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二人の占い師

作者: 灯宮義流

 繁華街にある潰れた居酒屋の前で、二人の占い師が路上で店を出していた。

 一人は、ステレオタイプな易者の格好をしたガリガリの老人、そしてもう一人は、語尾に「アル」とでもつけそうな小太りのチョロヒゲ中年男だ。

 以前から二人は仲が悪かった。二人の出店先は悉くかち合い、どちらが先に目をつけたかだの、インチキだのいつも言い争っていた。

「てめぇ、何が手相だよ。手の線を見て誰でも未来がわかるんなら、みんな家庭で占いやってらぁ!」

「何を抜かす、頭のてっぺんからつま先まで胡散臭い格好しおってからに。貴様の水晶玉占いのほうがよっぽど嘘くさいわ!」

「フン、だからお前は偽者だって言ってるんだよ、このポテトジジィめ」

「なんだと? この豚クソ中華まん野郎めがっ。豚の餌にでもなってこい」

 そんな言い争いを今日も続ける二人は、通行人の冷たい視線にすら気付かない。

 だが、こんな男達にも救いを求める青年がいた。

 いかにも幸運とは程遠そうなどころか、世の不幸の元凶は私ですと言わんばかりの顔をしている。

「あのぉ、すいません」

「いらっしゃいませ……」

「よく来られましたな、迷える子羊よ」

 喧嘩を即中断し、営業フェイスになったこの二人の変わり身の速さは、少なくとも達人級であるといえよう。

「えっと……とりあえず手相を見てもらおうかな」

「よっしっ!」

「ちっ」

 青年が、老人の元へ向かい、早速手を見てもらう。

 すると老人はしばらく「むーん」とか「むむむ」とか「ちょやー!」などと唸った後、笑顔でこう告げた。

「ご安心なさい。あなたの人生にはこれより幸福が訪れますよ。そのうち、きっと仕事で大成功するでしょうな。ホッホッホッ」

「ほ、本当ですか?」

 喜ぶ青年。

 だが、それに水を差したのは、中年男だった。

「いいえ、その老人は嘘をついています」

「何だとぉ?」

「私の水晶には見えるんです。そう、あなたはとてつもない大金を拾う。働かなくても大金持ち、いやぁ羨ましい!」

「え? そ、そんな美味しいことが……」

 水晶占いの結果を信じる青年。まけじと老人は虫眼鏡で彼の手を見た。

「ぬおぉぉぉぉぉぉ! アンタこりゃすごいぞ! 近いうち資産家の老婆を助けてその資産を受け継ぐことになるぞ、たまげたわい!」

「え? え?」

 混乱する青年に対し、中年も負けてはいない。

「こ、これはぁぁぁぁぁ! あなたが今後世界を救う大発明をします! 世界の人々は、あなたによって救われるのです!」

 老人も、ここでは怯まない。

「すごい、アンタはもうすぐ宇宙旅行にいけるぞ! しかもタダなんて、アンタツキまくってますなぁ!」

「旅行なんぞ小さい小さい。彼はいずれとある国の主に君臨しますよ! それはもう大きな国です!」

「何をこのぉ! こっちにはな、世界を救うヒーローになると出ているぞ! もう筋肉もムッキムキ!」

「へっ! どこまでも浅いなインチキジジィ! 俺の水晶にはハッキリと見えてますよ、あなたが突然変異でシュワちゃんみたいな顔になる!」

「嘘くさい話も大概にせい! 彼は、いずれ超拳法・皆殺神拳みなごろしんけんの使い手となり、悪党どもをやっつけるわ!」

「はははははは! 違うな、このお方は、腰にレーザー砲、肩にバルカン砲、そして頭には熱線が装備した、無敵のサイボーグ超人となるのだ!」

「いやいや! 彼は超能力で空を飛ぶようになるぞ!」

「違う、この人は将来ジェット機と合体してスーパーマシンになるんだ!」

「実は、秘めた力として一〇メートルまで身長を変えられる!」

「腹にレールガンを内蔵!」

「核兵器にも耐えられる頑丈な身体!」

「マグマの中でも溶けない超耐熱な進化をした身体!」

「超念力で、貴様の頭なんてパーンだ!」

「クラスターボムを装備したこの方によって、お前は店ごと粉々になる!」

「呪術により、貴様のは一族ごと抹消される!」

「この人の体内にある細菌ウイルスを送れば、お前等は一家病死だ!」

「ぐぬぬ……!」

「にゃろぉ……! この人はなぁ!」

 と中年が指差したその時、占い師の二人は止まった。

 そこには身の丈三メートルはあるかという、筋骨隆々でところどころサイボーグ化し、シュワちゃんみたいな顔をした超人がいた。

 腰にはレーザー砲、両肩には八〇ミリバルカン砲、額に熱線発射口、そして腹からはレールカノンが飛び出ている。

 超能力で空を飛んだ彼は、ジェット機と合体してスーパーマシンとなり、二人を見下ろすように浮遊した。

「ひぃぃぃぃぃ!」

「わぁぁぁぁぁ!」

 青年は、皆殺神拳で二人をボコボコにし、超能力で中年の男の頭を吹き飛ばした後、クラスターボムを撃ち込んで店ごと占い師達を消滅させた。

 そして老人の一家はその後ウイルスで死に、中年の家族は原因不明の心臓爆発により、みんな死んだ。


 やがて、その力を恐れた北の国が核兵器で彼を破壊しようとしたが、通じず逆に滅ぼされた。

 さらに帰還後、富士山が爆発し、東京が壊滅になりそうになった。

 しかし、彼の溶岩をものともしない体を利用し、巨大化してそれを出来るだけ押し戻してみせた。結果被害は最小限に留まったのである。

 彼の活躍はこれだけに留まらず、彼が思いつきで作った薬が癌の特効薬であることが判明。世界中の癌患者が命を救われた。


 その功績が讃えられ、彼は宇宙旅行をプレゼントされ、存分に地球を外から眺め楽しんだ。

 さらに、自分の国を持つことを許され、かつて北の国があった場所には彼の国が作られ、多くの民がそこへ向かった。

 そんな中、自分の家の帰り道、路上で苦しんでいた老婆を救った彼は、その資産の権利を譲渡された。

 それだけでも運がよいのに、家に帰ろうとした彼の足元に、二〇億円入った鞄が落ちていた。彼はそれを拾ってネコババした。


 様々な幸運が訪れていたある日、青年は勤めていた会社で物凄い実績をあげた。

 彼は平社員から係長へ昇進した。


この間、帰りに二人の占い師が並んで店出してるのを見たんですよ。

正直こんなところに二人で店出して客の取り合いになるんじゃないかなぁと思って、それで思いついたのがこの作品。

占いってどうせみんな違うんだし、信じられねぇよとか思ってるけど、なんだかんだで信じてしまいますよね。

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