカコが近づいて来て頭を下げる。
「おはようございます。今朝は大変な騒ぎですね」
キース、無邪気に笑って見せる。
「そうですか? ミカコさん、今日もお綺麗ですね。日本の撮影所は勝手がわからないので、ミカコさんがいてくださって本当に助かってます。今日もまたお願いしますね」
ヨウコ、ミカコに聞かれないよう『通信』でキースに話しかける。
『うまいわねえ。無邪気な外国人って感じが出てるわあ』
『俳優やってるだけあって演技は得意なんだよ。ヨウコさんは明日はもう来ないほうがいいね。今日は楽しんで帰ってよ』
『じゃ、私、ここで見てていいのかな。頑張ってきてね』
キース、ヨウコにキスするとぎゅっと抱きしめる。
「じゃあヨウコさん、また後でね」
『人前でやりすぎだってば! ミカコがひいてるじゃない』
『このくらいやっとけば付きまとわれずに済むだろ? 報道陣は五分でまいちゃうから、帰りはラーメンを食べに行こうよ』
キースとミカコが一緒に立ち去ると、ヨウコが宙に向かって話しかける。
「ローハン!」
『はーい』
「今朝はずいぶん静かじゃない。車を降りたあたりから覗いてたでしょ?」
『ホテルを出るまでキースに締め出されてたからね。おとなしく締め出されておいてやったよ。キース、楽しそうだな。あんなに浮かれてるの初めて見たよ』
「……あのさ、最初に言っとくけど、私、キースと寝ちゃったからね」
『そこまで漕ぎ着けるのにずいぶんとかかったね。で、どうだったの?』
「……普通、感想を聞くのかなあ? 一応は夫でしょ?」
『なんて言って欲しかったの? ええ、ヨウコ、俺というものがありながら何考えてるんだよ、って?』
「……いまさらよねえ」
『だろ?』
「昔はチュウでも大騒ぎしてたのにね」
『いつの話をしてるんだよ? ヨウコは俺に遠慮なく憧れのハリウッドスターと不倫してくれればいいんだからね』
「やだなあ、その言い方。……でも、ありがとう。子供たちは元気にしてる?」
『うん、おかあさんにかわいがられて楽しく過ごしてるよ。こんなに甘やかされちゃ戻ってからが大変そうだな』




