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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第三幕
123/256

処理班

 背後からマグパイが舞い降りてくると、サエキの肩にとまる。


「うわあ! キースか。びっくりするだろ」


 ヨウコが笑う。


「それ、かわいいよね」

「かわいいかなあ?」

「ひねた感じがキースによく似合ってるよ」


 マグパイ、ヨウコを見て肩をいからせる。


「『ひねてなんかないだろ』って言ってるぞ」

「自分じゃわかってないんだね。あれ、誰か来たよ」


 六人の男女が道沿いに歩いてくると、バスを取り囲む。


「この辺の人かな。あんなところでバスが事故を起こしてちゃびっくりするわよね。行って説明したほうがいいかな?」

「ああ、あれが処理班だよ」

「ええ? 農家の人じゃないの? SWATチームみたいな凄いのが来るのかと思ってた」

「肝心なのは目立たないことなんだよ。この辺りだったら農業従事者に化ければ怪しまれないだろ?」


 男の一人が丘を登ってくるとサエキに話しかける。


「フギンから詳細は聞いています」

「ああ、頼むな」


 男、頭を下げると仲間のところに戻る。


「サエキさんって誰に対しても偉そうよね」

「ええ? ああ、だって俺、偉いから」

「あの男たち、バスジャックしたんでしょ? 大事件じゃない。どうやって誤魔化すつもりなの?」

「乗客と運転手の記憶をいじってちょっとした事故があったように見せかけるんだ。この後、警察とバス会社に連絡すれば終わりだよ」

「なるほどね。手馴れたもんだね」

「24世紀絡みのトラブルは結構多いんだよ。キースの手際がいいから助ってるよ」


 ヨウコ、マグパイの顔を覗き込む。


「ふうん。あんたって本業も真面目にやってるのね」

「本業ねえ」


 処理班の女が近づいてくる。


「サエキさん、バスの乗客の処置が終わりました」

「もう終わったの? 早かったな」


 女、ヨウコを見る。


「この女性は? この時代の方ですよね。今回の件とは関係はないんですか?」

「ああ、彼女は俺の関係者だ。大丈夫だよ」


 女、ヨウコに向き直る。


「それは失礼いたしました」


 突然、マグパイがサエキの肩から飛び立ち、女の顔めがけて襲いかかる。ローハンが素早くヨウコを地面に押し倒し、上から覆いかぶさる。


「うわ! なんなの?」


 女、鳥を乱暴に払いのけると、隠し持っていた銃をヨウコに向けて撃つ。


「やめろ!」


 サエキが銃を握った女の腕をつかみ、後ろにねじりあげる。女、振りほどこうとするが、叫び声をあげて銃を落とす。


「リュウ、こいつを頼む」

「はい」


 リュウが走ってきて女を取り押さえる。ローハンがヨウコを助け起こす。


「ヨウコ、大丈夫?」

「今の何だったの?」

「この女、ヨウコを狙ってたんだ。キースが気づかなかったら危なかったよ」


 サエキがリュウに指示する。


「リュウ、処理班の残りのやつらも拘束してくれ。こいつ以外におかしい奴がいないか調べろ」

「了解しました」


 リュウ、急いで走っていく。サエキが落ちている銃を拾い上げる。


「ヨウコちゃん、大丈夫? あの女の腕を握りつぶしちゃったよ。嫌な感触だ」

「たまにはその左手も役に立つんだね。助かったよ。さっきの変な音は銃声? どこに当たったの?」


 ローハンが苦笑いする。


「そりゃやっぱり俺だろうなあ。背中にも穴が開いちゃったよ」

「え? 見せて」

「さっき前の穴を見たからもういいだろ?」

「わけのわかんないこと言わないでよ。見せなさいって」


 ヨウコ、ローハンの後ろに回りこむと、ずたずたになったシャツをめくりあげる。


「痛ててて……」

「……サエキさん、これ」

「うわ、こりゃひどいな。ヨウコちゃん、もう見ないほうがいいよ。夕飯が食えなくなるだろ」

「ええ? 俺、どうなっちゃってる?」

「見た目は恐ろしいことになってるけど、直すのは簡単だから心配するなよ」

「なんであんな小さな銃でこんな穴が開くのよ?」

「あれは24世紀の武器だからな。護身用でも出力を上げれば人間の半身ぐらい吹っ飛ばせるんだよ。ローハンだからこれで済んだようなもんだな」

「ほんとに直るのね?」

「補強しといてよかったな。前回と違って表面にしかダメージがないから、数時間あれば直せるよ。ローハン、ヨウコちゃんを中につれてけよ。後は俺たちでやるからさ」


 ローハンがヨウコの腕を引っ張る。


「わかった。ほら、行こう、ヨウコ」

「でも……」

「抱っこしてやろうか?」

「けが人はあんたでしょ? 自分で歩くわよ」


 首を傾げて二人を見送るマグパイに、サエキが話しかける。


「そうだな。今は遠慮してやれ。それから俺の頭からさっさと降りてくれないか?」


        *****************************************


 ヨウコとローハン、家に向かって歩いていく。


「つまり、あのバスの襲撃は、私達に処理班を呼ばせるために仕組まれたものだったのね。最初から成功するとは思ってなかったんだ」

「ヨウコって冷静なんだね」

「冷静じゃないよ。いろいろ考えてたほうが気が楽なのよ」

「ほんとだ、手が震えてる」

「だって怖かったんだもん」


 ローハン、ヨウコの肩を抱く。


「ヨウコが無事でよかったよ」

「ちっともよくないよ。ローハン、また撃たれちゃってさ。リュウだってウーフだって……」

「でも、こんなの簡単に直るだろ?」

「それでもやっぱり嫌なのよ。私のせいでみんなに穴があいちゃうなんて普通じゃないでしょ?」

「ヨウコを守らなきゃ、24世紀は存在しなくなっちゃうかもしれないんだ。気にするなよ」

「……そうか、私は重要人物なんだったね。忘れてたわ」

「やっぱり今の取り消す。キースもリュウもウーフも、たとえヨウコが未来にとって何の意味もない人間だと分かってても、さっきと同じ事してたと思うよ」

「私の気を軽くしようとしてるの、してないの、どっち?」

「どっちでもいいだろ?」

「うん。……そこ、消毒しなくていいのかな。痛くない?」

「俺は感覚なんて切っちゃえるんだよ。覚えてる? この件が片付いたら、ささっと行って直してもらってくるよ」

「ねえ、さっき何したの? あの人達、ローハンが頭に触ったら倒れちゃったでしょ?」

「見てたの? 隠れてろって言っただろ?」

「だって心配だったんだもん」

「脳に直接、衝撃波を送り込んだんだよ。あいつら、電子部品は入ってないし身体は強化されてるから、他に方法はなかったんだ」

「衝撃波? どうやって?」


 ローハン、腕を伸ばして手のひらを近くの庭岩に向ける。鈍い音がして岩のてっぺんが吹っ飛ぶ。


「は、はあ? いつからそんな事が出来るようになったのよ?」

「たいした破壊力はないんだけどね。銃を持ち歩くよりいいだろうって補強したときにつけてもらったんだ。護身用には十分だろ?」

「すごい。格闘ゲームの技みたい。ルークに見せたら喜ぶわよ」

「ヨウコが嫌がるかと思って黙ってたんだけどな」

「どうして? 私の夫は未来のロボットなんでしょ。いまさら何やったって驚かないわよ」

「これ、24世紀じゃ人間の警察官が標準で使ってる装備なんだけどね」

「寝ぼけて私を撃ったりしないでよ」

「今朝みたいな寝起きの顔されちゃ保証はできないな」


 ヨウコ、ローハンの腕に自分の腕を絡める。


「ローハンにお願いがあるんだ」

「なに?」

「家に入ったらコーヒー入れてね」

「なんだ、そんなこと?」

「その後、隣に座っててくれる?」

「うん」

「それとね、これから何が起こっても絶対に私のために死んだりしないって誓ってくれる?」

「それはできないな」

「ローハンが死んだら私も死ぬよ。それでも?」

「それでも。だって、俺が死んでもヨウコは死ねないだろ? ルークとアーヤを置いてくようなヨウコじゃないもんね」

「ローハンの馬鹿」


 ローハン、立ち止まってヨウコにキスする。


「もう泣くなよ。ブスを通り越してすごい顔になってるよ」


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