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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第三幕
117/256

翌日の朝

 翌朝 トニーの寝室 眠っているヨウコを、ローハンがそっと揺さぶる。


「ヨウコ、起きなよ」


 ヨウコ、目を開けて、ぼんやりとローハンを見上げる。


「あれ、ローハン? ……迎えに来てくれたの?」

「おはよう、ヨウコ。男の家で外泊なんてやってくれるなあ」

「男って言ってもトニーでしょ?」


 ローハン、笑顔でベッドに腰を下ろす。


「分かってるよ。顔色が悪いけど、飲みすぎちゃった?」

「頭が痛いや。たいして飲まなかったんだけど。久々だったからかな?」

「そんなことだろうだと思って、サエキさんから二日酔いの薬を貰ってきといたよ。ほら、水」


 ヨウコ、差し出された錠剤を受け取ると、口に入れる。


「ありがとう。トニーはどうしたの?」

「今日は朝からカフェに出なきゃならないんだって。俺に迎えに来いって連絡くれたんだ」

「今、何時?」

「もう九時だよ。ルークを学校に送ってきたところ」

「……ああ、キースを見送るつもりだったのに。悪いことしちゃった」

「テーブルの上にヨウコ宛のメモが残ってたよ。昨日一緒に出かけて楽しかったってさ」

「そうか。後で電話しとくよ」

「ヨウコ、夕飯の後、慌てて飛び出していっただろ? ボディガードもつけずに行くもんだから、リュウがすぐに追いかけたんだよ」

「……忘れてた。でも、リュウはここには来なかったわよ」

「ヨウコがこんな時間にトニーに会いに行くなんて、よほどの悩みがあるに決まってるからさ、邪魔にならないように車の中で待っててもらったんだ。さっきまで外で待機してたんだけど、俺と交代で家に帰したよ」


 ヨウコ、赤くなる。


「みんなに心配かけちゃったのね。ごめんなさい」

「周りが見えないぐらい悩んでたんだね。もう大丈夫なの?」

「うん。トニーに話したら気が楽になったみたい」

「最愛の夫には相談できなかったんだ。怪しいなあ」

「女友達じゃないと話しにくいことだったのよ」


 ローハン、笑う。


「帰りにどこかでコーヒー飲んでいこうよ。服を着るのを忘れないでね」


 下着姿の自分の身体を見下ろして、ヨウコが驚いた顔をする。


「うわ、トニーが脱がせたのね」


 ヨウコ、一瞬不思議そうな表情を浮かべる。


「ヨウコ、どうかしたの?」

「え? ああ、ただのデジャ・ヴ」


 ローハン、ヨウコの顔を見て微笑む。


「ねえ、何かいいことあったの?」

「どうして?」

「なんだかそういう気がしたんだ」

「そうなの? でも、凄くいい夢見てた気がするんだ」

「どんな夢?」

「全然思いだせないのよ。……思い出しちゃいけないの」

「いけない? どうして?」


 ヨウコ、首を傾げる。


「……わかんない。誰かにそういわれた気がしたんだ。……変だね」


 ローハン、ヨウコを怪訝な顔で見るが、すぐに笑顔に戻る。


「そんな下着、持ってたっけ?」

「日本の通販で買ったのよ。この間、実家から送ってもらったんだ。かわいいでしょ」

「俺がヨウコの服を脱がす時って、いつもパジャマなんだよな。たまにはブラをはずしてみたいもんだなあ」

「何よ、それ? それなら昼間誘えばいいじゃない?」

「だってヨウコ、最近は外出の時しかブラジャーしないんだもん。窮屈なのは嫌だって言って」

「そう言えばそうよね。それじゃさ、その日の朝に、今日はヤリますので、って一言、言っといてくれる? ブラ、つけとくからさ」

「ええ? それじゃ驚きも新鮮さもないじゃないか」

「細かいなあ。やっぱり夜寝るときでいいじゃない。その方が楽だし」

「楽ってどういう意味だよ? もしかして俺たち、倦怠期なの?」


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