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[台本]あの頃に聞いた恋の歌は、(仮題)  作者: みっきー・こえパラ
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私の席、ここで合ってますか?

ひさと「こんなに、入手困難なチケットを・・・。もしかして・・。」

ひさとは、思い巡らす。

きくのさんとの出会い、そして、好きな歌での意気投合。何よりあの歌声のプロ感。

ひさと「まさか・・・。」

ある可能性へとたどり着く。

ひさと「“あすこそ”の、ファンクラブに入っている・・・・。だから、あんなに歌が本物っぽかったり、チケットを入手できたりできるのでは・・。でも、こんなチケットをいただいて、何もお礼もできなかったな。今度会えたら、しっかりとお礼を言おう。」

そのひさとの想いは、のちのち、思いもよらない形で実現することとなる。



一方のきくのは、あの公園からの帰りからずっと、胸のドキバクが止まらない。

きくの『緊張したよ。緊張したよ。めっちゃくっちゃ緊張したよ。』

チケットを渡したとき、初めてあんな近くでまさとを見てしまった。

きくの『でも、よかった。ちゃんと渡せてよかったよ。』


「ライブで、生で、ぜひ聞いてみてください。」


手紙にこめた想いは、本心。

ぜひ聞いてほしいために、6回ほど通ったが、いずれもひさとには会えなかった。ライブの日が近づき、もし今日渡せなかったら・・・との思いで向かった7回目の公園で会えた。渡せた。

きくの「来てくれるかな。聞いてくれるかな。」

・・・・・

・・・・

・・・

・・

きくの「ということは、ライブ会場にひさとさんが来るかもってことだよね・・。緊張するよーーー!!!」

きくのの緊張は、まだまだ続きそうである。


『あすこそ』の人気は、ひさとの想像以上に広がりをみせていた。


「♪僕も同じ気持ち君と同じループ感じてる」


イヤホンをした人が、通り過ぎるときに口ずさむ。そして、少し口角を上げている。その様子を見て、ひさと自身も少し口角が上がる。


『あすこそ』コンサート会場であるドームに到着した時の衝撃。人気なのは、分かっていても、本当にどれだけ人気なのかは分からないことがある。しかし、このコンサート会場に集まっているファンの数を目の当たりにすると、改めて認識する。せざるを得ない。

ひさと「大人気だな。」

こういうとき、ブレイクする前から知っていた、気に入っていたグループが人気になったことを、うれしく思ってしまう。

そして、今、ひさとの心に浮かぶのは・・・。

ひさと『“あすこそ”のコンサート初めて・・・。マジで緊張する。』

入場口。

スタッフ「チケットをお見せください。」

ひさとは、チケットを取り出して、スタッフに見せた。

スタッフ「これは・・!!」

スタッフの人が、チケットをじっと見つめる。そして・・

スタッフ「お客様、すいませんが・・。」

ひさと『ええっ!?なに!?』

入場口でこんなことを言われて、内心ドキドキが高まる。

しかし、スタッフの方は笑顔でこう告げた。

スタッフ「このチケットの入場口は、ファンクラブ専用からとなりますので、3番ゲートに行かれてください。」

ひさと「あっ、はい。」

ひさとは、その場をあとにする。

ひさと「はあーー・・・びっくりした。」

そして改めてチケット見る。しっかりと、3番ゲートと書いてあった。

ひさと「緊張しすぎでしょ。」

そうつぶやいて、ひさとは3番ゲートへ向かった。

ひさと『そういうことなら、きくのさんも、3番ゲートから入場するのかな。』

お礼を言うこと。それも今回のコンサートの目的のひとつになっていた。先ほどのスタッフさんのことからも、このチケットは、ファンクラブが入手できるものということ。好意でくれたものだけど、しっかりとお礼をもう一度とずっと考えていた。

 3番ゲート、改めてスタッフの人にチケットを見せる。

スタッフ「はい、ありがとうございます。お席は、こちらになります。」

スタッフの方から紙を受け取る。そこに指定席が記載されている。

ひさと「S-5」

そんなひさとを見送るスタッフらは、あの人誰だろう・・・?という目と、関係者なのかななどという目で見ていたことに、ひさとは気づいていない。


ひさと「あの、すいません。この席はどこですか?」

ドームの中に入って、スタッフの人に座席を確認する。

スタッフ「はい。えっと、S-5!!」

スタッフは少し驚いている様子だった。

スタッフ「失礼しました。こちらです。」

そう言って、先導していく。周りには、コンサート前の興奮が高まっているファンが荷物からタオルを出したり、グッズのシャツに着替えたりしている。

ひさと「席、どのへんだろうなあ。」

そんなことを思いながら、ついていく。そのままアリーナへと入る。

ひさと「ファンクラブだからかな。さすがに席は前の方だな。」

アリーナに入って、ステージ向かって歩いてく。

そして着いた先は、会場のど真ん中だった。

スタッフ「こちらです。」

ひさと「はい、ありがとうございます。」

そう答えたひさとの心は、驚きを通り越しての放心に近かった。

座席Sグループとは、ファンクラブというよりは、関係者席のようである。

あちこちに座っている人、芸能人とか歌手とかタレントさんばかりなんだけど。

ひさと「きくのさんって、何やっている人なんだろう。」

チケットをもらったときには、ファンクラブの人なんだろうと考えていた。いや、ファンクラブの席とは言われたが、これは、すごいところだ。

コンサートの座席と言えば、前後左右の間隔が狭く、座るときには、周りの方の協力あって座るのだが。こちらSグループは、席ひとつひとつがゆったりとした間隔となっていた。ひさとは、我に返り、座席へと座る。あちこちにテレビやネットで見たことある有名人ばかり。

場違い感がすごいことに、緊張が高まっていた。

 コンサート開始5分前。会場の正面大型モニターには、“あすこそ”のミュージックビデオが流れ、あちこちからその音楽に合わせての歌声が聞こえる。

ひさと「みんな知ってるんだな。」

公園で口ずさみ、それに入り込まれた時のことを思い出す。自分だけの世界のように感じてたものが、この会場では広い世界に感じられる。

大村「ありがとうございます。」

左の方からそんな声が聞こえて来た。見ると、青いスーツの女性が席に座っている人たちに向かって挨拶をしていた。長い髪を後ろでアップにしている。メイクもしているがナチュラル。その時、大型スクリーンに、『ままならないままの恋』のミュージックビデオが流れ始めた。その歌が聞こえてくるだけで、ひさとの心が震える。自然と、口ずさんでいた。

ひさと「♪いつも一緒なのに

    ♪いつもいつも一緒なのに

    ♪素直って言葉がどこかに飛んでいく

    ♪一言伝えたいだけなのに

    ♪ただただ想い伝えたい・・・なのに

    ♪一歩は前に進まず、後ろにしか進んでくれない

何度も聞いた歌のはずなのに、この場で聞いているだけで、さらに心に響いてくる感じに、ひさとは心躍った。だから、近づいてくる人にも気付かなかった。

大村「♪恋は始まらないまま停滞中

    ♪想いは伝わらないまま胸の奥

    ♪奥の奥の奥の奥

    ♪そんなこんなでままならないままの恋

ひさと、左を見る。そこには、先ほど挨拶をしていた女性がいた。そして、口ずさんでいた。

あの時と同じように。

大村「そうか。こういう感じだったので、あの子。それはうれしかったでしょう。」

スクリーンを見ながらその女性がつぶやいた。そして、ひさとの方へ振り向く。

大村「こんにちは。」

ひさと「こんにちは。」

条件反射的に挨拶を返す。

そして、じっと目を見つめられる。

そのまっすぐな目で見られて、ひさとは照れてしまい、目をそらす。

大村「あっ、ごめんなさい。つい・・・。いい人に会えたのね。」

ひさとは、その一言の意味が分からなかった。今のところは。

大村「突然変なこと言ってごめんなさい。だから、もう一言だけ言わせてくださる。」

ひさと「は・・い??」

大村は、ひさとの方へ体を向けると、一礼した。

大村「ありがとうございます。」

ひさと「えっ、えっ!」

ひさとが、多少ならずも混乱したところで、


暗転


会場が一瞬の静寂に包まれる。

そして、コンサートの幕が上がる。

(コンサートだから幕はないけども)


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