サエキの計略
翌朝の土曜日、ヨウコが目覚めて隣にローハンがいなのに気づく、慌てて部屋から出るとキッチンでローハンが朝食を作っている。
「おはよう。勝手にいろいろ使ってるけどいいよね?」
ヨウコ、ほっとした顔でローハンに歩み寄る。
「よかったあ。ローハンに会ったのが夢だったらどうしようかと思ったわ」
「昨日も同じようなこと言ってたね。ヨウコ、あんまりよく眠れなかったみたいだけど」
「え、わかった?」
「ごめんね。今晩はソファで寝るよ」
「あのさ、すぐに慣れると思うから一緒に寝ようよ。あんた、馬鹿でかいからソファじゃ窮屈でしょ?」
「いいの?」
「ローハンはこれからずっと私といてくれるんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、今からはそのつもりで付き合おうよ」
「……ヨウコって俺のこと好きなんだね。あまりに態度が悪いから、どこまで本気なのか不安になってたよ」
「どうして余計な事いうのかな? 好きでもない男を家に連れ込むほど落ちぶれちゃいないわよ」
「やっぱり素直じゃないなあ」
ローハンがヨウコを抱きしめているところに、入ってきたルークが声をかける。
「ふうん。約束は守ってるんだね」
ヨウコ、慌ててローハンを突き飛ばす。
「うわ、いつからいたの?」
「今起きたところだよ。あれ、目玉焼きとサラダ? 今日はトーストだけじゃないんだ。珍しいなあ」
「どうしてみんな余計なことしか言わないの?」
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キッチンのテーブルでヨウコとローハンがコーヒーを飲んでいる。ルークは後ろのソファでテレビを見ている。
ローハンが顔を上げる。
「あれ、サエキさんが来たよ」
「どうしてわかるの?」
「外にカメラを取り付けておいたんだよ。入ってくるように伝えるね」
しばらくして、サエキがドアを開けて入ってくる。
「おじゃまします」
ルーク、鬱陶しそうにサエキを睨む。
「おかあさん、この人、誰?」
「ルーク、まずはこんにちは、でしょ」
「こんにちは」
「サエキさんっていうのよ。ローハンのお友達」
「なんだ」
ルーク、立ち上がって部屋を出て行く。
「すごい敵意を感じたぞ。俺、嫌われてる?」
「あの子、ローハンが気に入らないのよ。私を泣かすんじゃないかと疑ってるみたい。いつものパターンだからさ。そのうちに慣れるでしょ」
「そうはいかんだろ。信用できない男と同居だなんて、ルークだってかわいそうだ。俺が話してくる。ローハン、ついて来い」
サエキ、ローハンを連れて部屋から出ていく。
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ルークの部屋の前、サエキがドアをノックするとドアが開いてルークが顔を出す。部屋の棚にはロボットの人形がたくさん飾ってある。
「何の用?」
「ルークはロボットが好きなんだね」
「うん」
「それじゃあ、すごい秘密を教えてあげる。ここにいるローハンはね、君のおかあさんを守るために未来からやってきたスーパーロボットなんだ」
ルークとローハン、驚いた顔をする。
「何言ってるの? おじさん、頭、おかしいの?」
「ちょっとサエキさん。俺、ニンゲンだってば」
サエキ、にやりと笑う。
「おかあさんに似て口が悪いな。今、証拠を見せてあげるよ」
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ヨウコがキッチンでそわそわしていると、ルークが走って入ってくる。
「おかあさん、ローハンってスーパーロボットなんだね!」
「ええ!」
後から入ってきたサエキがルークに話しかける。
「これは俺たちとルークとの秘密だよ。分かってる?」
「うん、分かってる」
ヨウコ、訝し気にサエキの顔を見る。
「どうやってそんな事、信じさせたのよ? また頭の皮、切ったんじゃないでしょうね」
「まさか。プレステのゲームをクリアしてみせただけだよ」
「おかあさん、凄かったんだよ。画面も見ないのに一回もミスしないんだよ」
「そりゃすごいわ。あんた、器用なのね」
ローハン、赤くなる。
「褒められちゃった」
「ロボットはおかあさんがすごく好きなんだって。ずっとうちにいてもらってね」
ヨウコ、小声でローハンに話しかける。
「えらい気に入られようね。でもロボットなんて呼ばせておいていいの? あんなに嫌がってたのに」
「その言葉は聞くだけでも鳥肌が立つんだけどさ、仕方ないだろ?」
サエキが笑う。
「ルークに気に入ってもらえるんだったら、たいした事じゃないだろ。この時代じゃロボットっていうと格好いいんだよ。知らないのか?」
ヨウコ、ローハンの前に、コーヒーのカップを置く。
「ほら、コーヒー、温め直しておいたよ」
ルーク、驚いた顔をする。
「あれ、ロボットなのにコーヒー飲むんだね」
ヨウコ、笑う。
「スーパーロボットだからなんでもできちゃうよ」
「おかあさんもロボットが好きなの?」
「うん、スーパーロボットだから大好き」
ローハン、また赤くなる。




