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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第三幕
110/256

ローハンの三原則

 居間 ヨウコ、ソファにもたれて本を読んでいる。


「ヨウコ、何してるのさ」

「ああ、ローハン、そこのコーヒーとってよ」

「そのぐらい自分で取れよ。面倒くさがりなんだから」

「ロボットは人間の命令には服従しなきゃなんないのよ」

「なんだよ、それ?」

「『ロボット工学三原則』の第二条」

「何読んでるのかと思ったらアシモフか。400年前の古典文学のロボットと一緒にしてもらっちゃ困るけど?」

「アシモフ博士を馬鹿にするんじゃないわよ。ご主人様に絶対忠実なロボットなんて素敵じゃない。ちょっとは見習いなさいよね」

「そんなに古い本が好きならヨウコも日本の昔の小説読んでみろよ。貞淑な妻は夫に絶対服従なんだよ。ちょっとは参考にしてみたら?」

「やだもんね。ニュージーランドじゃ昔から女が強いって決まってるのよ」

「俺がいちいちヨウコの命令聞いてたら、ヨウコが困っちゃうだろ。『ローハン、やめて』って言っても、ほんとに俺がやめたら怒るくせに」

「何の話よ?」

「エッチしてる時の話」


 ヨウコ、赤くなる。


「あれは本気で言ってるの」

「嘘つき」

「嘘じゃないもん」

「嘘つきだよ」


 ローハン、ヨウコの手から本を取り上げると、ヨウコをソファに押し倒す。


「何すんのよ?」

「たまには気分を変えてここでしようよ」


 ローハン、ヨウコにのしかかるとキスする。ヨウコ、赤くなってローハンを押しのけようとする。


「ちょっと、ローハン」


 ローハン、構わずヨウコの胸ボタンをはずし始める。


「もう、ふざけるのやめなさいよ」


 ローハン、素早く立ち上がると、慇懃無礼に頭を下げる。


「かしこまりました。ご主人様」

「ええ?」

「お嬢様とお呼びするには、お年を召されていますので」

「うわ、むかつく」


 ローハン、笑う。


「ご主人様は忠実なロボットがお望みなのですよね?」

「……そうよ」

「それでは、なぜそのような『ちょっぴり残念だなあ』という顔をなさっているのですか?」

「してないわよ」

「やはりご主人様は嘘つきでございますねえ」


 ヨウコ、ローハンを睨む。


「頭に来た。もうあんたは私に触んないで。これは命令よ」

「ええ?」

「忠実なロボットは今夜からそこのソファで一人寂しく寝なさいね」


 ヨウコ、怒った顔で立ち上がる。


「ちょっと、ヨウコ、怒んないでよ。かわいい冗談だろ?」


 無視して部屋から出て行くヨウコを、ローハンが慌てて追いかける。通りがかったサエキがヨウコに話しかける。


「ヨウコちゃん、ずいぶん楽しそうだな」

「三原則も守れない欠陥ロボットをからかってるんだ」


 ローハン、ヨウコに追いついて顔を覗き込む。


「あれ? 怒ってるんじゃなかったの?」

「あのくらいで怒るわけないでしょ?」

「腹立つなあ」


 ローハン、ヨウコをいきなり捕まえて担ぎ上げる。


「ちょっと何すんのよ?」

「うるさい。ヨウコを貞淑な妻に改造してやる」

「やだってば。降ろしなさいよ。ロボットは人間に危害を加えちゃいけないのよ」

「ロボットごっこはもう終わりだよ」

「だってあんた、ロボットでしょ?」

「そうだったっけ? 記憶にないなあ」


 構わずヨウコを担いで行くローハンを見て、サエキが笑う。


「相変わらず仲がいいんだなあ。この機会にしっかり改造してやってよね。まあ、お前には無理だとは思うけどな」


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