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104. 仲間達に及ぶ危険

 魔法陣の事件は瞬く間に校内で大きな話題となり、目立たないようにしようと思っていたマイラはガックリと肩を落とした。


 だがそんな些細なことはどうでもよくなるほど、大変なことが後日発覚した。それは、マイラが粉々にしたあの魔法陣がこの学校の教師が仕込んだものだったという恐ろしい事実だった。


 ユギから聞いた話によると、犯人は研究科担当で魔法陣を特に推奨する若い男性教師だったらしい。マイラは一度も話したことはなかったが何となく顔は知っていた。


 そしてもう一つ聞いて驚いたことは、本来であればあの魔法陣は発動後自動的にその痕跡を決してしまう恐れもあったということだ。魔法陣に詳しくないマイラでさえ、相当高度で複雑な術だったのだろうと推測できる。


(もし発動して痕跡まで消されていたら犯人はわからないままだった。あの時の判断は間違ってなかったんだ!)


 一応表向きはユギからは厳重注意を受けたことになっているが、実際には彼にとても感謝されてしまった。


「ルーイ君、今回は本当に助かった。君でなければ被害も甚大になっていただろうし、犯人もわからなかっただろう。ありがとう。」

「いえ!でも、そんな恐ろしい魔法陣だったんですね。」

「ああ。発動していればあの一帯をほぼ吹き飛ばしていただろうな。だがあの新米教師にあんな高度な魔法陣は作れないはずだが・・・」


 マイラはそれよりも一つ気になることがあった。


「ユギ先生、一つお聞きしたいのですが。」

「ん?なんだ?」


 ユギは険しい顔のままマイラの方を見た。


「どうしてその先生は、あそこにあんな恐ろしい魔法陣を仕込んだんでしょうか?」

「・・・わからない。」

「え?」


 マイラが聞き返すとユギは手を組んで下を向き、低い声で言った。


「だがあれは、あの魔法陣を発動させるための魔力を送り込んだ人物に最も大きな被害がいく設計だった。つまり、ケリー君が狙われた可能性が高い。」

「ミコルが!?」


 その考察にショックを受けたマイラは、あの日メリーアンから言われた言葉を思い出していた。


『・・・これ以上彼の気持ちを求めるようなら、あなたの大切な人も大切なものもみーんな壊してあげる。』


(もしかしてミコルを襲わせたのは、彼女!?)


 だがマイラはあれからむしろエリクスとは距離を置いている。それなのになぜミコルが狙われたのだろうか?


「とにかく、まずは自分の身を守ることを優先してくれ。それと俺は今回の事件の調査でしばらく忙しくなりそうだ。悪いが当分の間例の講義はできない。十分用心して過ごしてくれ。」

「はい、わかりました。」


 マイラはユギの部屋を出ると、急いでミコルの元へ向かった。



 研究科の教室でカイルとケイトと共に座っていたミコルは、マイラが教室に入ってくるなり素早く立ち上がり、勢いよく抱きついた。


「えっ!?ミコル?どうしたの?」

「マイラ、ありがとう!!あなたは命の恩人よ!!」


 ミコルはそう叫びながらマイラをぎゅうっと抱きしめる。マイラは彼女の背中をポンポンと軽く叩くと、彼女と真っ直ぐに向き合って言った。


「そんなことない。むしろ今回の件は私のせいで起きたことかもしれないし・・・」

「まあ!どういうこと?」


 ケイト達もその内容が気になったのか、近寄ってきて話に加わった。


「この間はちょっと言いにくくて言えなかったんだけど、実はメリーアン・バルタークに言われていたの。これ以上お兄様との仲を進展させるなら私の大切にしている人を傷つける、みたいなことを。」

「まあ!何それ!?」

「酷い・・・」


 二人の青ざめた顔、そしてその後ろで黙って話を聞いていたカイルの苦々しい顔が見えてマイラは俯いた。


「もちろんそれ以降お兄様とは距離を置いているし、何もないの。でも、もしかしたら牽制の意味も込めて今回のことを仕込んだのかもしれない。」


 ミコルが一歩前に出る。


「それもあるかもしれないけれど、もしかしたら私がペンダントのことを調べていたから警告のためにしたのかもしれないわよ?」

「それはあり得るな。」

「でしょう?」


 カイルとミコルが納得し合っている。マイラは二人の優しさに触れ思わず微笑んだ。


「二人ともありがとう。うん、そうかもしれない。でもとにかく、これ以上みんなを恐ろしいことに巻き込みたくない。」


 するとケイトがマイラの肩をがっしりと掴み、怒った表情で言い切った。


「バカ言わないで!マイラは私達が危険だった時何をしてくれた?これからだってきっとあなたは私達を守ろうとするでしょ?私達だって同じ!マイラが困ってたら助けたいし、守りたいの!」


 ミコルがマイラの手を握る。


「そうよケイトの言う通りよ。私はケリー商会の跡取りなの。こんなことくらいで負けはしないわ。」

「二人とも・・・うん!」


 マイラは大親友の二人が近くにいてくれることをこれほど心強く思ったことはなかった。


(ペンダントのこと、恐ろしい事件のこと、わからないことばかりだけど、みんながいるなら頑張れる気がする!)


 明るく笑い合う三人の女子達を、カイルが少し居心地悪そうに見守っていた。




 それからしばらくの間六人は、ひたすらそれぞれにできることを考え、身を守る対策を練っていく日々が続いた。


 ケイトとカイルは他の三人とできるだけ行動を共にするように心がけ、スヴェンとウィルは調査科で学んだ知識を活かそうと、わかる範囲でペンダントや魔法陣のことを調べてくれた。そしてマイラもまた、一日も早く『消滅の光』をマスターしようと奮闘していた。



 イリスも当然その魔法は使えるので度々見せてもらってはいたが、エリクスほどに魔力が無い彼は、一日に三回見せてくれるだけでもかなりの疲れを感じるらしかった。


「イリス、ごめんね。あまり無理はしないで。今日はもう十分見せてもらったから、あとは自分で頑張ってみる。」

「・・・申し訳ありません、マイラ様。その代わりと言ってはなんですが、練習後にすぐ食べられそうな軽いお菓子を用意しておきます。」

「本当?嬉しい!」


 イリスはマイラが無邪気に喜ぶ姿を見てふわっと微笑むと、マイラの部屋から出ていった。



 ところが彼は数分もしないうちに部屋に戻ってきたかと思うと、血相を変えてマイラにあることを告げた。


「マイラ様、大変です!今こちらに、スヴェン・ヤード様が怪我をされたとの連絡が」

「えっ!?スヴェンが!?」


 マイラは前に突き出していた手を下ろすと、慌てて上着を羽織った。


「スヴェンは病院?すぐに行かなきゃ!」

「そのようです。ご一緒します。」

「うん。ありがとう、イリス!」


 イリスが用意した馬車に乗り込み、マイラ達は全速力で病院へと向かう。


 そして彼のいる病室へと入った途端、マイラはその様子に息を呑んだ。


「何てこと・・・スヴェン・・・」


 彼は頭に包帯を巻き、真っ白い顔でベッドに横になっていた。薬品の匂いがマイラの思考を奪う。だが必死で意識を今に向け、一歩彼に近付いた。


「どうして、いったい何が?」


 その問いに答えたのは、予想外の人物だった。


「彼は襲われたのよ。」

「・・・ヨセフィーナ様!?」


 そこには前と変わらぬ美しい笑顔のヨセフィーナが立っていた。


「お久しぶりですね、マイラさん。イリスさんも。」

「ご無沙汰しております。」


 マイラは緊張しながらヨセフィーナに尋ねる。


「スヴェンは誰に襲われたんでしょうか?それにどうして!?」


 白く細い手がマイラの肩に伸びる。ヨセフィーナはそっと後ろから肩を押すと、そのまま病室を出てマイラを小さな待合室のような場所へと連れていった。イリスも後ろからついていく。


「ここなら安心ね。さあ色々とお話ししましょうか?」


 そう言ってヨセフィーナは二人に一つずつ説明を始めた。


「まず最初に言っておきたいことはね、あなたに全てを話すことはまだできないということよ。」


 マイラは瞬きをしてから小さく頷く。


「でもここまで巻き込まれてしまったからには知りたいこともあるでしょう?だから質問してちょうだい。答えられることだけ答えるわ。」


 イリスがマイラの後ろに立ち、そっと両肩に手を置いた。


「ヨセフィーナ様、私が聞きたいことは三つだけです。スヴェンを襲ったのはメリーアン様ですか?私の周りの起きている恐ろしい事件はもしかしてみんな彼女が関わっているんですか?もしかして彼女は何か目的があってお兄様に近付いたんですか?」


 マイラが一息にそう尋ねると、ヨセフィーナは大人っぽく微笑んで言った。


「素晴らしいわ。そうね、まず一つ目についてはまだ調査中よ。ただ目撃者によると、道を歩いていたあなたのお友達に突然二人の男が近付いてきて、音もなく襲ったらしいの。」

「二人の男・・・」


 マイラはそう呟いて眉を顰めた。


「それと二つ目についてはおそらくほとんどがメリーアンの指示によるものだと思うわ。あなたの学校で起きているような事件が、実は他の学校や商会でも引き起こされているの。若い人達、そしてあなたもよく知るあのペンダントの持ち主達によってね。」

「やっぱり・・・」


 青ざめていくマイラをイリスが心配そうに見つめている。


「そして三つ目については答えられないわ。ただ彼女の目的はルーイ家に関連した何か、ではあるわね。」

「そうなんですね。・・・わかりました。」


 俯いたマイラにヨセフィーナは静かに語りかける。


「この件にあなたは本来関わりのない人間だった。でも今あなたはメリーアンに『彼女の目的を阻む大きな障害』だと思われているはず。もし逃げたいなら逃してあげるし、お友達も皆こちらで保護するわ。でももう一つ道がある。それは、あなたも彼女と戦う道よ。」


 それは低く小さな声だったが、その裏に潜む彼女の凄みのようなものがマイラに伝わり、パッと顔を上げた。


「あら、いい目をしているわね。さあ、どうする?」

「待ってください!そんなことをまだ若いマイラに選ばせるなんて」

「戦います。」

「マイラ!?」

「イリス、私もう守られているだけの人生も、ただ死を待って諦めるような人生も送りたくないの。イリスとの未来を選んだことを覆したりはしない。でももう後悔したくないから、私に最後までお兄様を守らせて欲しい。」


 そう言って振り返ったマイラの顔を、イリスは無言で見つめ続けた。マイラはさらに続ける。


「ジェイクに救われた命だから、この命を、今の人生を全うしたいの!これが全部終わったらイリスと一生一緒にいる。だからお願い、私に無茶をさせて!友達を、大切な人を・・・守らせて!!」

「・・・わかった。」


 イリスの苦しげな表情がさらに暗いものに変わっていく。絞り出すような低い声が頭上から降り注ぎ、マイラは必ずこの約束を守り、イリスに笑顔を取り戻そうと心に誓った。


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