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[台本]あの頃に聞いた恋の歌は、(仮題)  作者: みっきー・こえパラ
3/3

コンサート 1曲目から2曲目まで

イントロ(イントロダクション 導入部 序奏)

音楽の始まりの旋律を刻むドラムのビート。

そこにハミングが重なる。

ギターが弾かれる。

ベースが唸る。

キーボードが奏でる。

様々な音がひとつとなり、会場を包む。

そこに、彼女が現れる。

ステージ奥から彼女が客席に向かって歩いてくる。

私をはじめ、会場中が静かな熱気を帯びる。

スポットライトの当たる場所に彼女が立つ。

それを合図に、会場が光にあふれ、そして、

歌が発せられた。そして、私たち全員の耳に到達した。

チカ「♪生まれる気持ち

    育む思い

    夢が夢が正しい道へと 険しい道へと

    私を導いていくよ

   」


3枚目のシングルの歌、「夢しるし」。

夢へと向かうはずなのに、どんどん苦しくなっていく、険しくなっていくという歌い出し。

この歌も、その当時すごく共感できた。

歌を聞くだけで、その時の想いも浮かび上がってくる。夢、夢・・・そんな言葉を追いかけては、

「♪夢を追いかけ 夢に惑わされて

 さらなる迷い道 先は見えない 信じられない

そんな道を でも進むしかないの 自問自答

・・・」

どこまでも夢に向かっていくうちに、先の見えない状況に、進む道が正しいのかどうか、迷い続ける。部屋のアンプから流れる歌を聞いても、すごく心が苦しくなるのに、それが、コンサートで目の前で、生で、ライブで聞くと・・・

ひさと「心が、軽くなる。」

あれだけ、苦しい、険しいということを、歌にしてくれて、こうして聞くだけで、その時の想いは浮かぶが、それ以上に、心のモヤモヤが晴れていくように感じてしまう。

コンサートのオープニング曲が、こんな歌からと少し思っていたが、周りの状況を見てみると、私と同様に、顔が軽やかになっていた。

ひさと「これが、コンサートか。」

と一曲目ですでに感傷に浸っていた。

感傷・・・感動・・・どちらだろう?

いや、言葉にするのはよそう。


「♪

  心のままに 思い浮かぶ その夢がしるしとなって

  心のままに ただただ感じていきたい 自分の答えを

♪」


この歌のとおり。


“心のままに”


さあて、一曲目からこんな感じだと・・・。


ひさと「俺、どうなっていくんだろう。」









次の歌。

2枚目のアルバム「つぎのうた」に収録されている歌で、タイトルは、

「つぎのうた」。

だから、歌紹介もこうなる。


ちか「次の歌は・・・次の歌は・・・・・・・・・・・


『つぎのうたーーーーー!!!』

です!!」

実際のアルバム収録されている歌の出だしも、この歌紹介から始まる。


ちか

「♪

  メロディが浮かばない 歌詞が浮かばない 何も浮かばない

  どこかに落ちているかもしれない メロディと言葉を見つけるため

  私は部屋から飛び出した

 よくメロディを集めたいつもの並木道は 人と時がゆっくり歩いている

 踏み出す一歩が一音 鳥のさえずりが一音 笑い声が一音

 いろんな音が 私のメロディとなって 響き奏で始める

 届けたい想いを 形にする言葉を見つけるため 何度も通った

 図書館には 言葉があふれている 

 一冊一冊の様々な文章が 頭の中で新しい文章へと変換されていく

書き留めたメモ帳は 今何冊目になったのかも 覚えてない

♪」


この歌は、次の歌を作っていく過程をそのまま歌にしたという歌。

ひとつの歌ができるまで、本当に考えて、考えて、そして私たちの心に届く歌になっているんだなあと、感心した歌。


ちか

「♪

  たくさんのメロディ 多くの言葉が 私の中で回る回る

  ひとつの形にしたいのに うまくピースをはめこむことができない

  そんなときは 特別な場所 あの公園で 私は夕日を眺める

  そんなとき 響いてきた 私の歌

  私の歌に 寄り添ってくれる人がいた

  私の歌を 好きでいてくれる人がいた

  そんな思いが 私の中で 

  たくさんのメロディと 多くの言葉を

  たったひとつの歌にしてくれた

♪」


ん?!

少し会場がざわめいた。

今、歌詞が、増えていた?!

この歌は、2番で終わるのに、今3番と思われる歌詞があった。

ざわめいた会場は、ただ、そのメロディと歌詞に引き込まれ

すぐにその新たな歌詞に耳をすませた。


ちか

「♪

   次の歌は 誰の歌 次の歌は 私の歌

   次の次の歌は 誰の歌 次の次の歌は 歌は・・・


   みんなへの歌~~~~~~!!!

   

   でも いつか歌ってみたい 歌いたい次の歌は・・・

   あなたへの歌~~~~~~~~~~~!!!!

♪」


ロングトーン

1,2,3,4,5,6,7,8,9,10・・・20・・・30・・・40、

50秒!!


そして、広い、広いドームは、それを忘れさせるほどの、静けさに包みこまれた。

しかし、それは、先ほどのロングトーンに比べれば、ほんの10秒。

ちか「はあ・・はあ・・はあ・・・。」

訂正。会場は、ただ、ボーカル・チカの息切れのブレス音が聞こえていた。

まるで、それさえも、歌なんだと思ってしまうほどに。

ちかが、顔を上げて、笑った。

その瞬間、(こういうときに使う表現なんだろうなと思うほど)割れんばかりの拍手と歓声に盛り湧き立った。

先ほどの3番の歌詞にも驚いたが、最後の歌詞にも驚かされた。


“でも いつか歌ってみたい 歌いたい次の歌は・・・

 あなたへの歌~~~~~~~~~~~~~~~~~~“


大村「あの子らしい詞。」

そう言って見つめる彼女の目は、とても優しい。


今までなかった歌詞が、急に出てきたことで、どんな反応がくるんだろう。

ちかの中には、そういう思いは全く・・・・なかった。

彼女が心から湧き出た詞だからこそ、それはみんなの・・・いや、あの人に届くだろうと核心として確信していた。

ちか『だって、この詞を導き出してくれたのは、あの人だから。』

3番の歌詞への思いが強くなり、思わず出てしまったロングトーン。

結果として、それは、多くの観客の心へと響くものとなった。


歌は、発表された時点で完成していると思っていた。でも、こうして、新たな歌詞を得て、歌全体のイメージやテーマが変わっていくことがあるんだなあと感じる。

でもそれも当然かと思う。だって、この歌は、成長してく”あすこそ”の歌ができる軌跡のような歌なのだから。これから、まだまだ続いていく音楽活動の中で、この歌は変わっていくのだろう。

そんな、評論家然とした感想を抱いてしまったが、この盛り上がりこそが、この詞が持つ魅力なのだと感じた。


評論家・・?そういえば、このSシートにいる人たちみんな、有名な歌手やアーティストや著名人などなど・・・ということは、俺がチケットもらったきくのさん・・・彼女は一体何者なんだろうか。

ひさと「そもそも、俺にチケットを渡して、こんなすごい席に招待してくれるなんて。」

きくのさんにお礼を言うという目的があることを、なんとか思い出せた。コンサートに夢中になるにつれ、目的がひとつ頭の片隅に追いやられていたみたいだ。

周りを見渡す。会場はもちろん暗くなっており、顔の判別も遠くになると難しい。でも、今のところきくのさんは見当たらない。

ひさと「まだ、来てないのかな。」

Sシートには、いくつかの空席があり、まだ来場していない方がいてもおかしくはないなと思う。それよりも、こんな席に座るきくのさんのことを考えると、緊張していく。

ひさと「あんなに、親しげに会話していたけど、ほんとうはすごい人だったら・・・。ちゃんとお礼を言えればいいけど。」

大村「大丈夫ですよ。」

ひさと「えっ?」

大村「あなたが考えている彼女は、そのままですよ。裏と表の切り替えなんて、ほんとはそこまで器用じゃないので。」

ひさとは、動揺する。

大村「ちかさんのことですよ。」

ひさと「・・・・はい。」

ひさとは気づいた。この人が話しているのは、今目の前で歌い上げている”ちか”さんのことなんだと。

俺が考えていた、”きくの”さんとは別の人とのことなのだと。

ひさとは高まっている鼓動を少し落ち着かせると、

ひさと「ちかさんは、そういう方なんですね。」

大村「ええっ。ほんとにそのまま・・・。だから、いいんです。」

ひさと「ちかさんの雰囲気や歌声、ほんとにきくのさんにそっくりだ。」

大村、ひさとから顔を背ける。そして、口元を押さえて、苦笑い。


きくの『絶対に、ひさとさんに、変なこと言わないでくださいね。』

開演前に、再再度そうやってくぎを刺されていたのに、つい言ってしまいそうになってしまった。

大村「ふーーっ。」

軽く息をはく。少し高鳴った鼓動を抑える。

ひさと「大丈夫ですか?」

大村は、ひさとの方へ顔を向けた。こちらを見て、心配そうな目を向けている。

こちらは、全く別の理由で顔を少し背けただけなのだが、それをこうして心配してくれるなんて・・・。

大村「ええ。大丈夫ですよ。公演が順調に進んで少し安心しただけです。ありがとうございます。」

ひさと「そうですか。」

心配そうな目からほっとしたような目へと変わったひさとを見て、大村は改めて感じていた。

大村『本当に安心しました。ちかが、きくのとしてあなたと出会って、あなたを気にかけて。

ひさとさんが、あの子の言うとおりの人で安心しました。』


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