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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第四幕
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帰還

 深夜 街の中心部でアリサと友人がタクシーを捜している。車が止まって若い男が顔を出す。


「何してるの? 乗ってく?」

「何もしてません。ほっといて」


 アリサ達、足早にその場を離れる。


「日本の女は簡単にひっかかるとでも思ってんのやろか?」

「アリサがかわいいからでしょ。リアリティショーに出てるアジア人モデルに似てるもん」

「そんなことないやろ? 送別会やなかったら、金曜の夜なんて家におるのになあ。酔っ払いしか歩いてへんやん」


 アリサ、不安そうにあたりを見回す。


「タクシー、なんで走ってないんやろ? 表通りまで出るか」

「そうだね」


 アリサたちが横道に入ったのを見て、若い男の集団が罵声を浴びせながらついてくる。


「嫌なのに見つかった。もうほっといて欲しいわ」

「なんだか性質が悪そうだね」

「走るか?」


 アリサたち、前方からがっしりした体型の男が歩いて来るのに気づく。


「強そうな人が来たで。助けてもらおう」


 アリサ、英語で男に声をかける。


「あの、すみません。絡まれて困ってるんです」


 男、若者達の方に目をやる。


「頭の悪そうな奴らだな。わかった。ちょっと待ってろよ」


「あ、ありがとう」


 男が近づくと、若者達がこそこそと引き返す。 男、振り返って笑う。


「もう大丈夫だ。あいつら、たいしたことないな」

「助かりました。ありがとう」


 男、また笑うと、流暢な日本語で話し出す。


「相変わらずアリサは英語が下手くそだな」

「ええ? 日本語、話せるんか?」


 友人、不思議そうにアリサを見る。


「アリサの知り合いなの?」


 男、不安そうにアリサの顔を覗き込む。


「アリサ、もしかして俺がわからないのか?」

「だって初対面やんか。そうか、ヨウコ姉ちゃんの関係者やな?」

「本当にわからないのか? もしかして、もう新しい男が出来たのか?」


 アリサ、男の茶色い目をじっと見つめる。


「……ウ、ウーフなんか?」

「なんだ、わかるんじゃないか」

「ウーフなん? ほんまにウーフなん?」


 男(以下ウーフ)「犬は損だからな。身体を換えてもらったんだ」


「そんな事できるんか?」


 ウーフ、自分の体を見下ろす。


「気に入らないのか? アリサ好みだと思ったんだけどな。アリサはラグビー選手みたいな男がタイプなんだろ? ちゃんと知ってるぞ」


 友人が不思議そうに二人の顔を見比べる。


「やっぱり知り合いなの? 会話の意味がわかんないんだけど」


 アリサ、笑う。


「うん、知り合いやったわ。ちょっと会わん間にすっかり見た目が変わってしもうて、全然わからんかってん」


 ウーフ、唸る。


「知り合いって言い方はないだろ? 自分の男に向かって」

「ええ?」

「俺のこと、好きやってあれだけ抱きついてたくせに、やっぱり男ができたんだな?」


 アリサ、おかしそうに笑いだす。


「できてへん。できてへんで」

「そこの角に車をとめてあるんだ。友達を送っていって、その後、アリサをヨウコの家まで連れて行ってやる」

「え? ウーフが運転すんの?」

「おかしいか?」

「ううん、やっぱりウーフは賢いんやなあ」


 ウーフ、恨めしそうにアリサを見る。


「まだ犬扱いするのか? 傷ついたぞ」


        *****************************************


 同日の深夜 キッチンでヨウコとローハンとアリサの三人が話している。


「ウーフ、あんなになってしもうて、びっくりしたわ」

「つきまとわれたでしょ? 戻ってきてすぐにアリサを迎えに行くって飛び出して行ったのよ」

「さっきは危ないところを助けてもらったんやで。ほんま、助かったわ」

「ウーフ、あんたにすっかり惚れちゃってさ。サエキさんが記憶を消すって言って連れて帰ったのよ」

「ええ? それでしばらくいなかったん?」

「うん。でも、保健所に連れて行かれる犬みたいに悲しい目をしちゃってさ、かわいそうで見てられなかったの」


 ローハンがうなずく。


「ウーフは犬の姿はしてるけど、頭の中身は俺とたいして変わらないんだ。入ってる身体が違うだけの話なんだよ」

「ローハン兄さんと同じ? それやったら、記憶なんて消されたらたまらんな」

「だから、ウーフにはしたいようにさせてやってくれ、って頼んだのよ。私の家族の一員なんだから私が守ってやらなくちゃ。ウーフには危ないところを助けてもらった恩もあるしね」

「ほかならぬヨウコの頼みなんで、なんとかして貰える事になったんだ。ウーフがもう犬なんて嫌だっていうんで、身体を換えてもらったんだよ」


 ヨウコ、笑う。


「好きな人の記憶を失くしちゃうよりは、辛くても失恋したほうがましだと思ったのよ。フラれりゃ犬に戻りたがるかもしれないし」


 アリサ、不思議そうにヨウコの顔を見返す。


「フラれる?」

「さっさと諦めさせてやりなさいよ」

「でも、私、ウーフやったら付き合ってみてもいいで」

「はあ? 犬よ?」

「でも、犬の姿をしてただけで、中身はローハン兄さんと変わらへんのやろ?」

「それはそうだけど……」

「今はえらい格好ええやん。ラグビーの選手やと思ったで」


 ヨウコ、笑う。


「そうなのよね。予想外にナイスなボディを貰ってきたんで驚いたわ。ウーフとわかっていながらも目が行っちゃうのよねえ」

「ヨウコ、ラグビー選手の太もも、好きだもんな」

「でもさ、犬じゃないって言ってもロボットよ? 人間とは違うのよ?」

「ローハン兄さんやってロボットやん。問題あるんか?」

「……今のところは別にないかなあ? 本人が自分がロボットだってことを根に持ってるぐらいで」


 ローハン、むくれる。


「それは昔の話だろ?」

「だって、時々寝言で『俺はロボットなんかじゃないよう』って言ってるわよ」

「兄さん、寝言なんて言うん?」

「よく出来てるのよ。でも、アリサ、本気なの?」

「付き合ってみんとわからんけどな。お見合いよりは面白そうやろ?」


 ローハン、笑う。


「じゃあ、いいんじゃない。でも、ウーフが犬に戻ってくれないとなると、番犬がいなくなっちゃうね」

「あんたも番犬みたいなもんでしょ? 一匹いれば十分よ」

「俺、犬?」

「頭の中身はウーフと同じじゃない」

「犬のウーフがおらんようになって、ルークが寂しがってるんとちゃうの?」

「それなら大丈夫よ。お兄ちゃんが出来たみたいに喜んでたから。……リュウがいなくなってから寂しがってたのよ」


 サエキとウーフが入ってくる。


「話は終わったのか?」


 ウーフが嬉しそうにアリサに声をかける。


「アリサ、久しぶりに会ったんだから散歩に行こう」

「もう、夜中やで」

「俺と一緒なら大丈夫だ」

「そうやね。じゃ、行こか」


 アリサ、ウーフに手を差し出す。


「お手」

「面白くない冗談だ」

「散歩やったら紐もつけんといかんやろ?」

「アリサ、しつこいぞ」


 一緒に出て行くアリサとウーフを見て、サエキがつぶやく。


「うまくフッてくれりゃいいんだけどな」

「アリサちゃん、付き合ってみるって言ってたよ」

「ええ? ウーフだぞ?」


 ヨウコが首を傾げる。


「おじさんたちにはなんて言おう。うちの親ほど柔軟じゃないから、人間ってことにしとかないとまずいよね?」


 サエキ、困った顔をする。


「ちょっと待てよ。アリサちゃんと付き合うなんて想定外だ。こっちの一般市民とロボットを付き合わせるわけにはいかないよ」


 ヨウコ、サエキを睨む。


「それじゃ、なんであんな格好いい身体をあげたのよ?」

「あいつの注文がうるさかったんだよ」

「それに私だって一般市民よ」

「ヨウコちゃんは救世主だろ?」

「じゃあ救世主の従姉妹も入れといてよ。それじゃなきゃ世界なんて救ってやらないわ」

「参ったなあ。ガムにどやされそうだ。ヨウコちゃんは本当にいいの? ウーフだよ?」

「ウーフはおしゃべりだけど頼りになるわよ。あんないい男なんだもん。大丈夫でしょ」


 ローハンが楽しそうに笑う。


「サエキさん、牧羊犬がいないと不便なんだ。新しい犬、貰ってきてよ。今度は女の子に惚れる心配がないのにしてね」


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