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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第四幕
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解析しよう

 数日後 キッチンにヨウコが入ってくると、料理をしているローハンに話しかける。


「ローハン、何してるの?」

「夕飯を作ってるんだけど」

「違うわよ。今朝からずっと裏で何かしてるでしょ?」

「裏? ああ、キースの手伝いだよ。俺の方が演算処理は得意みたいだから、解析を手伝ってるんだ」

「カイセキ?」

「『二つ目の願い(セカンドウイッシュ)』を任されて以来、キースは一日中シミュレーションにかかりっきりなんだよ」

「どうして?」

「なるべく犠牲者を出さずに世界を立て直すにはどうしたらいいか、一番いい方法を探してるんだ。行き当たりばったりで出来ることじゃないからね。大変な作業なんだよ」

「私もそのカイセキぐらいなら手伝わせてもらってもいいんじゃない? 『口のない雪ダルマ』なら計算が得意だから、きっとお手伝いできるわよ」

「……じゃ、一つファイルをあげるから、試しにやってみてよ」

「ずいぶんとでかいファイルね。これで何すればいいの?」

「キースからの指示も入ってるだろ? ほんとに自分じゃわかんないんだな。『雪ダルマ』に頼んでみてよ」

「うん。……こんな複雑なのは自分じゃ時間がかかるから『口のないキリン』と『口のない桜の木』に頼むって言ってるわ」

「それ、新しい『使い魔』? 桜の木にはもともと口はないだろ?」

「そんなの知らないわよ。『雪ダルマ』がそう言うんだからさ。用意が出来たら解析を始めるって。結果は直接ローハンに渡してもらったらいいわね?」

「ヨウコの負担にはならないんだね?」

「だって、あの子達が勝手にやってくれるんだもん」

「じゃ、ご飯作るの手伝ってよ」

「チュウしてくれたらね」

「やった」


 ローハン、ヨウコにキスする。 キースから『通信』が入る。


『ヨウコさん、何してるの?』

「チュウだけど、キースもしたい? バーチャルなチュウでよければしてあげるわよ」

『そうじゃないよ。ローハンに手伝わされてるの?』

「うん、晩御飯作るの手伝ってるんだ」

『解析の事を言ってるんだよ』


 ローハンが口を挟む。


「だってやりたいって言うからさ、ファイルを一つ渡したんだ。この程度ならやらせても構わないだろ?」

『でも、ヨウコさんにはよほどの場合じゃないと手伝ってもらっちゃいけない決まりだろ?』


 ローハンがいきなり叫ぶ。


「うわあ!」

『ローハン、どうかしたのか?』

「わけのわかんないプログラムの塊みたいなのが無理やりアクセスしてきたんだよ。殺されるかと思った」


 ヨウコが笑う。


「今のが『キリン』よ。結果、持ってったでしょ? 受け取ってくれた?」

「俺からはキリンに見えないの、知ってるだろ? あれ、一体何なの? あまり俺に近づかないで欲しいよ」


 キース、呆れた声を出す。


『ファイルって今朝、渡したファイルのこと? あんなの、ヨウコさんにやらせたのか?』

「私じゃなくて『口のないキリン』がやってくれたのよ」

「わりと複雑なのを選んだんだけどね、俺よりも速かったよ」

『ほんとに? 解析結果を見せてくれる?』

「うん。『キリン』に持って行かせるね」

「ヨウコ、待ってよ。その『キリン』、かなり怖いから俺から転送したほうがいいよ」


 ヨウコ、ローハンの前のフライパンに目をやる。


「ローハン、フライパン、熱しすぎじゃない?」

「ありゃ、しまった。そこの刻んだたまねぎと豆板醤、取って」

「何を作ってるのよ?」

「創作料理」

「料理教室で習ったのにしたら?」

「俺の創作料理のどこが気に入らないんだよ」

「前回のが凄すぎたからさ」

「確かにあれは失敗だったね」

「何よ、自分でもわかってるんじゃない。気を使って全部食べたのに」

「今日のはいい意味で凄いんだよ」

「怪しいなあ」


 キースが話しかける。


『ヨウコさん、解析、ちゃんと出来てたよ』

「なによ、間違ってるって疑ってたの?」

『だって、自分じゃ何やってるのか知らないんでしょ?』

「私はやってないよ。やったのは『キリン』達だよ」

『まあ、内容を知らないんだったら、その方がいいかな。じゃ、これからはヨウコさんにも手伝ってもらうよ』

「いいの?」

『一日でも早く世界を救いたいからね』

「じゃ、これからはキースが『キリン』と直接やり取りしてくれる? 口はないけど話せるから」

『さっきから言ってるキリンって何なの? ヨウコさんの見てるもの、僕にも見せてよ』

「いいよ」

『……どうして桜の木がここに?』


 ローハン、笑う。


「いつ見ても『ヨウコビジョン』は衝撃的だよな」

『ヨウコさん、この首の長い生き物みたいなの、僕に危害を加えたりしないよね?』

「それが『キリン』よ。誰も蹴らないように言い聞かせておくね。口はないから噛まないとは思うけど」


 ローハン、ヨウコを振り返る。


「ヨウコ、火加減見てくれてるの?」

「ああ、ちょっと焦げた。私には一度に一つのことしかできないのよ。あんたと違って人間だからさ」


 ローハン、むくれる。


「はいはい。そんなに自慢することないだろ?」

「自慢なんかしてないでしょ? まさか、いまだに自分がニンゲンじゃなかったこと、気にしてるんじゃないでしょうね?」

「してないよ。ぜんぜん」

「してるんだ。諦め悪いなあ」


 キースが不思議そうに尋ねる。


『どうしてそんなこと、気にするの?』

「だってヨウコはニンゲンだろ? やっぱりヨウコと同じがいいんだよ」

「今は私の方が人間離れしちゃってるから、ローハンとたいして変わらないよ」

「そういえばそうなのかなあ?」


 ヨウコ、ローハンに抱きつく。


「そうだよ。夫婦は似てくるってほんとなのねえ」

「それってそういう意味じゃないと思うんだけど……」


 キース、笑う。


『あーあ、妬けるなあ。じゃあ、残りの宿題、今日中によろしくね』


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