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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第一幕
18/256

身体の浮気

 ヨウコとローハン、ルークを迎えに学校に来ている。


「ねえ、ローハン。考えてみれば子供のお迎えに二人で来ることないよね。すっごい暇人みたいじゃない」

「だってヨウコといるのが俺の仕事だろ?」

「建前でやってる仕事もあるでしょ? いつ仕事してるの?」

「この時代のプログラミングなんて頭の中でできるよ」

「ズルイ職業を選んだわね。そういえばパソコン使ってるの見たことなかったわ」

「俺が一緒に来たら嫌なの?」

「嫌じゃないけどさ。リリーのおかあさんとか絶対にやっかんでるもん。冷たいのよ。最近」

「そんなの気にしてたらきりがないよ。俺には優しいからいいじゃないか」

「あんたって人は何が問題なのかまったくわかってないでしょ」


 ルーク、他の子供たちと教室から出てくる。子供たち、ローハンに声をかけて通り過ぎて行く。


「ロボットだ」「こんにちは、ロボット」

「人気あるわねえ」

「俺、ロボットじゃないのになあ。ルークも友達に言いふらしたら駄目だろ?」

「いいじゃない。夢があって。どうせ大人はあんたがロボットだなんて信じやしないんだから」

「だからロボットじゃないって言ってるだろ?」


 ルークがヨウコの手を引っ張る。


「おかあさん、先生が呼んでるよ。教室で会いたいって」

「キャサリンが? ちょっと行ってくる。ローハンはここで待ってて」

「うん」

                                               

 ヨウコ、しばらくして教室から出てくる。女性と話していたローハンがヨウコの方を向く。


「どうしたの? ルークが何かやらかしたの?」

「今度の学校のイベントで寿司を巻いて売って欲しいんだってさ」

「寿司? 俺も手伝ってもいいのかな?」

「それが狙いみたいよ。学校の資金集めのイベントだから。ローハンが来ると女性客が集まるからさ」


 ローハン、隣の女性をヨウコに紹介する。


「ヨウコ、この人、ルーシーのおかあさんのステファニーだよ」

「初めまして。ヨウコです」


 ステファニー 、微笑む。


「いつもルーシーがルークに遊んでもらってるみたいね」

「ステファニーはお医者さんなんだよ。だから普段はベビーシッターがお迎えに来てるんだって」

「へえ、だから見かけたことなかったんだ」


 ルークが離れたところからローハンを呼ぶ。


「おーい、ロボット! 早く帰ろうよ」

「分かった、すぐ行くよ。じゃあね、ステファニー」

「またね」


 ローハンとヨウコ、ルークを連れて歩き出す。


「きれいな人ねえ。そのうえ、医者か。すごいわね。どこのアクセントだろ?」

「もともとは夫婦でアイルランドから来たんだって。でも去年、離婚したそうだよ」

「だからあんたをあんな目で見てたんだわ」

「何を言ってるんだよ。すぐに人を疑うのはよくないよ」

「ローハンこそ人を信じ過ぎなのよ。そのうち、ひどい目にあったって知らないからね」


 ルークが目を丸くする。


「また喧嘩なの? 仲いいなあ」

                                               

       *****************************************


 翌週の晩、居間でサエキがテレビを見ていると、ヨウコとローハンが入ってくる。


「おかえり。イベント、どうだった? 寿司は売れたの?」

「サエキさん、私もうこの男いらないから。早く連れて帰って」

「ヨウコ、ごめんって言ってるだろ」

「うるさい」


 サエキ、呆れ顔でローハンを見る。


「今度は何やったの?」

「よその女とチュウしたの」

「ええ!」

「抱き合っちゃっていやらしい。私に見つかってなきゃどこまで行ってたかわかったもんじゃないわ」

「そんなことないって」

「あれは絶対、舌入ってた」

「入れてないよ」

「そういや、あんた、絶対に浮気はしないって言ってなかった? あれは嘘だったんだ」

「あれぐらいで浮気とは言わないだろ?」

「なにそれ? 開き直るの? いい訳なんかしないでいいよ。私、男に嘘つかれるのには慣れてるから」

「そんな投げ遣りな言い方やめろよ!」


 サエキ、厳しい顔で立ち上がる。


「ローハン、いいからこっちに来い」

「だって……」

「何があったか大体分かったぞ。お前、誘われるままについてってチュウしちゃったんだろ」

「そんなところかな。終わってからヨウコが友達と話し込んじゃってさ、待ってる間、暇だったんだ」

「『そんなところかな』じゃないだろ? ここは24世紀じゃないって何度言ったらわかるんだよ? 恋人がいたら他の女には触っちゃいかんって習わなかったのか?」

「習わなかったよ」

「ええ? ほんとに?」

「21世紀の習慣を俺に教えるのはサエキさんの担当だろ?」

「基本的なことはエイミーが教えることになってたじゃないか」

「うーん。基本的な21世紀のセックスの仕方は丁寧に教えてくれたけど」

「あの女、何してんだよ? とにかくな、ヨウコちゃん、お前の過去のセフレにだって妬くんだよ。もっと気を使え」

「でも、あれはセックスしたからだろ? 今日はチュウしかしてないよ」


 ヨウコ、愕然としてローハンを見つめる。


「……もしかしてこの男、ほんとに悪いことしたとは思ってないんだ」

「24世紀じゃ原則として身体の浮気は浮気とは呼ばないんだよ。気にする人もいないわけじゃないけどな。例えばさ、俺がヨウコちゃんに『トニーのカフェにコーヒー飲みに行こうよ』って誘うだろ。ヨウコちゃん、どうする?」

「暇ならご一緒するけど?」

「そのくらいの感覚だな」

「ええ? ほんとに? 信じられない軽さね。じゃ、たとえばだよ、私がサエキさんとチュウしちゃたりセックスしちゃっても、サエキさんに惚れない限りは浮気した事にはならないんだ」

「まあ、そういうことになるかな」

「わかった。じゃ、今日はサエキさん、誘っちゃお」


 サエキとローハン、同時に声を上げる。


「ええ!」

「何よ、その顔? 私じゃ不満だって言うの? どこが悪いか言ってみなさいよ」


 サエキ、慌てて首を振る。


「いいえ。どこも」

「じゃ、サエキさんの部屋に行こ」


 ヨウコ、サエキの手を引っぱって部屋から出て行く。


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