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電気羊飼いと天使の卵  作者: モギイ
第三幕
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アリサとキース

 翌朝、居間 ウーフがアリサのひざの上に頭を乗せて尻尾を振っている。


「この犬、賢いんやなあ。私の言う事、全部わかってるんとちゃうの?」

「アリサは犬が好きだったわよね」

「うちがアパートやから飼われへんかったやろ。将来は犬の飼える所に住みたいわ」

「それじゃ、こっちに住んじゃえばいいのに」

「そうやな。考えてみるわ」

「うちには遠慮なんてせずにいつでも来てくれていいのよ。実家みたいなもんだと思ってくれたらいいから」

「でも、ヨウコ姉ちゃんにも生活があるやろ? 居心地がええから、ついつい長居してしまいそうやし」


 ローハンが笑う。


「人の出入りが多い家だから、気にしなくっていいよ。俺たち、賑やかなのが好きだからさ。来るなって言っても来る奴もいるしね」

「そんならまた来させてもらうわ。でも、今日はそろそろお暇せんとな。ホームステイ先には三時頃行くって伝えてあんねん」


 アリサが立ち上がると、ウーフが不満そうに唸る。


「また遊びに来るってば」


 ウーフ、アリサにすりよって尻尾を振る。アリサ、ウーフの頭をぽんぽんと叩く。


「はいはい、私もウーフ、好きやで。今度はお土産持ってきたるわな」


 ヨウコがローハンに声をかける。


「ローハン、アリサをホームステイ先まで送って行ってもらえる?」

「うん、じゃ、荷物を取りに行こう」


 キースが立ち上がる。


「僕が行くよ。今から街に出るつもりだったからさ」

「ええんか? キースに送ってもらえるなんて嬉しいわあ」

「ついでだから気にしないで。寄りたいところがあれば寄ってあげるけど」

「おおきにな」


 ウーフ、キースの前に立ちふさがると、キースに向かって吠える。


「うー、わん!」

「へえ、君も吠えるんだ。うまいじゃないか。俳優になれるよ。ほら、どいて」


 キース、恨めしそうなウーフを押しのけて前に出る。アリサが感心したようにウーフを見る。


「普段は吠えへんの? ウーフはかしこいなあ」


 ウーフ、アリサを見上げて尻尾をぶんぶんと振る。


「じゃ、車を出してくるから、玄関で待ってて」


 キースが部屋から出て行く。サエキが立ち上がるとキースの後を追って廊下に出る。


「おい、街に用事ってなんだ」


 キース、無表情で振り返る。


「郵便局に行くんです」

「本当に?」

「ヨウコさんのお母さんに直筆で絵葉書を出すって約束したんですよ」

「アリサちゃんってヨウコちゃんが美人で素直になった感じだよな」

「そうですか?」

「レスリーで懲りたんじゃなかったのか? お前にはヨウコちゃん以外の子は好きにはなれないよ」

「そんなんじゃありませんよ」

「悪いことは言わないからやめとけって」

「おかしな心配するんですね。いつもはヨウコさんから引き離そうとするくせに」

「アリサちゃんが傷つくことになったらかわいそうだろ?」

「だから、そういうんじゃありません。ご心配なく」


 サエキ、暗い表情で、出ていくキースを見送る。


「これ以上、ヨウコちゃんを刺激しないで欲しいんだよなあ」


        *****************************************

                                               

 一時間後 キースがキッチンに入ってくる。洗い物をしていたヨウコが顔を上げる。


「ありがとう。わざわざ送って貰っちゃってごめんね」

「ついでだって言っただろ? 明後日、また遊びに来るように言っといたけど、よかったかな? 僕が迎えに行ってくるからさ」

「そこまで気をつかわなくてもいいよ。遠慮しないように言っといたから、来たくなれば来るでしょ」

「でも、約束しちゃったからね」


 ヨウコ、不思議そうにキースの顔を見る。


「僕がどうかした?」

「ううん。コーヒー飲む?」

「うん。ありがとう」


 キース、椅子に座る。


「あの子、かわいいでしょ」

「ずいぶんと素直な子だね。従姉妹だっていうのにヨウコさんとは大違いだ。大学時代、ヨウコさんの実家に下宿してたんだよね?」

「私はニュージーランドに来ちゃったし、あの子も大学の寮に移ったから、一緒に暮らしたのは一年ちょっとだけどね。気が合ったから楽しかったな」


 ヨウコ、キースの前にコーヒーのマグを置く。


「ものすごくモテるのよ。一緒に出かけたら、あの子ばかり声をかけられちゃうんだよね。前の彼氏とは五年ぐらい付き合ってたんだけど、半年ほど前に別れちゃったの。結婚話が出た矢先だったから驚いたな」

「気分転換にこっちに来たのかな?」

「そうかしれないわね。本人は英語を覚えてキャリアアップしたいんだって言ってたけどさ。あの子にはいい男に出会ってもらいたいわ。キースなんてお似合いなんだけどな」

「……アリサちゃんなら付き合ってもいいよ」

「え?」


 キース、無表情でヨウコを見る。


「お似合いなんだろ?」


 ヨウコ、居心地悪そうにキースから目をそらす。


「冗談に決まってるでしょ。誰も好きになれない人に従姉妹を押し付けたりしないわよ」

「なんだ、本気かと思ったよ」


 ヨウコ、顔をあげるともう一度キースを見る。


「そうか。今日のキースは感じが違うと思ったら、表情豊かだったんだ。また無表情に逆戻りしちゃったわね」

「アリサちゃんの前じゃ、人間のフリしてなきゃまずいだろ? 身内の前ではリラックスしてるんだよ」

「キースの身内扱いしてもらって光栄だな」


 キース、コーヒーを飲み終えると立ち上がる。


「サエキさんに話があるんだ。また後でね。コーヒー、ありがとう」


 ヨウコ、部屋から出て行くキースを寂しそうに見つめる。   


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