19. 実技演習は青空の下で①
楽しかった二日間のお休みが終わると、再び通常の学校生活が始まった。
登校時には相変わらず女の子達がエリクスを見てキャーキャー騒ぐ声を聞きながら校舎に入らなければならなかったが、今のところそれ以外に特に大きな問題もなく過ごせていることにマイラはほっとしていた。
そしてこの日は午前中から屋外にて初めての実技演習が行われることになっていた。
(どうしよう、一目でみんなとの魔法の違いを見抜かれたら、あっという間に学校生活が終わっちゃうかも・・・)
エリクスや、時々イリスとも練習した魔法はどうにか通常魔法に似せることができるようになったものの、それ以外の課題を出されたら今はまだ何もできない。ドキドキする胸を手で押さえながら教室に入ると、ミコルが笑顔で待ち構えていた。
「おはようマイラ!今日は実技演習の日ね!」
「・・・うん。ミコルはずいぶん楽しそうね。」
ミコルは手に持ったリボンで丁寧に自分の髪を結うと、気合いの入った表情でマイラに向き合った。
「私は討伐科に進む気は無いから実技はそこまで上手じゃなくてもいいんだけど、マイラの魔法はぜひ見させていただきたかったの。今日はとても楽しみにしていたのよ!」
キラキラと期待を込めた表情で見つめる彼女の勢いに圧倒されながら、マイラは「へえ、そうだったんだ」と微妙な笑顔で返事をしつつ、自分の準備を始めた。
今日の実技演習は、今自分の使える魔法をうまく使って森の中に仕掛けられた様々な課題をクリアしていく、というものだった。課題は一人三つずつあるらしく、一つをクリアすると次の課題の場所がわかり、次に進んでいくというものらしい。
「森を歩き回る一年生最初の定番授業らしいの。だから今日はこの演習だけ。お弁当、持ってきた?」
「うん。朝からイリスが張り切って作ってくれたよ。」
「ああ!あの人ね。優しそうないい人だったわね。」
「うん!」
二人は制服から動きやすい服装に着替えるため、女子更衣室へと荷物を持って歩き始めた。早めに来ていた二人が廊下に出ると、そこに同じクラスの男子達も登校してくるのが見えた。
「あ、マイラ、ミコル、おはよう!」
「カイル、おはよう!えっと、ウィルとスヴェンもおはよう!」
カイルの横で楽しそうに話をしていた二人は目を丸くした。
「おはよ!俺達の名前覚えてくれたんだ!一回話しただけだったよね?」
「そうだよねー。なんか嬉しいなあ。」
早口で頬にそばかすのあるウィルとのんびり話す眼鏡のスヴェンは、二人ともニコニコとマイラに話しかけてくれた。
「クラスメートだもん、覚えてるよ!じゃあ更衣室が混み合う前に着替えに行くからまた後でね。」
「マイラ、また後でな!」
カイルは嬉しそうにマイラに手を振ると、他の二人と一緒に教室に入っていった。
マイラ達が着替えを済ませて更衣室を出ると、入れ替わりにケイトがそこにやってきた。
「おはよう!マイラ、一昨日はありがとね!今日は私がしっかりサポートするから安心して!」
「ありがとう。ケイトは討伐科目指してるんだっけ?」
持っていた着替えの入ったバッグを固く握りしめながら、ケイトはにっこりと笑って宣言する。
「もちろん!夢があるからね。私は絶対にこの国の討伐隊に入るって決めてるんだ!」
いい笑顔のケイトを見ながらマイラとミコルもつられて笑顔になっていく。
「そっか。私達も頑張らないとね。じゃあ、先に教室に戻ってるね。」
「うん、後で一緒に行こう!」
そうして三人は準備を終え、教室でわいわいと話し始めた。しばらくしてからジェックスクラスの全員が教室に揃うと、ユギの案内で学校の裏手に広がる森の中へと移動していくことになった。
「さて、全員揃ったな。今日は実技演習の初日、一年生恒例の長時間演習を行う。と言ってもこれは成績に直結するようなものじゃなく、クラスの結束を固めたたりお互いの力を確認し合ってより切磋琢磨して頑張ってほしいという私達教師からの応援企画だと思って欲しい。」
クラス全員が静かにユギの話を聞いている。マイラは話を聞きながらも、森の中の動物達の鳴き声やガサガサ、と何かが動き回っている気配を感じていた。
(野生動物も多そうね。ちょっと気をつけておいた方がいいかも)
「で、ここからルール説明だ。まず、制限時間は午後三時まで。途中好きな時に昼食をとって構わない。今から一人ずつ配布する紙に書いてあるヒントを元に一つ目のポイントを探す。そこには課題と二つ目に繋がるヒントが書かれている。そして二つ目にもまた課題と三つ目のポイントのヒントが書かれている。三つ目までの課題が終わったら、この赤いリボンが結んである木の所で待機。あまりにも早く終わったら昼寝しててもいいぞ。」
生徒達から笑い声があがる。そしてユギからいつものように魔法で一人一人に紙が配られた。マイラの手にも、広げるとノートほどの大きさになる紙が飛んでくる。
(第一ポイントのヒント・・・数字と、これは木の絵かな?この光景に合う場所を探してみるか!)
「よし。じゃあ今からスタートだ。協力し合うのは構わないが、課題には自分以外の人が挑戦しても次の課題には進めないようになっているからな。それから怪我をしたり何か動物に襲われたりしたらすぐに救援を呼ぶように。呼び方はその紙に書いてあるからしっかり確認しておけよ。以上、出発!」
そうしてジェックスクラスの面々は、元気よくそれぞれの第一ポイントに向けその場を出発していった。
「マイラはどの辺り?」
一緒に歩き始めたケイトが、心配そうにマイラに話しかけてくる。
「まだわからないけど、少し奥の方かな。ケイトは?」
「私はこの森に入ってすぐのところっぽいんだよね。ちょっと離れちゃうけど、もし困ったことがあったらいつでも呼んで!」
「うん、ありがとう!」
ケイトとは違う場所を探さなければならないようだったが、あまり自分の魔法を見られたくないマイラにとってはむしろ好都合だった。
ミコルは割と近くに課題ポイントがあったようで、早速見つけて喜んでいる姿が見えた。
(よし、私も頑張ろう!)
二人の頑張る姿を見て元気をもらうと、マイラは自慢の足を活かして、森の奥の方へと一気に走っていった。
第一ポイントは予想通り、特徴的な並び方をしている木の中にあった。絵の中の目印が付いているところにいくつか数字が書かれた小さな光る石が置いてあり、それを紙に書かれた数字通りに辿っていくと、無事にそのポイントを発見することができた。
「あった!」
土の中に埋まるようにして置かれていた缶の蓋を開けると、中にはまた折り畳まれた紙が入っていた。
「あ!ユギ先生の字だ!・・・そっか、私の魔法はちょっと違うって先生は知ってるんだもんね。ええと課題は、この紙を普通の火で炙る・・・」
弱めの火を手から生み出してその紙を炙ってみると、紙が一瞬で形を変え、宙に舞い上がった後、マイラの頭の上の方で何かの地図を描き出した。
「森の地図だ・・・もう少し奥の方だね。あの赤く光っているポイントに行けばいいのかな?」
すると空中に浮かんでいたその地図が縮小していき、小さなボール状になって手の中に落ちてきた。試しに再び炙ってみると同じように空中に地図が現れたので、マイラはほっとしてそれをポケットの中に入れ、また歩き始めた。
二つ目のポイントはそこから少し距離はあったが、地図のおかげでだいぶスムーズに発見することができた。だがそのポイントは洞窟内だったため、ガタガタの地面が続く場所を歩かなければならず、洞窟を出る頃には足の筋肉がピクピクするほど疲れ切っていた。
途中、どう足掻いても自分の足だけでは移動できない場所では、土魔法を使って地面を歩きやすい形にしてから移動した。どうやらこれが課題の一つだったようだ。
思っていたより起伏のある洞窟内を歩かされ、体力に自信のあったマイラでさえもだいぶクタクタになって外に出ると、そこでミコルと鉢合わせた。
「マイラ?どう、順調?」
「ミコル!うん。今二つ目が終わったところ。でも足元が悪い洞窟の中を歩いたから疲れた!それにお腹すいちゃって。」
「まあ!じゃあそろそろ一緒にお昼にしましょう。」
そうしてマイラは気持ちの良い森の中でミコルと束の間の休息をとり、午後からの三つ目の課題に向けて、イリスの美味しいお弁当で気力と体力を回復していった。