翌日の朝
翌朝 トニーの寝室 眠っているヨウコを、ローハンがそっと揺さぶる。
「ヨウコ、起きなよ」
ヨウコ、目を開けて、ぼんやりとローハンを見上げる。
「あれ、ローハン? ……迎えに来てくれたの?」
「おはよう、ヨウコ。男の家で外泊なんてやってくれるなあ」
「男って言ってもトニーでしょ?」
ローハン、笑顔でベッドに腰を下ろす。
「分かってるよ。顔色が悪いけど、飲みすぎちゃった?」
「頭が痛いや。たいして飲まなかったんだけど。久々だったからかな?」
「そんなことだろうだと思って、サエキさんから二日酔いの薬を貰ってきといたよ。ほら、水」
ヨウコ、差し出された錠剤を受け取ると、口に入れる。
「ありがとう。トニーはどうしたの?」
「今日は朝からカフェに出なきゃならないんだって。俺に迎えに来いって連絡くれたんだ」
「今、何時?」
「もう九時だよ。ルークを学校に送ってきたところ」
「……ああ、キースを見送るつもりだったのに。悪いことしちゃった」
「テーブルの上にヨウコ宛のメモが残ってたよ。昨日一緒に出かけて楽しかったってさ」
「そうか。後で電話しとくよ」
「ヨウコ、夕飯の後、慌てて飛び出していっただろ? ボディガードもつけずに行くもんだから、リュウがすぐに追いかけたんだよ」
「……忘れてた。でも、リュウはここには来なかったわよ」
「ヨウコがこんな時間にトニーに会いに行くなんて、よほどの悩みがあるに決まってるからさ、邪魔にならないように車の中で待っててもらったんだ。さっきまで外で待機してたんだけど、俺と交代で家に帰したよ」
ヨウコ、赤くなる。
「みんなに心配かけちゃったのね。ごめんなさい」
「周りが見えないぐらい悩んでたんだね。もう大丈夫なの?」
「うん。トニーに話したら気が楽になったみたい」
「最愛の夫には相談できなかったんだ。怪しいなあ」
「女友達じゃないと話しにくいことだったのよ」
ローハン、笑う。
「帰りにどこかでコーヒー飲んでいこうよ。服を着るのを忘れないでね」
下着姿の自分の身体を見下ろして、ヨウコが驚いた顔をする。
「うわ、トニーが脱がせたのね」
ヨウコ、一瞬不思議そうな表情を浮かべる。
「ヨウコ、どうかしたの?」
「え? ああ、ただのデジャ・ヴ」
ローハン、ヨウコの顔を見て微笑む。
「ねえ、何かいいことあったの?」
「どうして?」
「なんだかそういう気がしたんだ」
「そうなの? でも、凄くいい夢見てた気がするんだ」
「どんな夢?」
「全然思いだせないのよ。……思い出しちゃいけないの」
「いけない? どうして?」
ヨウコ、首を傾げる。
「……わかんない。誰かにそういわれた気がしたんだ。……変だね」
ローハン、ヨウコを怪訝な顔で見るが、すぐに笑顔に戻る。
「そんな下着、持ってたっけ?」
「日本の通販で買ったのよ。この間、実家から送ってもらったんだ。かわいいでしょ」
「俺がヨウコの服を脱がす時って、いつもパジャマなんだよな。たまにはブラをはずしてみたいもんだなあ」
「何よ、それ? それなら昼間誘えばいいじゃない?」
「だってヨウコ、最近は外出の時しかブラジャーしないんだもん。窮屈なのは嫌だって言って」
「そう言えばそうよね。それじゃさ、その日の朝に、今日はヤリますので、って一言、言っといてくれる? ブラ、つけとくからさ」
「ええ? それじゃ驚きも新鮮さもないじゃないか」
「細かいなあ。やっぱり夜寝るときでいいじゃない。その方が楽だし」
「楽ってどういう意味だよ? もしかして俺たち、倦怠期なの?」




