表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第四幕
173/256

僕のヒロイン

 翌朝 ヨウコ、目を覚まして隣でキースが自分を見つめているのに気づく。


「ひ、ひいい」

「どうしたんだよ?」

「ふ、布団の中にキースがいる」

「一緒に寝てたんだから当たり前だろ?」

「寝てる間にイヤラシイ事したんじゃないでしょうね?」

「何もしてないけど……」


 ヨウコ、目に見えて安心した顔をする。


「ああ、よかったあ」

「……なんでそんなにほっとしてるんだよ?」 

「だってイヤラシイ事されたのに覚えてなかったら嫌でしょ?」

「ええ? して欲しいんだったらどうして拒絶するんだよ? わけわかんないよ」

「……わ、私のせいじゃないわよ」

「ヨウコさんのせいだろ?」

「……ごめん」


 キース、笑うと、申し訳なさそうなヨウコを抱き寄せる。


「じゃ、許してあげる。こうやって一緒に朝を迎えられるだけで、僕は嬉しいんだよ。あの時、僕は眠ってるヨウコさんを残していかなきゃならなかったからね」

「ねえ、キース。これからはずっと一緒なんだよ。もう辛いことは忘れようよ」


 キース、微笑む。


「僕は何も忘れないようにできてるんだ」

「私が記憶を消してあげようか?」

「やめてよ。今となっちゃ、あれも大切な思い出なんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ。あの夜のことは絶対に忘れたくない」

「……私、キースと素敵な夜を過ごしたんだね。私だけ忘れちゃって、なんだか損した気がするな。もう思い出すことはできないの?」


 キース、笑う。


「無理だな。徹底的に消させてもらったからね。ぼんやりとでも覚えてただなんて信じられないよ」

「夢だと信じて疑わなかったけどね。ところであなたはよく眠れたの?」

「僕が眠らないのは知ってるよね?」

「そうだった。普段、夜は何してるの?」

「この端末なら、接続を切って寝かせておくんだ。休養を取らせないとお肌に悪いからね」

「じゃあ、私は抜け殻と一緒に寝てたのかしら。あなたはいつも忙しいもんね。いまや救世主もやらなきゃいけないし」

「今晩は一緒にいたよ。ずっとくっついてたのに気づかなかったの?」

「うん、ぐっすり眠ってたわ」

「三回もベッドから蹴り落とされそうになったよ。ヨウコさん、その身体、いびきもかくんだね。調節してもらったら?」


 ヨウコ 赤くなる。


「やだなあ、せっかくキースの隣で映画のヒロイン気分にひたってたのに」

「ヨウコさんはいつだって僕のヒロインだよ」

「……よくもそんな臭いセリフを顔色も変えずに言えるよね。ローハン以上だわ」


 キース、笑ってヨウコの顔を覗き込む。


「陳腐なセリフも言えないようじゃ俳優失格だろ?」

「うわ、朝からどうしてそんな完璧な顔してるのよ。心臓に悪いわ。そ、そんなににこやかに笑わないで」


 キース、真っ赤になったヨウコをそのままベッドに押しつける。


「昨夜は逃げられちゃったけどね。今度はそうは行かないよ」


        *****************************************


 居間 サエキが入ってくると、タネにミルクをやっているキースに話しかける。


「おはよう。今朝もダメだったんだな」

「ヨウコさんの潜在意識下では嫌われているのかもしれません」

「いじけるなよ。まだ一緒にいるとリラックスしきれないんだよ。ついつい力を使ってしまうんだろうな」

「やっかいですね。僕といるとそんなに緊張するのかな」

「そのへんはお前じゃローハンにはかなわないよ」

「ローハンか……。もうちょっと間抜けな演出を心がけたほうがいいですか?」

「最近のお前は十分に間抜けに見えるけどなあ」

「もういいです。……そうだ、見てください。タネがやっとミルクを飲んでくれるようになったんですよ」

「よかったじゃないか。知らないおじさんは嫌だけど、おなかが空くのはもっと嫌だから仕方がない、って諦めたんだな」


 キース、無表情でサエキを見る。


「……エンパスなんて存在しませんから」

「すまん。でも、このまま続けていけば、いつかは『知らないおじさん』から『知ってるおじさん』になれるさ」

「そんなのちっとも嬉しくないです」


        *****************************************


 翌朝 ヨウコが玄関でキースを見送っている。


「ヨウコさん、次に会うのは日本だね」

「うん、タネにお別れは言ったの?」

「よく寝てたから顔だけ見てきた。『キースケ』を通して成長を見守るよ」


 キース、ヨウコを抱きしめるとキスする。


「昨夜はごめんね。あなたのことは大好きなんだよ」

「わかってるよ。謝らなくてもいい。でも、いつかは抱かれてくれるんだろ?」


 ヨウコ、何も言わずに目をそらす。


「……何で黙ってるんだよ?」

「だって、こんな格好いいキースと裸になってあんなことやこんなことするのよ。そんな恥ずかしい真似、できっこないってば」

「……今、断言したね」

「そういうわけじゃないけど……」

「わかった。それなら格好よくない端末を借りてくるよ」

「そんなのやだ。このキースがいい」


 キース、力なく笑う。


「……ヨウコさん、次に会うまでに解決策を考えておいてくれるかな?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ