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46. ケイトの追及

「さあマイラ、白状しなさい!あなたは何を隠しているの?」

「ええ!?何、どうしたの突然!?」


 今マイラは、自室のソファーでケイトに追い詰められている。最近は恋愛話もご無沙汰だったが、もしかしてその話を聞きたいのだろうかと訝った。


 だが、ケイトが聞きたかったのはそんな話ではなかった。


「この間の魔法、あれはやっぱりおかしいわ!あんな複雑で特殊な魔法、一年生が使えるわけがないもの!」


 ああ、あのミコルの別荘でのことかあ、と呑気に思い返していると、ケイトが物凄い形相でマイラの両肩をガッチリと掴んだ。


「ほら、もう逃げられないわよ!ミコルとこそこそ話してたのだってわかってたんだからね!もう私にも言っちゃいなさい!!」

「・・・あれ以降ずっとこんな調子なのよ。」


 ミコルがふう、とため息をつき、マイラの横で諦めたように笑った。


「ケイト、わかった、わかったから!きちんと話すから手を離してー!!」

「わかればいいのよわかれば!さあ話しなさいな!」


 ケイトは両手をマイラから離すと、今度はそれをギュッと胸の前で組んでマイラを見つめ始めた。もうこれは誤魔化せないなと理解し、マイラは言える範囲の事情を話し始めた。



「・・・というわけなの。クラス内で私のおかしな魔法を知られるわけにはいかないし、ケイトにも機会があれば説明するつもりではあったんだけど、なかなか話せなくてごめんね?」

「なるほど・・・。」


 ケイトは眉間に皺を寄せ、深く考え込んだ。


「じゃああの日私の家で見せてくれたのは、本物の水だったってこと?」

「うん。それっぽく見せる訓練を、兄と重ねてきたの。でも全ての魔法でそうできるとは限らないし、ミコルには例の事件の時にバレちゃったって経緯もあって、研究ついでに助けてもらってるんだ。」


 マイラの申し訳なさそうな口調に、ケイトはハッとして顔を上げた。


「ごめん!責めてるわけじゃないのよ!ただあの魔法にはさすがに驚かされたし、討伐隊に入るための最重要魔法だから、どうしてマイラがそれを使えるのかって不思議だったの。ウィルとスヴェンはあまり気にしてなかったみたいだけど、カイルは気付いてるかもね。」

「そっか。でも私から聞くことはできないしなあ。」


 ケイトはスッとソファーから立ち上がると、マイラの手を取りその場に立たせた。


「マイラ、あなたの本気の魔法が見たい!」

「え!?」

「お願い!!この家の中ならいいんでしょう?どうしても見たいの!!ね?ミコルだって本当はもっと本格的に調べたいんでしょう?」


 ミコルは笑いながらゆっくりと立ち上がると、ケイトの目を見て言った。


「当たり前じゃない。でもマイラが嫌なら無理強いはしたくないわ。」

「マイラ!!」


 ケイトの必死のお願いに心を動かされたマイラは、渋々そのお願いを了承した。大喜びで踊り始めたケイトを引っ張って、マイラがいつも練習をしている大きな部屋へと連れていく。


 そして、マイラは水を生み出し、それを自在に操って空中で氷に変え、さらにそれを本物の火で一気に蒸発させた。


 詠唱無しで次々に繰り出すとんでもない魔法の数々に、マイラの魔法を見慣れていたミコルでさえ言葉を失っていた。


「こんな感じかな。後は風もあるけど、それはここでは無理だから、ごめんね?」

「・・・」

「・・・」


 無言になってしまった二人の前で大きく両手を動かす。先に我に返ったのはケイトだった。


「マイラ、あなた、疲れてないの?」


 だが、その声からまだ何かに驚いているような印象を受ける。


「うん。あっ、そっか、疲れた様子を見せないといけないんだった!イリスに教えてもらってたのに忘れてた・・・」


 論点がずれているマイラに呆れながら、ミコルも口を開いた。


「今さらよ。それより確かにそうね。マイラからは魔力をほとんど感じられなかった。あれほど大きな魔法を使っているのに。これは私の永遠の研究テーマになりそうね。」

「ええー?私、死ぬまで研究されちゃうの!?」


 マイラがげっそりしてそう答えると、ケイトがマイラにゆっくりと近寄り、手を握りしめた。


「マイラの秘密、私も全力で守るわ。それと普通の魔法らしく見えるように私も手伝う。研究なんて難しいことは苦手だからミコルに任せるけど、見た目のチェックなら私ほどの適任はいないわ。どうかな?」


 ケイトの温かい気持ちに、マイラの胸が一気に熱くなった。


「うん。ありがとう。私、二人と友達になれて本当によかった!これからもよろしくね、二人とも!!」


 マイラが泣きそうな顔になっているのを見て、二人の可愛らしい少女達は顔を見合わせてふふっと笑い出す。


 そんな優しい時間の中で、マイラは休み明けの新しい生活への希望を見出し始めていた。



 その日の夜は、マイラの大きなベッドに三人で横になった。エレンが「お部屋を用意しますよ?」と何度も言ってくれたが、三人は大丈夫と言ってそれを断った。


 そして今、暗い部屋の中で三人はボソボソと就寝前のおしゃべりを楽しんでいた。


「そうなの!スヴェンてば私の夕食にまで口を出してきたのよ?あんなにお菓子を食べてまだ食べるんですかって!余計なお世話よね!」

「あはは!確かにあの日ケイトいっぱい食べてたよね!」

「スヴェンはケイトのことが好きなんじゃないかしら?」

「え」

「お」

「?」


 ミコルの口から『好き』なんて言葉が飛び出すとは思いもしなかったマイラとケイトは、驚き過ぎておしゃべりの内容も吹き飛んでしまった。


「な、なあに?私がこういう話をしない人だと思っていたの?」

「うん、まあ。」

「だって、ねえ?」

「もう、いいわよ!」


 すっかり拗ねてしまったミコルをマイラが慰め、改めてケイトに問いかけた。


「でも本当にミコルの言う通りかもよ?ケイトはどうなの?」


 するといつもはおしゃべりなケイトが、突然黙り込んでしまった。


「ケイト?」

「・・・あのね、実は、いるんだ、好きな人。」

「えええ!?そうなの?学校の人?」

「ううん。大先輩で、憧れの人。幼馴染でね、小さい頃からたくさん遊んでくれた素敵な人なの。その人の近くに行きたいから、討伐隊に入りたいと思ってるんだ。」

「へえ!そうだったんだ!」

「あら、ケイトも女の子らしいところがあったのね!」

「もう、ミコルまで揶揄わないでよ!!」


 暗闇の中でもわかるほどに照れてしまったケイトを二人でぐいぐい押しながら、その人の話を詳しく聞き出していく。


 そんな女子だけの楽しい時間はあっという間に過ぎていき、その日は明け方近くまでおしゃべりが続いていった。



 翌朝。


 エレンの呆れたような声で起きた時には、だいぶ日が高くなっていた。朝食は食べられなかったので、そのまま午前中は実技の練習をして昼食を一緒に食べよう!とみんなで決める。


 お腹はペコペコだったが、三人は実技試験の課題である『魔法火』『魔法水』『魔法植物』を発動する練習を繰り返し行っていった。


 ケイトはどれも問題なく発動し、ミコルは時間は少しかかっていたが美しい植物を大量に発動させていく。


 そしてマイラは、エリクスの色を意識しながら青い炎、水、そして植物を種から一気に発芽させて急成長させていく練習をしていった。


「植物の色は変えられないのね。だったらマイラは緑に色を統一してしまった方がいいんじゃないかしら?」


 ミコルの助言はもっともだった。マイラも悩んではいたが、不自然に見えることが一番心配だ。間をとって少し緑がかった青い色をイメージすることにする。


「いいわね!それならあまり違和感を感じないわ。どう、ケイト?」


 ケイトはエレンが準備してくれたタオルで汗を拭いてから頷いた。


「うん、よかったと思う!自然な色だったし、これなら周りに見られても問題ないんじゃないかな!」


 ケイトのお墨付きをもらえたマイラは嬉しそうに微笑んだ。そして三人はそのまましばらく練習を重ね、お昼直前までお互いの魔法を確認し合った。



 もう昼食にしようかとマイラが声をかけたその時、部屋のドアが開く音が聞こえ、マイラは振り向いた。


「お兄様?」

「マイラ、頑張っているね。二人もよく来たね。」


 ドアを開けて入ってきたのは、ニコニコと他所行きの笑顔を見せるエリクスだった。


(わあ、何だか久しぶりに会った気がする・・・どうしよう嬉しい!)


 感情が顔に出てしまっていたのか、二人から「本当にお兄様が好きなのねえ」と笑われてしまう。だがマイラは『好き』の意味が違う風に聞こえて、さらに顔を赤くした。


「もう昼食にするんだろう?今日はいい魚が入ったらしい。楽しみにしているといいよ。」


 そう言いながら部屋を出て行こうとするエリクスをマイラは焦って引き止める。


「お兄様!お兄様は、一緒に食べないんですか?」


 マイラの必死さが伝わったのか、少し驚いたような表情を見せてから彼はマイラの頭に手を載せて言った。


「すまない。昼食は外で約束があるので一緒には難しい。その代わり今夜実技の練習に付き合うよ。それで埋め合わせになるかな?」

「はい!」


 嬉しそうに返事をしたマイラに再び彼は優しい微笑みを見せると、奥の二人にも軽く会釈をして去っていった。


「マイラったら、そろそろ兄離れしないと駄目よ。そんなんじゃいつまで経っても男性とお付き合いできないじゃない!」

「あ、そういえばカイルがマイラのこと好きなんじゃない?あれはあからさまだったもんねえ。」


 二人が好き勝手言っているのは聞こえていたが、その言葉はほとんど頭に入ってはこなかった。マイラの頭の中はもう、今夜の兄との約束のことでいっぱいになっていた。


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