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25. 学園祭準備とそれぞれの過去①

 太陽の季節も後半にさしかかり、フェリシア魔法上級学校にも少し先に長期休みが迫っていた。


 暑さが厳しい季節ではあるが、ルーイ製の部屋を冷やす魔法道具が各教室に設置されているこの学校では、比較的快適に日々を過ごすことができている。


 そしてこの長期休みの直前に、この学校では毎年恒例の学園祭が開かれるのだという。


「マイラは学園祭って初めてかしら?」

「うん。前の学校には無かったから。」

「あ、私も無かった!ここの学園祭にも来たことはないのよねえ。ミコルはあるの?」


 マイラはその日、ケイトとミコルと共に食堂で昼食を食べながら、少し先に行われる学園祭について話し合っていた。


「私はここに入学すると決めた時に一度来たわ。この学校にすることは以前から決めてたんだけど、学園祭もとても素晴らしかったから実は楽しみにしていたのよ。」

「へえ!どんな感じなの?」


 ケイトが身を乗り出しながらミコルに尋ねる。


「あ!ケイト、気をつけて、袖がお皿に付いてしまうわよ?」

「ありがと!ねえ、それで?」


 それからミコルが珍しく楽しそうに話してくれたのは、学園祭の様々なお店のことだった。どこも魔法を惜しげもなく使用した催しやお店をやっていて、安全さえ確保できればその二日間生徒達は魔法を使い放題らしい。


「簡単な魔法道具を製作して販売している店もあったりしてとても面白かったのよ!マイラとケイトと一緒に色々見て回りたいわ!」

「聞いているだけでも楽しそうね!あ、でも二日目は兄と回ることになるかも。」


 二人が突然同時にマイラに目を向けた。


「え、何?二人ともどうしたの!?」


 オロオロするマイラに、ミコルが真面目な顔で問いかける。


「ねえマイラ、ずっと聞こうと思ってたのだけど、マイラはお兄様のこと大好きよね?」

「え!?あ、う、うん、そうだね!」

「そうよねえ。でも新入生歓迎パーティーの時も、それ以降も思ったのだけど、時々すごく面倒そうにしている気がするの。なぜかしら?」


 マイラはぎくっとして、思わずフォークを目の前の野菜に上から突き刺してしまった。


「確かにそうだよね。うちに迎えに来た時もちょっと困ってた感じがしたしなあ。ねえ、お兄さんと実は仲悪いの?」


 マイラは頭をブンブン振ってそれを慌てて否定した。


「そんなことないよ!そりゃあ兄妹だからたまには鬱陶しいなあって思うこともあるけど、基本的には大好きなお兄様だもの。でなかったら毎日一緒に登下校なんてしないでしょう?」


 二人は顔を見合わせて「まあそうかも」となんとなく納得してくれた様子だった。だがマイラはこのことをきっかけに、もう少し『お兄様大好き』な感じを演出する必要があるかもと考えるようになった。




 翌日の放課後、ちょうど前の日にミコル達と噂をしていた学園祭について、ユギから説明があった。


「一年生のみんなは初めてになるが、毎年恒例の学園祭が長期休み直前に行われることになっている。基本教師は関わらないが、注意事項だけ伝えておくぞ。」


 ユギがいつものように注意事項が書かれた紙を魔法で配布する。思ったほど項目は多くなく、かなり生徒の裁量に任せていることが窺えた。


「そこに書いてある通りだが、魔法の使用は許可されているとは言え、人を傷つけたり学校が壊れるような魔法は禁止されている。やり過ぎれば停学になる恐れもあるから、羽目を外しすぎないように!以上。」


 ユギは長々と話すタイプではないので、クラスのみんなもむしろその方が集中しやすいらしく、しっかり彼の話を聞いていた。その日もみんなで「はーい」と子どものようないい返事をすると、ユギは苦笑してからさっさと教室を出ていってしまった。



「一年生はクラス毎になら教室を使って店とか催し物をやっていいみたいだよ!」


 ホームルームが終わって騒がしくなった教室内で、マイラはミコル、ケイト、ジェンナ、そしてキャリーとメイという最近仲良くなったクラスメート達に囲まれて学園祭の話を始めていた。


「クラスをまとめる人を決めてなかったからどう動いたらいいのかわからないわよね。」

「それも生徒の判断に任せるって方針なんでしょ?ねえ、ミコルやってみたら?そういうの得意そう!」


 ジェンナがニコニコしながら提案する。他の面々も確かにそうかもと頷き始めると、ミコルは満更でもない様子だった。



 結局そこでジェンナが声をあげたことでミコルがクラスをまとめる役割を担うことになり、そのサポートにジェンナとウィルが名乗りを上げた。


 クラスはその三人に文句はなく、そのままプチホームルームが継続され、クラスの催し物は『魔法を使ったカフェ』にしようということが決まった。


「みんなであまり使っていない食器を持ち寄るのはどうかしら?」

「それいい!飾っておくだけでも素敵よね。」

「魔法で飾り付けしたりさ、あと飲み物とかを出す時にも何か演出に魔法使おうよ!」

「俺、植物魔法なら得意だから飾り付け担当したいです!」


 そうしてその話し合いでそれぞれが得意なことを活かして動くことが決まり、マイラはその様子を見ながら自分はどうしようかなあと考え始めていた。



 無事にその日の会議は終了し、帰り支度を終えて教室の外に出る。すると廊下で待ち構えていたミコルが、有無を言わさずマイラを廊下の隅まで引っ張っていった。


「ねえ、マイラは魔法を使うの不安なんじゃない?」

「ミコル、心配してくれたの?」

「当たり前よ!それで考えたんだけれど、マイラは裏方に入って洗い物とか片付けとかを担当するのはどうかしら?」


 マイラは一気に表情が明るくなり、元気に答えた。


「それいい!料理は苦手だけど片付けは任せて!掃除も途中でもするし、洗い物もなんなら水を出して」

「マイラ、それはまずいのでは?」

「あはは・・・だめか。」


 ミコルとはあの最初の実技演習の後にゆっくり話をして、実は普通の魔法が使えないこと、本物の火や水しか生み出せないことなどをすでに話してある。ミコルは驚きながらも感動し、ぜひ今後も観察、研究させてほしい、と強くお願いされてしまった。


 それ以来、彼女は兄に負けないほどマイラのことを気にかけ、手助けし、必要なものがあれば揃えようと奔走してくれるのだ。


 そんな話をしていると、生徒達が行き交う廊下が何やら騒がしくなってきた。


「あら?ルーイ先輩がいらしたんじゃない?」

「そうかも。じゃあ、また明日ね!」

「ええ。」


 ざわざわとしている方に顔を向けると、案の定そこにはエリクスの姿があった。彼の後ろには何人もの女子生徒が遠巻きに彼を見つめているのが見える。


「お兄様、帰りましょう。」


 ふと先ほどの話を思い出し、マイラはいつもよりも「兄が大好き」な感じを醸しだしながら笑顔で兄に近寄っていく。エリクスはいつもと少し違うそんなマイラの様子が嬉しかったのか、頬を僅かに赤らめ、マイラの頭の上に優しく手を載せた。


「ああ、帰ろうか。」


 そうして二人はいつも以上に強い兄妹愛を周りに見せつけながら、エリクスを慕う女子生徒達を寄せ付けないオーラを振りまいて学校を離れていった。




 翌日から、放課後はみんなで自主的に集まって学園祭準備を進めていった。他のクラスも騒がしくなっていたので、どうも彼らも準備を開始したらしい。


 今回カフェをやるのは一年生ではジェックスクラスだけのようで、他のクラスは魔法を使って作るお菓子や小物などの販売、芸術作品を集めて展示するクラスなどもあるらしい。


(さすが有名な私立の学校!・・・みんなお金持ちなのねえ)


 村で細々と暮らしていたマイラには考えられない世界だが、今は自分もそこに埋もれて生活しているんだなあ、と他人事のように考える。


「マイラ、食器は準備できそうかしら?私はうちから食器を飾るガラスケースを二つほど持ってこようと思っているの。マイラも何か持ってこられそうならそれも飾るわ。」


 ぼーっとしながら当日のチラシの準備をしていると、ノートとペンを持ったミコルが何やらマイラに話しかけてきた。


「え?ああ、食器かあ、うーん、ちょっと聞いてみる。返事は明日でもいい?」

「ええ。無くても構わないけれど、ルーイ家にならいくらでも使っていない食器が余っていそうよね。まあ聞いてみてね。」


 ミコルが楽しそうに自分の仕事に戻っていく様子を見送ると、マイラは再び自分の思考の中に閉じこもった。


(食器かあ、でもお兄様の家は自分の家では無いし、勝手に借りてもし割ったりでもしたら大変なことになっちゃう。そうだ、イリスに相談してみよう!)


 解決策を見出してほっとしたマイラは、今度こそチラシ作りの続きに没頭していった。


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