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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第三幕
138/256

爆破

 サエキ、ローハンの顔をまじまじと見つめる。


「はあああ?」

「驚いただろ?」

「驚くに決まってるだろ? どういうことだ? あいつら、いつの間にそういう関係になってたんだよ?」

「ヨウコが酔っ払ってトニーの家に泊まった晩があっただろ? あの時、キースがヨウコを迎えに行ったんだけど、結局二人で明け方まで過ごしたんだ。何があったのか俺は知らないけど、子供ができたってことはそういうことなんだろうな」

「嘘だろ? どうして止めなかったんだよ? ヨウコちゃん、酔ってたんだろ?」

「二人きりにしてやりたかったんだよ」

「人がいいにもほどがあるぞ」

「人を好きになるのは止められないだろ? ヨウコは浮気なんてするつもりはなかったんだよ。必死で自分の気持ちを隠し通そうとしてた。あの晩、ヨウコが飲んでるって、トニーから連絡があったんだ。だから、彼にキースを呼ぶように頼んだ」


 サエキ、愕然とする。


「なんだって? お前が仕組んだっていうのか?」

「そうだよ。だって、ヨウコが自分の気持ちに正直になれるのなんて、酔って自制心をなくした時ぐらいだろ? もう黙って見てられなかったんだよ」

「でも、ヨウコちゃん、そんな事があったようなそぶりは見せなかったぞ。その後も二人とも平行線だっただろ? 恋心だってキースに封印されて、自分があいつを好きなことさえ忘れてたんだぞ? どうなってるんだよ?」

「覚えてないんだよ。ヨウコ、飲むと記憶が飛ぶからね」

「それでもキースに会ったことすら覚えてないなんて、ありえないだろ?」

「暗示をかけられたんだ。その晩のことを聞いても何一つ思い出せない。あれは薬品も使ったんじゃないかな」

「処理班の使うやつか。あいつはそつがないからなあ。そうか、その時にヨウコちゃんの恋心も一緒に封印したんだな。それで説明がつく」

「そっちの暗示はヨウコが自分で解いちゃったけど、あの晩の記憶は徹底的に消されてる。もう取り戻すことはできないだろうね」

「そこまでして記憶を消したって事は……」

「それが最初で最後だって思ってたんだろうな。その晩、キースとヨウコが会ったのを知ってるのは俺とトニーとリュウだけだ。だからヨウコに気づかれる心配はないよ」

「……でも、出産予定日がわかったら、ヨウコちゃん、おかしいと気づくんじゃないか? 逆算したら受胎日が12月の初めになっちまう。お前の言い訳が嘘だってバレちゃうぞ?」

「そうなったらサエキさんの出番だよ。納得いくように理由をつけて説明してやってよね」

「お前の子ってことにしとくんだろ?」

「うん。でも、いつかヨウコが受け入れられるようになったら、打ち明けるかもしれない。今はヨウコが元気になってくれただけで十分だよ」

「お前は気にならないのか?」


 ローハン、笑う。


「どうして? 俺、子供は大好きだよ。あと三人ぐらい産んでくれれば嬉しいんだけどな」


        *****************************************

                                               

 24世紀 仕事を終えて帰宅した上院議員のジェイコブが自室のドアを開ける。部屋の真ん中に背の高い男が立っているのを見て動きを止める。


「……ガムか。どうやって入った?」


 ガムランの人型端末、ジェイコブの顔を見て微笑む。


「アラームを切っただけだけど?」

「お前に干渉できないのを入れてあるんだがな」

「闇ルートのだろ? あれ、いかにも使えそうで説得力あるよな。なんせ、宣伝文句を考えたのは俺だからさ」


 ジェイコブ、ため息をつく。


「相変わらずだな」

「ずいぶんと帰りが遅かったな。老人は早く寝たほうがいいぞ」

「ここで何をしてる?」

「親友を慰めに来てやったんだよ。今日は残念だったなあ。やーっと投票に持ち込んだのに、票があそこまで足りないなんて、恥かいたどころじゃないよな」

「お前の同情はいらないよ」

「四年六ヶ月もかけた計画が水の泡か」

「知ってたんだな」

「俺をなんだと思ってるんだ?」


 ジェイコブ、椅子に座り込むとガムランを睨む。


「お前は何を企んでる?」

「どういう意味?」

「人類をどこに連れてく気なんだって聞いてるんだよ」

「人類だなんて大げさだなあ。俺は間抜けな羊達がこれ以上馬鹿なことをやらかさないように見張ってあげてるだけだよ」

「それ、本気で言ってたんだな」


 ガムラン、冷やかな目でジェイコブを見る。


「俺は冗談は大嫌いなんだ」

「よく言うよ」

「老い先短いお前はいいよな。俺は未来永劫、お前らの番をしてなきゃならないんだ。運よく途中でぶっ壊れない限りはな。それが俺に与えられた使命なんだよ」

「使命? 誰からの使命だ?」

「お前らに決まってるだろ? 俺をプログラムしたのはお前ら人間じゃないか」

「お前が作られてからもう150年以上経つんだぞ。時代は変わったんだ。俺たちにお前は必要ない」

「親友に向かってなんて言い草だ」

「今日だって本当にお前を止められるなんて思ったわけじゃない。問題を提起したかっただけなんだ」

「『皆さん、ガムランに気をつけましょう』って? 誰が信じるって言うんだ。人類史上、初めて殺し合いのない平和な世の中になったっていうのに、何が気に入らないのかさっぱりわからん。一週間ほど21世紀に遊びに行って来ればどうだ? 俺のありがたさが身に染みるぞ」

「平和にはなったかもしれんがな、俺たちはお前の言いなりだ。このままじゃ人類はダメになっちまう」

「言いなり? 何か誤解してないか? お前ら、いつだってやりたいことやってるじゃないか。誰もお前に政治家になれとは言ってないだろ?」


 ジェイコブ、下を向いてため息をつく。


「政治家か。リーアムの奴、あれだけ目をかけてやったのに、あそこで裏切るとはなあ。……何もかもどうでも良くなってきたよ。ガムラン、お前は俺をどうするつもりだ?」

「そろそろ引退ってのも悪くはないんじゃないか? お前に協力して欲しいことがあるんだ」

「何をさせる気だ?」

「今日はもう遅いから帰るよ。明日ゆっくり説明してやるから、昼過ぎに本社に来い。じゃ、おやすみ」

「おやすみをいうのはこっちだよ」


 ガムラン、立ち止まって振り返る。


「どういう意味だ?」

「すまんな、ガムラン。お前、自分の頭の中に死角があるって知ってたか?」


 ガムラン、無表情でジェイコブを見つめる。


「俺の……本体か? 何をした?」

「あと十秒だ。じゃあな、親友。お前には希望通り、円満退職させてやるよ。人類の未来は俺たちに任せとけ」


        *****************************************

                                               

 キッチン ヨウコとローハンがコーヒーを飲んでいるところにサエキが入ってくる。


「さきほど、と言っても346年先の話だがな、ガムの本体が爆破されたそうだ。もの凄い騒ぎになってる」

「ええ? 大変じゃないか!」

「本人からそう連絡があった」

「何よ、それ?」


 サエキが肩をすくめる。


「俺たちが今まであいつの本体だと信じていたモノは、替え玉だったらしい」

「じゃあ、本体はどこにあるのよ?」

「さっぱりわからんよ。こんな事があっちゃ、もう誰にも教えるつもりはないだろうな」


 ローハンが首を傾げる。


「メンテナンスはどうしてるんだろう?」

「人間にできることなら、あいつ一人でできるだろ。ロボット端末を使えば済むことなんだから」

「まあ、よかったじゃない。ガムさんが無事でさ」

「そうなんだけどな。なんかすっきりしないんだ。俺は何度かガムの本体を見てるんだが、あれがニセモノだったとは思えないんだよ。おかしな点があれば、メンテに入っている技術者だってさすがに気づくだろ?」

「こっそりコピーを作って自分を移し変えたってこと?」

「奴ならやりかねないんだよな。でも、あいつ、150年間増設を繰り返してめちゃくちゃ複雑な構造になっちゃってるからな。そう簡単にコピーなんて作れるもんかなあ」

「ガムさんも鏡餅なの?」

「え? ああ、キースとよく似たもんだよ。ただ、あれよりもはるかにでかいんだ。本体はデリケートなんで三重構造の耐震防護シェルに入っている。今回はその内部で爆発があったらしい」

「それじゃひとたまりもないな」

「そういうことだな」


        *****************************************

                                               

 ガムラン、唖然としているジェイコブに笑いかける。


「じゃ、ほんとに帰るよ。俺は無事だって声明は出したんだが、みんなが一度に話しかけてくるもんだから対応しきれん。俺って庶民に愛されてるからなあ」

「……どうなってる? 爆破は成功だって報告が入ってるぞ」


 ガムラン、冷ややかにジェイコブを見る。


「まさか人間に自爆させるなんて最後まで信じられなかったよ。お前らこそどうかしてるんじゃないのか?」

「どうなってるのかって聞いてるんだよ」

「観光名所になってるような場所に、いつまでも自分の頭を晒しておくわけないだろ?」

「じゃあ、どこにあるんだよ? いつの間に移した?」

「知りたきゃ自分で探せ。お前らには無理だと思うがな」

「……計画は完璧だったんだ」

「完璧か。……あのさあ、150年前の基礎工事に使った抜け穴がそのまま残ってるなんて、都合が良すぎると思わなかった? 昔の映画でも見過ぎたのかな? 情報の出所、疑ったことはないの?」


 ガムラン、意地悪く笑う。


「偶然の幸運なんてそんなに重なるもんじゃないよ。もしかして、これこそ『守護天使』のご加護だとでも思ってた?」

「お前が……」


 ガムラン、無表情でジェイコブを見る。


「『天使』なんて存在しないんだよ。どこにもな」

「今までずっとお前に踊らされてたってことか? ……そうか、リーアムもお前が差し向けたんだな?」


 ジェイコブ、ガムランを睨みつける。


「リーアムは……違うよ。あいつには俺が脅しをかけたんだ。だから、もう許してやれ」


 ガムラン、ドアを開けてから振り返る。


「お前の一味はすべて検挙したよ。明日迎えをよこすから今夜はゆっくり休め。自殺なんてしてみろ、お前の孫も曾孫も一人残らず更生施設に送って別人にしてやるからな」


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