ヨウコとローハン、買い物に行く
ローハンとヨウコがスーパーマーケットで買い物をしていると、ヨウコの友達のミチヨが近寄ってくる。
「ヨウコ? 久しぶり。どう新居は?」
「ほんと、久しぶりだね。やっと片付いたから、週末あたり遊びに来てよ。仕事は休みでしょ?」
「男に出会ったと思ったら、即、引っ越しちゃうんだもん。びっくりしたわよ。その彼氏にも紹介してもらわないとね」
「それならそこにいるよ」
「ええ? どれ?」
「あそこでキャベツの品定めをしてる人」
「……おばちゃんじゃない」
「違う、その右側にいるでしょ」
「どれよ?」
「目、悪いの? あの紺のパーカ着てる人」
「あの背の高い人? うそうそ、違うって」
「どういう意味よ?」
「だってさ、どこであんなの見つけたの? モデルでしょ?」
「違うって」
「あれは射程外だよ。だまされるにもほどがあるって」
「あんたねえ」
ローハン、ミチヨに気づいて戻ってくる。
「ヨウコ? お友達?」
「ミチヨです。初めまして、って普通に日本語しゃべってるんだけど」
「ええと……この人、おばあちゃんが日本人で日本語の英才教育受けたのよ」
「ミチヨちゃんだね? ヨウコから聞いてます。よろしくね」
「こ、こちらこそよろしく」
ローハンがキャベツのところに戻ると、ミチヨがヨウコを見る。
「ちょっと、私の事、なんて話したのよ?」
「仲のいい友達だって言っただけよ」
「おかしなこと、言ってないでしょうね?」
「おかしなことって?」
「土曜日に遊びに行くわ」
「何が目当てなのよ? あれは私のだからね」
「わかってるわよ」
ローハン、ヨウコに声をかける。
「ヨウコ、半分のキャベツと一個のキャベツ、どっちにする?」
「一個の方が割安でしょ」
「でもヨウコ、先週もでかいキャベツ買って、腐らせてたじゃないか。食べ物を粗末にしたらだめなんだよ」
「だってキャベツ嫌いだもん」
「ええ? そうだったっけ? 知らなかったけどなあ」
「データの入力漏れじゃないの?」
ミチヨが不審な顔をする。
「入力漏れ?」
「ヨウコ、どうして嫌いなものを買うんだよ?」
「まずくても栄養あるからルークに食べさせようかなって思ってさ。でもキャベツを見ると料理する気がうせるのよね」
「いいかげんだなあ」
「それじゃ、あんたが料理してよね。薬だと思って食べるから」
「はーい。今晩、ロールキャベツでいい?」
「いいよ。それで」
ミチヨ、呆れた顔でヨウコを見る。
「ちょっと、ヨウコ、そんな態度じゃすぐに逃げられるわよ。過去の経験生かしなさいよ」
「それが今回は大丈夫なんだって」
「なにを根拠にそんな事が言えるわけ? 今までのとは段違いにいい男じゃない。これを逃がしたらこんなチャンスは一生巡ってこないよ」
「ローハン、私に惚れてるから」
「……凄い自信ね」
「本人に聞いてみな」
「そんなの聞けないでしょ」
「いいからさ、『ヨウコと仲いいんですねえ』、とか言ってみな」
ミチヨ、ローハンに近づきしばらく話してから戻ってくる。
「ありゃあ、本物だわ」
「でしょ」
「キャベツ抱きしめて照れてたわ。いいなあ。ヨウコ。いったいどんな技を使ったのよ」
「お年寄りにやさしくしてみたの」
「何の話?」
「なんでもない。でも、ヨウタ君も相当かっこいいでしょ?」
「最近、どうも噛み合わなくてさ」
「あんだけ仲良かったのに?」
「倦怠期かなあ」
「まだ二ヶ月しか付き合ってないでしょ?」
「ローハンのモデル友達、紹介してよ」
「だからモデルじゃないんだってば」
「そうだ、今からヨウタに会うんだった。遅刻だわ」
「あんた自身に問題があるんじゃないの?」
ミチヨが立ち去ると、ヨウコ、ローハンのところに行く。
「オレンジ色のかぼちゃと緑のかぼちゃ、どっちにする?」
「緑のがいい。ミチヨが私の事、うらやましがるなんて滅多にないから気分いいや」
「なんでヨウコのこと、うらやましがるのさ。ミチヨちゃんの方がヨウコよりずっときれいじゃないか」
「……あんたがやたらに格好いいからでしょ」
「そういえばそうだったね」
「自覚持ったほうがいいよ。ガードが甘すぎて心配になるよ」
「面倒くさいなあ。ヨウコの好きな男のタイプが世間一般と同じっていうのに問題があるんだよ。もっと特殊だったら苦労がなかったのに」
「特殊ってどんなのさ? 私、別に面食いじゃないよ。人気デザイナーなんかに頼んだのはそっちでしょ」
「俺はヨウコにさえ愛してもらえればそれでいいのになあ」
「うわ」
「どうしたの? ヨウコ?」
「本気で言ってるのよね。ローハンってすごい」
ヨウコ、先に立って歩き出す。
「照れてる?」
「うん。五メートル離れて歩いてくれるかな」
「そうはいかないよ」
ローハン、ヨウコに追いつく。
「ねえ、ヨウコってミチヨちゃん以外にも仲のいい友達いるんだろ?」
「うん、いるよ」
「俺が来てから、一度も友達に会ってないのはなんで?」
「最近忙しいじゃない。あんたもいるし」
「俺に気を使ってるの?」
「そんな事ないよ。電話やメールでよく話してるし。みんな仕事してるから忙しいのよ」
「俺もヨウコの友達と仲良くなりたいな。カフェのトニーなんて大親友じゃなかったの? あの時はお世話になったんだよ」
「トニー? あー……考えてみるわ」
「何だよ。それ?」
「わかった、じゃあ、トニーのところに連れてくよ。帰り道だし」
「えらく急だなあ」
「こういうことは早めに済ましておいたほうがいい気がしてきたのよ」




